でも、やっぱり知らせなきゃいけないので。
第三話:お母さんはしっかりしなさい
今日も休暇を貰った。
私は休暇を貰ったにも関わらず、外出する。
始めに産婦人科。そこで母子手帳を貰う。
貰った時、母になるという実感がわいて来たけど、妙な気持ちだ。
未だ、自分の腹に生命があるという事からして信じられていないのだ。
だって、小さな自分が小さな生命を育て、その生命を産む。それは、小さな私にとってはそれ以上に大きい事は無い。
母子手帳を貰った私は複雑な思いを抱えながら病院を出る。
そして、次に向かう場所は志村家。
「ただいま」
中はしーん、と静まり返ってる。
妙は寝てるのかな?(仕事上、昼は寝てるみたいだから)
新ちゃんは仕事に行っちゃったかな?(いつも仕事ないくせによく行くよ)
「妙ー、寝てるのー?」
家に入り、廊下を歩く。
すると、なんか焦げ臭いを通り越した異臭が。って、
「妙ェェェェ!!まァた可哀想な卵焼き作ってるのかァァ!?(スパーンッ!)」
「あら、。おはよう」
「おはようじゃなくて、それ!卵!いや、焼けた卵!」
「新ちゃんが待ちくたびれてるの〜」
いるんだ、新ちゃんも。
この二人には話さないといけないんだ。家族だから話さないと。
段々、気が重くなる。
この話を聞いた時、二人はどんな反応するだろう。
二人は優しいから受け止めてくれるかもしれない。そんな考えをする私はずるいのかな・・・。
新ちゃんが泣いているように見えたんで、妙には引っ込んでもらって私が作る。
御飯、味噌汁、焼き魚、普通の卵焼き。朝食の定番メニュー。
「それにしても、いきなりどうしたんですか、姉上」
「そうね。お仕事は?お休み?」
「・・・話があって」
「何?まさかクビになったとか?」
「いやいや、ないでしょう、それは」
「・・・驚いてもいい。でも、受け入れて欲しい事があるの」
「・・・何?」
あまりにも私が真剣だからか、2人まで真剣な表情をした。
緊張する、声が中々出ようとしない。
でも、言わないと。
言わないと、私もこの子もダメになってしまう。
「あのさ、・・・妊娠、しちゃった」
そう告げたら、二人は黙り込んでしまった。
この沈黙が重くて痛くて泣き出してしまいそうで。
そう思ってたら、頬に熱い痛みを感じた(殴られた)
あぁ、当然か。
「姉上・・・」
「・・・。貴女、なんて顔してるの」
「え・・・」
「私は妊娠した事に怒って叩いたんじゃない、貴女が酷く、母には相応しくない顔をしてたからよ」
「妙・・・」
「・・・姉上。それは、・・・本当なんですか?」
「うん、本当・・・。ほら」
そう言って、私の名前が書かれた母子手帳を二人に見せる。
新ちゃんはそれを見て、なんとも言えない顔をした。
妙は、
「コレからお母さんになる人がそんなんでどうするの。・・・どうせ、真選組の人達にも言ってないんでしょう?」
「うん・・・」
「ところで、誰の子なんですか?まさか、やっぱり・・・沖田さん?」
「うん、総悟だよ。他に誰がいるっていうの・・・」
「は産みたいの?その子を、・・・沖田さんの子を」
「産み、たいに決まってるじゃん・・・。この子をどうして殺す事が出来ると?」
殺せない。こんな小さく儚い生命を私は殺せない。
殺し≠ェこんなに恐いものだったなんて、大分前に忘れていた。
産みたい産みたい産みたい。
出来る事なら、総悟と育てたい。
でも、それは私の薄い希望で、総悟が知ったらどう言うんだろうな、て。
堕ろせなんて言われたらどうしよう。
そんなの、嫌だ。反抗してまででも産む。
「さて、と」
「妙?」
妙が庭に出た。
何をするんだろうと思い、見てると一つの落とし穴の方へ進んでいってる。
「近藤さん、出て来て下さい」
「お妙さん!遂に俺と・・・!」
「何バカ言ってるんですか。が大切な話をしたいだそうです」
「ちゃんが?来てるの?風邪だったのに?」
近藤、さん・・・?
