に支えられながら医務室に着き、そこで治療受けた後でホテルに戻る。
ある程度時間が経った事と治療を受けたという事でもう痛みは感じなくなっていた。
凍矢とがホテルの部屋に戻った時には陣が既に居座っていた。


「オメ等おせーべ」
「元気ね、陣・・・」
「まーな」


陣は二人を迎えたが、その場でに用事付けて出て行くように促す。
はそれに疑問を抱かずに言われた通り、部屋を出て行った。
数十秒経った後、部屋に鈍い音が木魂した。
陣が凍矢の頭を拳骨で殴ったのだ。
いきなりの事ではあったが、なんとなく理由がわかった凍矢は抗議の声を上げなかった。


「・・・なして殴られたかわかったような面だべな」
「あぁ」
を置いていくんじゃねーよ。オメーが蔵馬に殺せって言った時、アイツどんな思いだったか知ってっか?」
「・・・さぁ、どうなんだろうな」


凍矢は陣の横を素通りし、ベッドに横になる。
殴られた頭がズキズキと痛い。
陣がひっそりと溜息を吐いた時、が戻ってきた。








「陣ー、頼まれたジュース・・・、って何この部屋!空気悪っ、感じ悪っ!」


部屋の空気はピリピリどんよりとしていた。
その空気に似つかない声が部屋に響く。
さっきまで無表情だった陣が誤魔化すように笑顔を作り、明るい仕草でから飲み物を受け取る。
最初は戸惑ったが、いつも通りな彼を見て胸を撫で下ろす。
とたとたと小走りで今度は凍矢の元へ向かう。


「凍矢にもお茶、持ってきたよ」
「・・・あぁ、すまない」


彼もあくまでいつも通り≠セ。
にこにこと屈託の無い笑顔を見ながら飲み物を受け取る。
その笑顔を見る度に凍矢の心は何かで満たされるのを感じていた。
きっと自分がやられた時も、画魔の時と同じ顔になってたんだろうな、とぼんやりと考える。
があそこまで真っ青になって泣きそうな顔だったのを最後に見たのはもう数年前。それは自分の師が敵の手によって殺された時だ。
あの時、の目を覆ったのは単にに見せたくないだけではなく、自分がそんなの顔を見たくなかったのかもしれない、と思い起こす。
まぁでも今となっては自分も生きており、笑顔になってるを見る事が出来ただけでも満足していた。

が持って来た茶に口を付け、一口飲んでみる。
味覚が感じ取ったのは茶独特のしぶい苦味、とは全く違った苦味。
・・・吐き気を促す程の物凄い苦味だ。


「・・・
「ん?」


彼女の顔を見れば、先程までの無邪気な笑顔はなく、代わりに邪気を含んだ笑顔が。
凍矢はそこで確信した。


「何を入れた、何を」
「はて、あたいには何の事やら。別にそんじょそこらにあった薬草を混ぜたとかじゃないよ」


陣の後ろへ避難しながら正直な事を言う
そこで凍矢の血管が切れる音がした。
だんっ、と持っていたコップを乱暴にベッド脇にある台の上に置き、物凄い勢いで飛び起きてに詰め寄る。
勿論、それに素直に捕まるではなく、広い部屋の中を逃げ回る。


もやるだなー」


アッハッハッハと笑い、呑気に何も混入されていないジュースを飲みながら陣は見物している。


「なーんだ、元気じゃない凍矢」
「煩い!その腐った根性、一から叩き直してやるわっ!」


片や余裕の笑顔を見せながらヒョイヒョイと逃げ回る少女と、片や凄い形相で逃げ回る少女を追いかけ回る青年。
例外として見学を決め込んでいる青年の姿も。
なんというか、傍迷惑な連中である。それでもホテルの備品を壊してないあたり、流石と言うところであろう。

