その日はいつもどおりの日だった。
いつもどおりに凍矢が先に起きて、が数分後に起きて、陣が寝てる間にが朝御飯を作って、凍矢が陣を叩き(蹴り)起こして、三人揃ったところで朝御飯を食べて。
そして、昼前に陣と凍矢が鍛錬しに行くと言って、いつもどおりには小言を言われてから留守番を任されて。
なんら変わりもなかった日常をが送ってた時、それは突然訪れた。
ピンポーン
「(誰か来た。・・・けど、無視無視)(出ると凍矢煩いし)」
だが、無視し続けても執拗に鳴り続けるチャイム。
奇妙に感じながらも、それでもは無視し続ける。
「(も〜、しつこいな〜。・・・ん?)」
不意に鳴り続いてたチャイムが鳴り終わったと思えば、今度は激しくドアを叩かれる音が。
只事ではないと感じ取ったは臨戦状態に入る。
途端、ドアが打ち破られた。
そこからぞろぞろと妖怪が侵入してくる。
「(ひぃ、ふぅ・・・、6匹)」
少しして、窓ガラスが割れる音も聞こえた。
「(合わせて・・・、え、)」
力こそは自分よりも弱いかもしれない。が、
「多すぎでしょ、コレ・・・」
明らかに自分より図体のでかい妖怪が20匹以上。
よくもまぁ、家に入れたもんだと感心している場合じゃないという事は流石のだってわかっている。
奴等の目的がわからないまま唖然とする。
の周りを囲んだ妖怪達は下卑た笑みを浮かべながら近付く。
「中々の上玉じゃねーか、嬢ちゃん?」
まるでそれが合図かのように周りの妖怪達が襲い掛かって来た。
は無駄に妖気を使うまいと、軽やかにかわしていく。
魔忍の中でも一、二を争うほどの素早さの持ち主であるにとって、この程度の事はなんて事なかった。
だが、あまりの執拗さに耐えかね、妖気を放った。
次々と氷付けになっていく妖怪、だが、
「あれ?」
氷付けに出来たのは僅か半数で、残りの者が氷付けにする事が出来なかった。
予想外の敵の強さに冷や汗をかく。
「ほぅ、呪氷使いか。能力までもが上玉だな」
流石にヤバイかも。
は心の中で舌打ちを打った。
「なぁ、凍矢」
「なんだ」
「今って、うちには一人だよな?」
「あぁ、それがどうした?」
「んにゃ、どうも風が騒がしくてだな・・・」
「・・・行ってみるか」
激しい攻防のため、家は崩れ、原形をとどめていなかった。
氷付けに出来なかったうち、数匹は倒したが、複数相手に苦戦する一方である。
「(魔笛霰弾射さえ出来れば・・・!)」
先程から手の平に氷の粒を作ろうとしているが、上手く出来ない。
仕方なく片腕で氷の剣を作り、それで戦っているのが関の山だ。
「ぐっ、このアマ・・・ッ!」
「オイ、傷を付けるな!価値が下がるだろうが!」
「けどよぉ、中々手強いぜ、コイツ」
「あぁ、そうだな。・・・だがな、所詮は男と女の力の差よ」
パキ・・・ッン
「なっ・・・」
が振り落とした剣を白羽取りされ、そのまま腕ごと折られた。
武器を失ったショックと強烈な痛みで油断したのか、首を掴まれ、壁に縫い付けられた。
「ぐっ、ふ・・・!」
「やぁっと捕まえたぜ」
「殺すなよ?」
「わかってるって。気絶する程度に抑えといてやるよ」
「(凍矢・・・っ)」
バタバタともがいてみても、余計に相手の手が首に食い込む。
苦しさのあまり、動く事すら出来なくなってしまった。
「と、や・・・」
力なく呟いたその時であった。
ドドゥッ!
「ぐぁっ!」
の首を掴んでいた妖怪が何かに撃ちぬかれたような音を立てた後、倒れこんだ。
それと同時に首を掴んでた手が離れ、急激に酸素が入って来たからか、咳き込んでしまう。
「そいつに何をした」
狙撃してきた方を見やれば、そこには静かに怒りを露わにしている凍矢と陣が。
その凄みに狙撃されなかった残りの者はヒッ、と声をあげた。
「じ、陣に凍矢だぜ」
「オイオイ、聞いてねーぞ」
妖怪達はその場を逃げたい気持ちでいるにも関わらず、そこから一歩も動こうとはしない。
いや、動けないでいるのだ。
それを陣と凍矢が許さないのだから。
「もう一度聞く。・・・そいつに何をした」
「ま、見ただけでわかるけどな」
「あ、う」
次の瞬間、これまでに生きていた者は皆、肉の塊となった。
はそこで意識を失った。
「、!」
「う、・・・とう、や・・・、じん・・・?」
「大丈夫か、」
「・・・うん、なんとか生きてるよ」
「はぁ〜、よかっただぁ。オメ、ちっとも起きねぇから心配しちまったべ」
そう言ってを抱きかかえる陣。
すると、は今までにないぐらいの大声をあげた。
「痛いッ!!」
「!・・・?」
「わ、わりぃ!どっかケガして・・・、!」
陣は慌ててを降ろし、反応のあった右腕を見る。
見た瞬間、二人共息を呑んでしまった。
の右腕の肘から手首までの丁度真ん中あたりが青紫色に腫れあがっている。
「腕・・・、折れてるの」
痛みからか、やられた悔しさからか、唇を噛み締めながらそう呟いた。
手当てをしようにも、家はすっ飛んでしまい、手当ての道具等も粉々になっていた。
そこで、その辺に落ちている木の枝を添え木の代わりとし、自分等の身を纏っている衣服を細く裂き、それをの腕に巻きつける。
「・・・ごめんなさい」
「何を謝る必要があるんだ」
「そうだべ。寧ろ、を一人で留守番させた俺達の方が悪いべ。・・・ゴメンな」
の手当て中、気配を消して近付く者が一人。
「なんか、色々あったみたいだね」
「!蔵馬・・・」
突然の訪問者にタイミングもあってか、三人は驚きに満ちている。
「これは・・・、当分住むとこないね、君等」
「なんとかしてみせるだ」
「もしよろしければ、幻海のところで修行しませんか?」
「修行・・・だと?」
「も大怪我してるみたいだし、幻海のところに治癒能力のある子に治療してもらうのも兼ねて。俺の薬草もあるし」
蔵馬の提案に顔を見合わせる三人。
「悪い話じゃないだろう?丁度家も失ったみたいだし。それに、強くもなれる。もお望みならば、ね」
「・・・そうだな」
「凍矢」
「離れたとこで修行してて、今日みたいな事、もうなりたくないべ」
「陣」
「じゃぁ、決まりだな。詳しい事は向こうに着いて、全員揃ったらね」
こうして三人は蔵馬の誘いに乗る事となったのだった。
うん、なんだこれ。
恋愛要素の無さに涙が出てきました。
(2010.7.30)
← close →