泣きたいほど嬉しくて苦しい。
総悟が力強く、でも優しく抱き締めてくれている。
それだけで私は、





第五話:さぁ、一つの生命を育てましょう





さっきまでいた二人は気を遣って出て行ってくれて、今は総悟と二人きり。
抱き締められてる腕が温かくて逞しくて私を安心させる。
でも、コレだけじゃまだ、


「総悟・・・?」
。・・・今の、本当に言ってるんかィ?」
「本当・・・。本当よ、総悟。私、総悟の子供、産みたい・・・」


一層、総悟の腕の力が強まった。
違う、総悟。言葉で言って。
産んでもいいのか産んだらダメなのかを言葉で。


・・・」
「ん、何?」
「本当に俺の子・・・?」
「総悟以外、いない」
「産んで、くれるんかィ・・・?」
「うん、産みたい」
「・・・、」


ありがとう
確かにそう言った総悟。
あぁ、もういいんだね。産んでもいいんだね、本当に。
総悟。頑張るから、私。
総悟は仕事であんまり会えないかもしれない。


「総悟」
「ん・・・?」
「あのね、コレから10ヶ月間、此処に住むから、中々会えないかも」
「そんなもん、俺が会いに行ってやらァ。なんなら、毎日でも一時一分一秒でも」
「仕事はちゃんとしなさい」
「オメェに言われたかねーや」
「何よぅ」


総悟は腕を離し、私の横に座り直した。
そして、私のお腹にそって掌を乗せた。


「この中に赤ちゃんがいるの。・・・なんか、凄い不思議」
「そうだねィ。一つの生命が産まれるのかと思うと、俺も不思議。しかも、俺の子供だし」


軽く笑って、総悟の手に私の手を重ねる。
ねぇ、あなたは望まれた子だったよ、ちゃんと。
まだ点のように小さいけど、10ヶ月の間に大きくなるんだね。
ちゃんと大きくなって、元気に産まれて来てね。









数分後。


ちゃァァァァァん!!」
ちゃーんんん!!」
「姐貴ィィィィィ!!」


バタバタバタ、廊下がやけに騒々しい。
この声達は、と考えてる間に勢い良く襖が開かれた(オイ、もうちょっと静かに出来ないのか)(どいつもこいつも)
そこに現れたのは息切れしてる退と同じく銀さん、と全く息切れもなんもしてない神楽ちゃん。


「ゼ、ハー、、ハーッ・・・、ちゃ・・・!」
「あの、息整えてください、銀さん」
「ハァハァ・・・。アレ、お邪魔だったですか?」
「思いっきりな」
「姐貴ィ!子供出来ちゃったって本当アルか!?男、女どっちネ!」
「いや、まだ全然わかってないんだけど」
「弟か妹が産まれるアルゥ!キャッホォォォォ!!」
「ダメだコレ、聞いてないよ」


3人はとりあえず落ち着きを戻して、私達の前に座った。


「新八から聞いたんだけど、ちゃん」
「あれ、妊娠しちゃったって本当?」
「・・・本当」
「コイツか!コイツの子供アルか姐貴ィ!」
「うん、そう(なんか照れる)」
「オイ、指差すなチャイナ」
「はー、ちゃんが・・・。銀さんショックだけど、おめでとう」
「おめでとう、ちゃん」
「ありがとう」


嬉しい。総悟だけにじゃなく、こうして銀さん達みたいに『おめでとう』って言ってくれるの。
反対しなかった皆を私は心から感謝してる。妙にも新ちゃんにも近藤さんにも土方さんにも。
土方さんは昨日、一旦帰った近藤さんと一緒に来て、事情を知った。
失礼な話、ダメだと言われるんじゃないかと思ってたけど、土方さんは産んでいいって言ってくれた。
最近、更に煙草を吸う量も増えたってのに、私の前では全然吸っていないのも嬉しかった。


「で、名前は決めたの?」
「いや、それはまだ・・・」
「名前だったら銀二とかは?銀さん二号的な」
「いや、俺の子なんですけど」
「私、さくらちゃんがいいネ!さくらさくら♪」
「あの、」
「いやいや、此処はやっぱり雄太とか」
「ジミーなだけに平凡アルな。漢字一発変換なんてよー」
「なんだとォォォ!!勇敢な子、勇気な子的な感じでいいじゃねェか!」
「いや、『勇』なんて文字、なかったけど?」
「やっぱり銀三郎だって」
「さっきと違うじゃねェかィ」
「さくらちゃん!」
「雄太!」
「銀!」
「「ダメだコレ」」


言い争っている3人をもう放っとく事にした。
でも名前かァ。それは後々決めていく事にしよ。
ちゃんと考えてあげないとね。だって、コレから愛していく子だもん。


「でも、『さくら』か」
「総悟?」
「いんや、チャイナの通りつーのが気にくわねーが、女の子だったら花とかそういう植物の名前とかいいなって」
「女の子だけ?考えるの」
「だって俺、似の娘が欲しい」
「女の子はお父さんに似る方がいいんだよ、知ってた?」
「男だと色んな意味で妬くじゃねーか」
「そうなの?(クスクス)」


