「蔵馬さんが言ってた、治癒能力のある子って雪菜ちゃんの事だったんだ」
「はい、少しですけど」
「いやでも、大分マシになったよ」
あの後、蔵馬さんの後について行った私達三人。
雪菜ちゃんに治療してもらってね、という蔵馬さんの言葉に甘え、今に至ってるのである。
未だ折れてるに変わりはないが、痛み自体が段々と抜けていく。
なんていうか、雪菜ちゃん自身にも心が癒されるっていうか・・・。いいな、こういうの。
「さん、ここに住むんですか?」
「多分(家もすっ飛んでしまったし)」
と言ったら、雪菜ちゃんの顔が少し明るくなった。
うん、私も嬉しいよ、雪菜ちゃん。
+
「。腕はどうだ」
「折れてるに変わりはないけど、痛みは引いてるよ」
雪菜ちゃんの治療後、蔵馬さんの薬草入り包帯を巻かれた。
そして、話し合いが終わってであろう凍矢達と合流。
蔵馬さんに呼ばれたのが凍矢と陣以外にも四人いて、その人達とは軽く挨拶は済んでいる。
んで、私もこれから皆と一緒に修行する事となった(ケガが治ってからだけど)
「んでも、なしてまで修行に参加するだ?」
「別にいいじゃん。技だって使いこなせてないんだから」
「へー」
陣はさも興味なさそうに答えた。
技が使いこなせてないってのも理由にあるけど、一番の理由は自分で自分を護りたいから。
だって、そうすれば私はお荷物じゃなくなるでしょ?
想像を絶するほどではないが、かなり厳しい修行に六人はもうバテバテ。
私は見学したんだけど、ホント凄かった。内容が。
ぐったりしてる六人をみて幻海のおばあちゃんが情けない、と言葉を漏らした時は鬼だと思ってしまった。
「はいはい、修行が終わったらコレ飲んでくださいね」
そう言って蔵馬さんが緑色の液体が入った器を六人に配る(なんか、ドロドロしてる)
も飲んでみる?と言われ、なんか遠慮出来なかったので飲んでみる事に。
「う゛・・・」
口に入った瞬間、強烈な苦味が襲った。
あまりの強烈さに吐きそうになり口元を押さえたら、更にその上から蔵馬さんの手が覆われる。
「吐いちゃ駄目だよ。の場合、医療用の薬草も入れてるんだから」
出来る事なら今すぐ洗面所かトイレに行って、口の中に残ってるもの全て吐き出したい。
けど、蔵馬さんの手で押さえられてる以上、それは叶わなかった。
決死の思いで少しずつ飲み込み、全てを飲んだ頃にはそれだけで倒れそうになっていた。
「にが〜い・・・」
「良薬口に苦し、てね」
「(良薬・・・なのかな)」
周りを見てみれば、意識が飛んでる人達がちらほら。
凍矢がピクピクと体を震わせてるのには笑えた(陣なんて卒倒しちゃってるし)
朝昼晩、同じものを飲むように、と言われた時には全員、金縛りにあったかのように固まってしまった。
そして、朝昼晩飲み続けたおかげかは知らないけど、私の腕はほんの数週間で完全にくっついたのだった。
蔵馬さんの下では妖力値を上げる修行(?)をして、その合間に凍矢と技の修行をする。
一応、私の師匠は凍矢だから。
けど、修行をすれども、思い通りには行かない。
「何度言ったらわかるんだ、お前は」
「おししょーさん、目が据わってるよ」
「真面目に聞け(ゴンッ)」
「いたーい!」
どうもお師匠さんは私を殴るのが趣味みたいで。
殴られた頭をさすりながら軽く睨みつけても、やった本人は悪びれた顔はしていない。
「どうもお前はこの技だけは苦手みたいだな(ポゥ)」
「んー・・・(ドンッ)」
「だから、誰がでかい弾作れと言った」
「人にはね、不向きというものがあるんだよ、凍矢」
「・・・(ふっ)」
ちょっとした冗談を言ったら、見本として見せたであろう氷の粒をそのまま私に飛ばして来た。
ピシ、ピシッと顔に鋭い痛みが走る(といっても、一つ一つの弾は軽いけど)
「いた!いたた!ちょ、それ飛ばさないで!てか、痛いってば!」
「妖気のコントロールが出来ないんだろうな、は」
「なんかさ、ぶわーっと来るんだよ、ぶわーっと。それで大きい弾作っちゃったりして」
「上手く力を分散する事を覚えるんだな」
「はーい」
とは言われても、中々出来ないのが現実であって。
何度手の平の上で氷の粒を作ろうとしても、凍矢みたいに小さく出来ない。
いや、出来るには出来るんだけど、凄く時間がかかってしまう。
ま、今はそんな事よりも、
「・・・何を笑っているんだ」
「え?笑ってた?」
どうやら無意識に笑ってたらしい。
だって、久々だもん。凍矢と一緒に修行するのって。それが嬉しくて。
「人間界に来てから初めてじゃん、修行するの」
「そうだったか?」
「そうだよー。来たばっかの頃は凍矢がケガしてたし、前の家では凍矢、陣とばっか鍛錬してたしで」
「・・・言われてみればそうか」
「うん。だからさ、また凍矢が私の技とかを見てくれる事になったのが嬉しくて」
最後の方はちょっと恥ずかしくなって目線を逸らした。
本当は凍矢と一緒にいれる事が何より嬉しいから。
不意に頭を撫でられ、視線を上にあげる。
「相変わらずだな、」
そう言った凍矢の顔は月明かりに照らされて、普段浮かべる事のない微笑みを浮かべていた。
・・・その顔、反則だよ。
凍矢の顔を見た瞬間、私の顔に熱が篭った。
その後すぐ、月が雲に覆われてよかった。
きっと、私の顔は今、今までにない以上赤いだろう。
けど、顔は見られなくても、この静寂の中、高鳴っている鼓動が聞こえるんじゃないかと思わずにはいられなかった。
私はこんなにも凍矢の事想ってるのに、凍矢は私の事、弟子、良くても妹のようにしか思ってないんだろうな。
そんな、嬉しさと恥ずかしさ、そして虚しさや悲しさなどが私の中で複雑に絡み合っていた。
「戻るか」
「・・・うん」
でも、いいんだ。
凍矢が私の傍にいてくれれば、それだけでいいの。
それに、壊したくないしね、この状況を。
だから、今はこのままで・・・いたい。
あれ、切なめで終わっちゃったよ・・・。
(2010.7.30)
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