凍矢達が魔界に行ってから早数ヵ月
。
はなんとか調子を取り戻せたものの、心の何処かに穴が開いたような焦燥感に陥っていた。
幻海はある程度放っていたが、雪菜は執拗にの事を心配していた。
泣きそうになるところを堪え、必死にいつもの調子になろうと試みるが、どうしても乾いた笑顔になってしまう。
自覚済みであるからこそ性質が悪い。それを直そうとしてまた余計に無理してしまうのだから。
数日したら蔵馬かコエンマがきっとまたこの寺に訪れる、そう思ったが彼等は此度姿を現す事はなかった。
訪れたら自分も魔界に連れて行ってもらおうと思ってたのだ、は。
しかし、時折、魔界に行きたいという考えが遮ってしまう事がある。
それは、凍矢が彼女を連れて行こうとしなかったという背景にあった。
連れて行かなかったのは付いてきて欲しくなかったという事。そう考えてしまうと余計には塞ぎ込んだ。
・・・が、
「(・・・でも、さぁ)」
途端、の体から異様なオーラが出てきた(ように見える)
明らか怒りに満ちてる顔で持ってたクッションを壁に叩き付け、以下のような事を思う。
やっぱり黙って行くなんて酷いよ。
つか、嫌なら嫌だって言ったらいいじゃん。
・・・言われたら傷付くだろうけど、私。でも、黙って行かれるよりかは!
そういえば、凍矢って昔からあんな感じだった。
少し危険な任務や大切な事は絶対に黙ってたもん。全部凍矢のお師匠さんから聞いたんだから!
いつもは私も黙ってきてたけど、もう今回は黙らない!
けど、どうやって魔界に行こう。
・・・・・。
+
魔界都市、癌陀羅。
「なぁ、凍矢。を人間界に置いてっても良かっただか?」
「その方がアイツの為だ」
魔界に来てからというものの、陣はしきりに凍矢にの事を聞く。
幾度も同じ質問を受けているが、その度に凍矢は同じ答えを答える。自分を言い聞かすためにも。
陣は未だ納得してないが、責めても仕方ないとわかりきっているのか、それ以上は言わなかった。
二人は各自室に戻る途中の十字路で別れた。
凍矢は先ほど陣が言ってた事が頭から離れない。
というよりも、誰が言おうが言わなかろうが、きっと同じ気持ちでいただろう。
正直、想いがここまで深くなっているとは、彼自身気付かなかった。
が、幼少の頃に女として生きていくであろう人生を奪った事に罪悪感を感じ、同時に彼女を不憫に思った。
だから、これからは人間界で楽しく過ごしてくれればと思い、無理矢理にでも置いていった。
いつも、自分の後を追いかけてきていたから。
凍矢は自室に辿り着き、扉を開け、
「・・・・・」
閉めた。
何かの見間違いか、と凍矢は思った。
そこにあるはずのないものが視界に入り、思わず戸を閉めたのだ。
再度自分の部屋である事を確認し、もう一度扉を開ける。
「・・・・・」
しかし、やはり見間違いなどではなく、先程と同じ光景が広がり、思わず肩を落とした。
ちゃんと畳んでおいた寝床を広げられ、その上に横たわっている人物の傍まで歩み寄る。
何故ここに、という疑問は本人の口から聞くべく、起こそうと体に手を触れようとした時、ガシッと腕を掴まれた。
「捕まえた」
驚愕している凍矢をよそに、のそり、と凍矢の腕を掴んだままは起き上がる。
「私の姿見るなりドアを閉めるなんて酷いなぁ。そんなに私の事嫌い?」
ケラケラ、と笑い声混じりには言う。
その後、パシン、と乾いた音が室内に短く響いた。
油断していたのか、凍矢は一瞬、何が起こったのか理解出来なかった。
気付いた時にはさっきまで笑っていたの表情が冷たく凍り付いていた。
「なんで、何も言わずに行っちゃうの?なんでいつも置いていくの?」
「それは・・・」
叩いた手の痛さより、叩かれた頬の痛さより痛かったのは自分自身の心。
ずしり、と重圧にも似たその痛みがなんなのか、二人にはわからなかった。
「お前は・・・人間界にいた方がいいんじゃないかと思って」
まるで観念したかのように凍矢が口を開いた。
その答えには目を少し見開く。
「なに・・・言ってんの、凍矢。もしかして、私が人間界での生活が楽しいとか言ったから?」
肯定も否定の言葉も出さない凍矢。けど、それが凍矢なりの肯定の意味だという事をは知っていた。
固く握り締めた拳に力が入る。
「確かに雪菜ちゃん達と離れるのは嫌だったけど、でも」
不意に口籠った。
少し違和感を感じたがあまり気にせず、ただ聞いていた。
そして、決心したかのようには口を開く。
「凍矢と離れるのはもっと嫌」
予想外の言葉に今度は凍矢が目を見開いた。
それはどういう意味なのか、コイツは一体何を言ってるのか、ただ頭が混乱するばかり。
はというと、俯いてるため表情はわからないが、体が震えていた。
だが、必死で次の言葉を紡ごうとするのをやめて欲しかった。
塞ぎたくても塞げない。どこかで期待している自分がいるから。
都合のいいように考える自分に嫌気をさしながらも、の言葉を待っていた。
しかし、
「だって、私」
「・・・言うな」
「え?」
「もういい、。もう、何も言うな」
「凍矢・・・?」
の肩に手をかけ、言葉を制した。
聞きたいが聞きたくない。矛盾した思いが凍矢の中で渦巻く。
それは段々と恐怖に変わっていった。
何かが、壊れそう。
「・・・凍矢の傍にいたいよ」
「言うな、っ・・・」
「だって、私・・・私は、」
「・・・っ」
「凍矢の事が好きだから」
止めたくても止めれなかった言葉。
幻聴か夢であって欲しいと願ったが、先程のの声はいつもと違って芯のある声色だった。
「え・・・?」
否定したくてもしたくない。けれど、目の前にいる女の顔した少女が愛しくなって。
気が付いた時にはその体を抱き締めていた。
夢ならば覚めないで欲しいが、この感触とぬくもりが既に夢でない事を痛いほど思い知らされた。
自分、国語力ないッス。
(2010.11.15)
← close →