魔界に帰るタイミングがずれにずれ、結局人間界に滞っている魔忍三人組。
人気のない森でと凍矢と陣の三人は生活していた。


「とーや。さっきね、ぼたんちゃんが来て、遊びに行こうって言われたんだけど、行ってもいい?」


鍛錬から戻って来た早々に言われた凍矢。
現時刻は昼の一時を回ったところで、時間的には問題はない。
だが、外の世界をあまり知ってないを行かせるのも、と思う。


「・・・駄目だと言ったら?」
「えー・・・」


さも不満気にふくれる
その表情はどこか、しょげてるようにも見える。


「っ、わかった。行ってこい」
「ほんと?」
「ただし」


の顔が嬉しそうになったのも束の間、凍矢は行くにあたっての条件を出す。


「日が暮れるまでに帰ってこい、知らん男についていくな、知ってる男にもついていくな、周りを氷付けにするな、(くどくどくど)」
「・・・じーん、なんとかしてー」
「まぁまぁ。最初の四つだけ守ってりゃいいべ」
「今言った事全部守れ。陣は余計な口出しするな」
「凍矢は少し心配し過ぎだべ」
「余計な口出しするなと言ったろう」
「陣の言う通り、凍矢は心配性だよっ。留守番する時もめっちゃ言われたし」
「そんな口の利き方は一人前になってからな」
「ぶー」


凍矢にしつこく言われながらも、やっとの思いで出発出来た
少し不満な気持ちを抱えて。











一足早く待ち合わせ場所に着いた
ぼたんが言うには、螢子と雪菜も来るとの事で、は浮き足立っている。
そんなを通行人は物珍しそうな目で見やる。


「何だ?あの娘・・・」
「変わった格好ねぇ」
「でも、かわいー」


に聞こえないようにと小さな声で呟く通行人達。が、には全て聞こえている。
の今現在の格好は、いつも着ている忍び装束。人間の観点からすると、変に分類される。


「(うぅ〜・・・。そんなに変なのかな、この格好・・・)」
ちゃん!」
「ぼたんちゃん!螢子ちゃんも」
「ゴメンね、待った?」
「ちょっとだけだから大丈夫。雪菜ちゃんは?」
「一緒じゃないけど、多分、もう少しで来るよ」


三人は少し遅れている雪菜を待つ事にした。
そして数分後、雪菜が小走りでやって来た。


「すみません、遅れてしまって」
「いいよいいよ」
「本当にすみません。支度に時間がかかっちゃって・・・」
「(うわぁ・・・。螢子ちゃんとぼたんちゃんも可愛いけど、雪菜ちゃんも可愛い)」


が関心する雪菜の格好はと言うと、上品な長めのスカートにカーデガン。そして、髪は上に結ってある。
同じ妖怪なのに、と気持ちが沈んでしまった。


「ねぇ、やっぱこの格好って、変かな?」
「そうやねぇ・・・。ちょっと言い辛いけど、人間界では見ない格好だからね」
「それはそれで可愛いんだけど、浮いてるっていうか・・・」
「そっか。でも、私、コレ以外の服って、同じようなものしかないし・・・」
「だったら、買いに行こう、ちゃん」
「そうだね!私達が選んだげるよ!」
「え、でも、私、そんなお金な、」
「いいからいいから。そんなの、私が出してあげるって!」
「螢子ちゃんっ」


半ば強引にぼたんと螢子に引っ張られる。それに笑顔でついていく雪菜。





螢子がいつも買いに来ているという服屋に着いた一行。
早速螢子とぼたんはに着せる服を選んでいる。


「・・・雪菜ちゃんの服も螢子ちゃんが選んだとか?」
「はい。螢子さん、センスがいいんですよ」
「そうなんだ」


店内をぐるり、と見たところ、螢子達が着ている服と似たような服が並んでいる。
思わず可愛い、とは思った。


ちゃん!コレ、着てみて!」
「コッチもコッチも〜」


二人に推され、試着室に入る


「この中でコレに着替えればいいの?」
「そう!」
「大丈夫、着替えてる間はこのカーテン引くから、誰にも見られないよ」
「うん、わかった」




数分後(チャカチャカチャカ、チーン)