私はどちらでもいいけどね。
でも、女の子だったら可愛く育てたいなァ。ホント、モテモテになるぐらい可愛く。
性格は・・・私達の子だからサディスティックになったらどうしよう(今から心配)ま、それは別にいいか。
あ、私も女の子欲しくなっちゃった。
コレで男の子が産まれても、それはそれで可愛く育てよう。総悟だと思って愛情たっぷりと。
いや、総悟と息子の区別くらいはしますよ。
さぁて、女の子でも男の子でもちゃんと育てないと。











−3ヶ月目−

「〜♪」
「あああ、姉上!安静にしておかないと!」
「え、掃除してるだけなんだけど」
「今は流産しやすい時期なんですよ!掃除なら僕がやりますから姉上は横になっててください!」
「・・・つまんない」





−4ヶ月目−

「よぉ、。調子はどうだ?」
「順調です。わ、果物!」
「・・・で、聞きたい事があんだけどよ」
「なんですか?」
「なんでテメェ此処にいんだァ!!」
「あー?いや、新八がちゃん一人にしておけないってんで、万事屋は暫く此処でやる事になったんだよ」
「そうだぞマヨラー。姐貴の前だけ禁煙しても意味無いアル」
「いや、意味あるから!」





−5ヶ月目−

「大分大きくなったねー」
「うん。あー、ミントンやりたい」
「ダメダメダメ!安定期に入っても激しい運動はしちゃダメ!」
「冗談なのにー。で、何持ってるの?」
「『妊娠中の女性達へ』」
「・・・それ、退が買ったの?」
「うん」
「・・・(妙に度胸があるな・・・)」





−6ヶ月目−

「わー、姐貴のお腹大きいアル。触ってもいい?」
「いいよ、どうぞ」
「(ポン)わー・・・。わー、わー」
「・・・(可愛いなぁ)」
「さくらちゃん、いつ産まれてくるネ?」
「命名しちゃったんだ、さくらちゃん・・・」





−7ヶ月目−

「ヤベ、むくんできた」
「もう7ヶ月だからね。むくむのも無理ないわ」
「にしても暑い・・・」
「予定日は確か11月10日だったわね?」
「うん、そう」





−8ヵ月目−

「あぢー・・・。9月の太陽のバカヤロー」
「銀さん、お疲れ様です」
「お、足元気を付けろよー?」
「住み慣れた家です。大丈夫ですよ」
「それでもオメー、足がもつれてこけたらアウトだぜ。ま、このいちご牛乳は貰っとくけどな」
「暑いのに甘ったるいもの飲んで余計喉渇きません?」
「コレが俺の唯一の糖分」
「ハハ、そうですか」
「っと、部屋まで一緒に歩いてやるよ」
「ありがとうございます」





−9ヶ月目−

「いや、おじさんは本当にびっくりしたんだよ?まさか、が総悟の子を授かるなんて」
「とっつぁん、今何ヶ月目だ?もう9ヶ月なんだけど。てか、妊娠したと発覚した時から来たのに今更その台詞?」
「で、女か男かわかったのか?」
「教えてもらってない。染色体がXXだったら・・・」
「あー、もういい。おじさん、そんな難しい話ついていけない」
「ついていけないって・・・。ちょっと近藤さん。このおっさん、どうにかしてください」
「・・・(ぐー)」
「・・・・・」
「なぁ、。やっぱり名前は岩太郎(いわたろう)だろ」
「何そのイモい名前!お前、女には敏感なくせにそこだけはジジィ!?」
「いや、とっつぁん!やっぱり此処は妙で!」
「それだったら、栗子の方がいいだろうが!」
「何でうちの姉の名前!?つか、クソジジィ!どんだけ娘好きなんだよ!」
「「お母さんはそんな汚らしい言葉を使ってはいけません!(クワッ!)」」
「は、ハイ!(びっくり!)」







いよいよ、10ヶ月目(11月3日)
もうすぐ産まれてくると思うと凄く待ち遠しくてならない。
そして、今日は総悟が来てくれている。


「もうすぐだよー」
「確か5日前に入院だったねィ」
「そう。もうすぐ産まれてくるんだよー」
「待ち遠しいなァ」
「私も。ちゃんと産まれてくれるかな」
なら大丈夫」
「ふふ、決まった台詞でも総悟が言ってくれると安心する」
「なんでィ、そりゃ」
「好きだって事よ」
「(あーヤベ、かわいい)」
「どうし、ッ!!」
?」
「っ、はぁ・・・ッ!!」


さっきからちょっと痛いなとは思っていたけど、それとは比べ物にならない痛みが。
まさかと思っても、もう何も考えられない。


「まさか・・・陣痛?」
「っつ、んぐぅ・・・!」
「ちょ・・・、旦那ァァァァァ!!救急車ァァァ!!」


思ったより早く産まれそうだ。









  





次回、遂に子供の誕生&名前決め。
(2007.3.8)