何が起こってるかなんて、考えずともわかる。けど、どうしてこうなったのかは考えてもわからない。
この人がこんな風にすがりつくように抱き付いてくるなんて、今までになくて。
どうしたんだろうと思いつつも、正直なところ、私はそれどころではなかった。




「と、とと凍矢・・・っ(な、なに、この状況・・・!)」
「・・・!っ、すまない、―――


に名を呼ばれ、我に返った凍矢は彼女の肩を掴み、自身から離した。
言い訳にしかならない侘びの言葉を紡ごうとしたが、の顔を見た途端、言葉が詰まった。
真っ赤に染め上げ、潤んだ瞳で今にも泣きそうな顔。
凍矢は思わずの顔から目を逸らした。


「・・・。さっき言ってた事なんだが」
「っ」


何故このタイミングでさっきの話に戻るんだ、とは思った。
自分がしでかした事を少し後悔した。
次に出てくる凍矢の言葉に期待と不安が合わさって、心臓が激しく鳴っている。


「その・・・、お前の俺に対する想いは・・・、俺がお前に想っているのと同じでいいのか?」
「え・・・」


はっきりしなくて曖昧な表現。
けど、聞き返そうと顔を上げたが見た彼の表情は曖昧なものではなくて。
と同じように顔を真っ赤にし、口元を手で押さえてる様子は照れてるわけであって。
その様子には自分の顔、いや全身が熱くなっていくの感じた。


「あ、え、ええ?だ、だから、それはどういう・・・」
「っ、だから」
「わ・・・っ」


少し苛立った様子で凍矢はの腕を引き、再び腕の中で収める。
そして、早口に言い放つ。


「好きでなければこんな事するかっ」
「・・・!」
「・・・全く、鈍い奴」


照れてる自分の顔を見られたくなくて、の頭を胸に押し付けるように抱き締める。
それがには恥ずかしくて耐えれないという結果になっても。


「は、離してよ(恥ずかしすぎて死にそう!)」
「あ、あぁ」
「ぅ〜・・・」
「・・・・・」


赤みが引いたのが再び真っ赤に染まったの顔。
そんなの顔や反応を見る度に凍矢の中で愛しさが込み上がってくる。
もっと触れたい、そんな欲望にかきたてられる。
戸惑っているを余所に、するりと頬に手を滑らせ、顔を引き寄せる。






「凍矢ー、さっき言いわす・・・」


反射的にが目を固く瞑ったと同時にノックも無しに扉を開けられた。
開けた奴はと言うと、眼前に広がる光景に目を白黒させている。
見知った男とこれまた見知った女が口付けする寸前な状況。
三者共にまるで時が止まったかのように固まっていた。


「・・・オジャマシマシタ」


片言でそれだけ言うと、扉をもう一度閉めた。
部屋には未だ固まりっぱなしの二人がいたが、お互いの中で何かが切れる音がした。
しかし、切れた糸はそれぞれ違うようで。
は敷布団の隣に畳まれている普段使われてない掛け布団の中に潜り込み、凍矢はゆらりと立ち上がった。
そして、おもむろに扉の前に立つと、何の躊躇も無く頑丈な造りの扉を蹴倒す。
反対側の扉の前ではデバガメがまだいたらしく、蹴倒された扉に頭を思いっきり打った。


「何か、言い忘れた事があるんじゃなかったのか、陣?」


にっこりと、普段は笑う事なぞ滅多にしないくせに、ここぞとばかりに笑顔で問う凍矢。
長年の付き合いである陣は、彼がこんな表情する時は怒りが最大値に上がった時というのを知っていた。
を怒らすのも厄介だが、凍矢を怒らすのはその数十倍厄介だという事も彼は知っている。
なんせ、性質が悪いんだから。


「あだだだだ!!凍ってる凍ってる!」
「ほぅ、まだそんな大声が出せるのか」
「待っ、喉はダ・・・っ!!」


無駄な妖気は使わず、確実に急所を狙う凍矢。
喉とついでに口も凍らされ、反論する術がなくなってしまった。
声にならない叫び声をあげ、気を失った陣。

暫くして頭が冷えたのか、陣にかけた呪氷を解いてやる凍矢。
息苦しそうに咳き込む陣を冷たい眼差しで見下ろす。


「わ、わざとじゃないべ!」
「故意でなくても、突然扉を開けるのは関心しないな」
「ぐっ・・・。いやでもまさか、あんな事起こってるだなんて!それに、はなんか怯え切ってるし!」
「明らかにお前が原因だろうが!」
「半分は凍矢の所為だべ絶対!!」
「・・・とうやの、」


言い合ってる二人の会話に混じって聞こえた、低いが女特有の声。
未だ布団の中にいる人物は片目だけ覗かせていた。
その視線に男二人は思わず固まる。


「凍矢のバカー!!陣のアホー!二人とも出ていけーっ!!」


布団を投げ出し、顔を真っ赤にしながらも二人の体を蹴飛ばし、廊下に追いやったところで、凍矢が壊した扉を持ち上げ、めり込む勢いで扉を閉めた。
締め出された二人はというと、上体を起こし、呆気に取られた様子で扉を見つめる。
その後、部屋の中から喚く声が聞こえたのは言うまでもないだろう。


「あーあ、泣いちまった」
「というか此処、俺の部屋・・・」
「まーまー、今日ぐれー俺の部屋に泊めてやるだよ。んでもって、懺悔でも聞いてやっぺ」
「どういう意味だ」
「あと、ヤりそびれた心境とか?」
「・・・いい加減にしろ」


青筋を立て、低く唸るように言っても、陣は悪びれた様子はなく、腕を頭の後ろに組んだ。
今にも口笛を吹きそうな陣にはらわた煮えくり返るが、何も言うまいと固く口を閉ざした。

翌日、お馴染みの面々がにやつきながら凍矢に質問責めしてる光景があったとかなかったとか。







ほぁー、なんとか無理矢理くっつけたんだけども。
ちゅーは次の話で出来るかな、かな?
(2010.12.18)



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