ちゃーん。着替えれたかい?」
「あ、うん、着替えれたよ」
「じゃ、開けるねー」


シャッ、と勢いよくカーテンを開ける。
中から現れたのはレースの付いたワンピースを身に包んだの姿が。
髪の色を除けば、その姿は人間そのものである。
螢子は即行でが今着ている服を買い、他にも何着か買ってあげた。







小腹が空いたので、一行は通りがかった喫茶店に立ち寄った。


「螢子ちゃん、ありがとう。服、色々買ってくれて」
「いいのよ。それより、私、大好きなの。可愛い女の子を更に可愛く着飾らせるのって」


嬉しそうに螢子はと雪菜を交互に見やる。


ちゃんも妖怪なんだよね?蔵馬さんみたいに植物を扱うとか?」
「私は呪氷使いって言ってね、氷を扱うの」
「そういえばちゃんって、あの凍矢の弟子なんだってね」
「うん。でも、物心ついた時からずっと一緒にいたからか、師匠って感じ、全然しないんだけどね」
「呪氷使いは氷系統妖怪の中じゃ、最も強い方達なんですよ」
「そうなの?」
「そうみたい」


楽しそうに談笑する四人。
にとって、女子と話す事自体無かったから、本当に楽しそうに話す。
別に彼等と一緒にいて不満に思う事はないのだが、やはり、女の子同士の方が気が楽というもの。
特に雪菜とは同じ氷系統妖怪だからか、話が合う。


「で、で?ちゃん」
「なーに?」
「凍矢とは師匠と弟子の関係みたいだけど、恋仲ではどうなんだい?」
「・・・(ボッ)」


ぼたんの問いかけに真っ赤になってしまった
それを若干、にやついた顔で見る螢子と、よくわかってない雪菜。


「あらあら、赤くなっちゃって。うぶいねー」
「わ、私、凍矢とはそんなんじゃ・・・。本当に師匠と弟子ってだけで・・・」


はしどろもどろに弁解する。
その反応を面白がっているのか、ぼたんは更に問いただす。


「じゃぁ、ちゃんは凍矢の事好きなのかい?一人の男として、さ」
「え、えっと、その、あの・・・、う〜・・・」
「もう、ぼたんさん。確かにちゃんは可愛いけど、いじめちゃ可哀想でしょ」
「いいじゃないさ。それとも何かい?螢子ちゃんが話してくれるのかい?幽助の事とかさ」
「あ、アイツは関係ないじゃない!」
「おやおやおや〜?二人共真っ赤になっちゃって〜。いや〜、青い春だねぇ〜」
「春が青いんですか?」
「ん、雪菜ちゃんは多分、もう少ししたらわかると思うよ」


何故二人が赤くなってるかもわからない雪菜は、ぼたんの言葉を聞いてニコリ、と笑顔を返す。
楽しんでるぼたんを少し恨めしそうにと螢子は軽く睨んだ。


「わ、私の事はいいのよっ。ちゃんの事でしょ、今は」
「ええ〜!螢子ちゃん、酷い〜」


自分に火の粉が降りかからないうちに話を戻した螢子。
そんな螢子にも少し恨めしそうに睨みつける。


「で、どうなんだい、ちゃん?」
「その凍矢って人の事、好きなの?」
「・・・うん、好きだよ」


その言葉を聞いた途端、ぼたんが声になってない黄色い悲鳴を上げた。傍から見れば迷惑である。


「で、でも、向こうは全然、私の事を女としては見てくれてないよ」
「どうして?」
「だって、凄い子供扱いされる。実際、私ってまだ半人前だし」
「子供扱いって、どんな風に?」
「なんか・・・凄い心配性なの。煩いの」


二人は『え、何それ』という顔でを見る。


「だ、だって、今日も凍矢が陣と鍛錬に行くから留守番してたんだけど、外に出るなとか、万が一誰が来ても無視しとけとか(実際、ぼたんちゃんは無視出来なかったけど)(あの後、怒られた)、出掛ける前にも、日が暮れるまでに帰ってこいとか、知らん男についていくなとか、知ってる男にもついていくなとか、周りを氷付けにするなとか色々言われたし・・・」
「それって・・・」