昨日の晩からいないとは聞いていたけど、まさか竹槍ルームで寝ていたとは。
じゃなくって、大切な話ってもしかして、
「無理無理無理!絶対無理!話したくない!」
「何言ってるの!こんな重要な事、真選組の皆さんにも知ってもらうべきです!」
「嫌だ!知られたくない!明かしたくない!特に総悟には・・・ッ」
子供のように駄々をこねる。
そうしてると、今度は新ちゃんからの平手が飛んで来た。
わかってるよ。わかってるけど、本当に知られたくない。
いつかはバレる。確実に。それだったら、言った方がいいって事くらい、知ってるよ。
でも、やっぱり嫌なのよ。真実を話したくない。
「どうしたちゃん?なんか病気かかった?」
「近藤さん・・・」
「言えないなら別に」
「いーえ、コレは知っておくべきです」
妙はどうしても私に言わすようにする。
話せるもんなら話したいよ。全てを打ち明けたい。
近藤さんなら明かせる。でも、近藤さんに明かせば必ず皆、総悟にも明かされる。
嫌じゃなくて恐い。とてもとてもとても。
あぁ、いつからこんな弱くなったの私は。
否、人間は脆くて儚くて愚かな生き物だ、子供も大人も。
私はお腹を押さえて深呼吸する。
言わないと。
「近藤さん。コレから私が話す事は驚くかもしれない事実です。・・・聞いて、くれますか?」
「あぁ、聞くとも」
「ありがとうございます。・・・と、その前に洗面所」
「オイィィ!!話す気あんのかアンタはァァァ!」
「待ちなさい、」
「いや、マジで行かせて。もうヤバイ。もう此処まで来てる、来ちゃって、・・・ッ!!」
すぐに台所の流しへ向かって走り出す。
流しまで来ると、安心したのか朝食べたものが胃液と一緒に汚物として出て来た。
出したものの異臭と胃液独特の酸味がまた吐き気を誘う。
近藤さんが心配して来て、私の背中を擦ってくれる。
一通り出すもんを出し終え、口をゆすいでそのままの状態で話す。
「近藤さん。私・・・」
「・・・・・」
「・・・私、妊娠しちゃったんです」
「え、?」
あぁ、酷く驚いてる。無理も無い。部下がいきなり『妊娠した』なんて言ったんだから。
生命の誕生は素晴らしいのに恐ろしい。
まして、自分の腹の中にいるのだからよっぽど。
「ちゃん・・・?妊娠って言った?」
「言いました。・・・本当に妊娠しちゃってるんです。今のがつわりって奴、です・・・」
真実を明かす度に声が小さくなる。
言っちゃった。言っちゃったんだ、私。
人に私の中に生命が宿ったって告げる事はとても難しくて恐い。
恐いと感じるのは、望んで生命を創ったんじゃなくて、創ってしまったという過ぎた事になってるから。
失敗しちゃった☆と同じような感じだ。いつの間にかこうなってしまっていた。
だから、コレも一種の失敗≠ネ訳で。いや、そこまでは思ってない。
でも、総悟が私が妊娠した事を失敗≠セなんて思われたらどうしよう。
一人で産むなんて言っちゃったけど、やっぱり無理だ。
私だけじゃなく、総悟にも望まれた子でありたい、やっぱり。
お前は望まれた子なんだよって、そんな気持ちで産みたい。
お父さん≠烽「るんだよって、言いたい。
「貴方達三人以外、誰も知りません。言ってないんですから」
「・・・そうか。昨日から元気ないなと思ってたらそんな事が・・・」
近藤さんが頭を撫でてくれる。
その大きな手が私を本当に安心させてくれる。
「辛かったろうな、ちゃん。誰にも言えず、一人で悩んで・・・。ゴメンな、気付いてあげなくて」
「いい、んですっ・・・。私がっ、言えなかった私が悪いんですから・・・っ」
「悪くない。ちゃんは何も悪くない。いや、悪いのは最初から一人もいないんだ」
一つの生命が誕生したんだから、と近藤さんは子供をあやすように優しい口調で言ってくれた。
でもゴメンなさい。私、近藤さんじゃなくて総悟にもそう言ってもらいたいんです。
本当、ゴメンなさい。我が侭で酷い私で・・・。
どれだけ私は総悟に依存してるのだろうか。片時だって離れたくないほどにまで至っている。
一つの生命が誕生した≠サう言って貰えて本当に嬉しいです。
嬉しいんです、安心しちゃったんです。だから泣かせてください。
でも、まだ言わなきゃならない人達がいる。
一番に総悟なんだけど、一番知られたくない人でもある。
明かさなくちゃいけない。一番、明かさないといけない人なんだから。
総悟がこの子のお父さん≠ネんだから・・・。
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『生命』は全ていのち≠ニ読んでください(オイ、沖田は?)
(2007.3.3)