ちゃんに悪い虫が付くのを心配したんじゃ、と、螢子とぼたんは顔を見合わせる。
それにしたって確かに過保護気味かも、と二人は思った。


「特に男の人関連ではもう耳にタコが出来ちゃったよ。煩いもん。知らない男に付いていくなとか、話し掛けるなとか」


どうもは凍矢がどんな思いでそのような事を口にするのかがわかってないらしい。
こりゃぁ、凍矢も苦労するやね・・・、と凍矢に同情した。











あれから数時間も談笑し、気付けば夕方の時刻になっていた。
日が暮れるまでに帰ってこい、と言われたは慌てて三人と別れた。
帰っていく途中、今自分が着ている服を見つめる。


「(可愛いけど、凍矢達に見られるのはちょっと恥ずかしいかな)」


は茂みの中に隠れ、手早くいつもの忍び装束に着替えた。


「ん、やっぱりこの格好の方が慣れてるし、動きやすい」




そして、自慢の速さであっという間に家に着いた
少し日が暮れちゃったけど大丈夫よね、と思い、戸を開けた。

そこには、般若がいました。


「ひぃ!?」
「随分と遅い帰りだな、?」


般若、もとい凍矢は静かに、いつもより低いトーンで言う。


「・・・少しだけじゃん、オーバーしたの」
「俺は日が暮れるまでと言った。言い訳は聞かん」
「だ、だって・・・」


その迫力と威圧に押し潰されそうになる
体は小刻みに震え、俯いたその目には僅かに涙を浮かべている。


「凍矢凍矢。が怯えてるっぺ」
「陣は黙っとけ」


唇を噛み締め、涙が零れるのを懸命に防ごうとする。
凍矢はそんなを知ってか知らずか、近付く。
近付いてくる気配に怯えを隠せないだが、後ずさろうにも体が動かない。
一歩ずつゆっくりと近付く度に体が震える。そして、目の前にまで来た時には目を固く閉じた。
しかし、次に襲い掛かった感触はあまりに予想外のものだった。


「凍矢・・・!?」


うな垂れるようにの肩に腕を乗せ、更にその上に自分の頭を乗せ、深い溜め息を吐く。
状況の整理に追いつけないはあたふたとしている。


「と、凍矢、どうし・・・!じ、陣、」
「あんなぁ、。確かにちょっちウザいかもしれねーが、凍矢は本気での事、心配してたんだべ?」
「え・・・」
「俺は弟子、持った事ないから凍矢の気持ちが全部わかるって訳じゃないべが、それでもやっぱ、少しわかるべ。俺だってちょっと心配してたぐらいだから、凍矢なんかはもっと、な(まぁ、弟子だからではないと思うけど)」
「・・・余計な事べらべらと煩いぞ」
「本当の事だっぺさ。まぁ、凍矢も凍矢で過保護だし。お互い様だべ」
「ぅっ・・・、ごめん、ごめんなさい、凍矢・・・っ」


陣の話を聞いて、泣きじゃくりながら謝罪する
そんなをあやすかのようにポンポン、と頭を叩く。
その表情は先程とは一転して穏やかなものとなっていた。














「いやー、これ見よがしにラブラブしてんだけど、本人達が無自覚ってのが腹立つべ」
「・・・陣。突然電話してきて何言うかと思えば」
「なぁ、蔵馬。どう思うべ?あの二人。俺的にはさっさとくっついちまえーって思うんだけど」
「そりゃ、本人達の問題でしょ。貴方がとやかく言う筋合いないと思うけど?」
「けどなー、想像してみ?両想いのくせにお互い気付いてなくて、無意識にラブラブされて一人取り残されている俺の気持ちを」
「それ言っちゃったら、お互いが両想いだとわかっても一人取り残されるでしょう、貴方」
「・・・あー、やっぱ腹立つべさ」
「結局、そこに辿り着くんじゃないですか。もう切るよ」
をあぁして、こうして、そうすれば苛立ちも軽減すっかなー」
「ちょっと、陣。良からぬ事を考えないよーに。あと、キャラクター性を考えてください」
「んなもん、知ったこっちゃないべ」









凍矢と陣が思っくそぶっ壊れました。
いやでも、個人的には結構好きなんですが、どうでしょうか?
ていうかコレ、原作で言うとどこあたりなんでしょう・・・。
(2010.7.30)



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