激しい鬼ごっこが暫く続いたところで凍矢の様子が変わった。
ベッドの傍で座り込み、腹部を押さえている。


「(ヤバ・・・、やり過ぎた?)」


真っ先にが焦りを感じ、すぐに凍矢の元へ寄った。
顔を伏していて表情が見えず、しゃがみ込んで一声をかけようとしたその時、ガシッと力強く手首を掴まれた。


「捕まえたぞ、


低い声が聞こえたのと同時に凍矢は顔を上げた。
ニヤリと不適な笑顔を見せ、強い眼差しでを捉える。
しまった、と思うも後の祭り。


「だ、騙し討ちなんてひど・・・ッ!」
「お前も似たような事しただろ」
「じ、陣!・・・あれ」


助けを求めようと、先程から見物をしていた陣の方を向いたが、彼はドアの外から顔を半分だけ覗かせていた。


「・・・何処行くの?」
「頑張れ、


バイバイ、と手を振りドアを閉めた陣。
バタン、と無情にも響いたドアの音に硬直する
ぎぎ、とぎこちなく首を動かし凍矢の方を見れば、先程の不敵な笑顔は消えたものの、今度は爽やかな笑顔を見せている。


「(あ、この表情ヤバイ・・・)」
「・・・覚悟しろ、


その数秒後、色気も何もない叫び声が廊下まで響いたのは言うまでもなかろう。





約十分後。
息も絶え絶えになりながらベッドに寝転んでいる
口元は引きつっており、目からは涙が一粒零れていた。


「わ・・・笑い死ぬかと思った(ひくひく)」
「自業自得だ」


凍矢がに行った罰は、彼女の体をくすぐり行為。
は人一倍敏感なのだろう、くすぐりという行為には滅法弱かった。
陣ですら面白がってするぐらいだ。
凍矢はの目に残っている涙を指で拭ってやる。
その行為にの心臓が一回高鳴る。


「・・・凍矢が死ななくて良かった」


ぼそ、と呟いたの声は静まり返った室内によく響く。
その意味は恐らく画魔と一緒だろうと思うと、不覚にも虚しい気持ちになってしまった。
もし、この意味が自分だけ特別なものだったら・・・と考えたが、一瞬にしてその考えを否定する。
仮に立場が逆だったら自分はどうなっていただろう。考えるだけでも胸に杭が打たれたかのように痛くなる。


「私まだ凍矢と陣と・・・皆と一緒にいたかったよ」


ほら、望んでいる回答なんて返って来ない。
心の中で自嘲しながら、涙を拭き取った手をの頭に持っていき、軽く髪を撫でる。
心地良さそうに目を閉じる。思わず頬が緩んでしまう。


「悪かった・・・」
「ううん、いいの。画魔はもう戻らないけど、陣と凍矢が残ってくれたから」


撫でている髪に指を入れ、梳かすように滑らすと、するすると引っかかる事はなく毛先まで通った。
にへ、と間の抜けた顔や声ですら愛しくなる。
愛しく想う度に苦しくなる。
に出逢わなければ抱く事無かったであろう感情。
それが芽吹いたのを気付いた時は必死で否定したり、気付かない振りをしたりで逃げて来たが、徐々に膨れ上がるそれを抑える事が出来なくなっていた。
その反動かどうかは定かではないが、嫉妬心が異常に強くなってしまっていた。
が他の男と接しているだけでもどうにかなりそうになった(最近はその感情を多少コントロール出来るようになっていたが)
しかし、幸か不幸か忍として感情を滅多に外に出さないように躾けられてるおかげか、気持ちが外に出る事は無かったのが救いであった。
それならば、この愛しいと想う感情も押し殺したいと切に願ったが、こればかりはどうにもならなかった。


「でも」


髪を梳いていると、不意にの口から声が上がる。


「例え陣がいなくなっても、凍矢だけは私の傍にいてくれる?」


それが何を意味するのか無駄に期待はしたくない。
しかし、自分の想い人が自分だけを求めてくれている。これ以上に喜ばしいものはない。
何を意味するのかなんて、深く考えずに凍矢は答える。


「あぁ、何があってもな」


その答えには満足気に微笑んだ。













もうお前等付き合ってるだろってなノリですね(^q^)
いやでも、コレが無意識ラブラブという奴なんだと自分に言い聞かせながら打ってました←
しかし・・・、前より凄く長くなるな、コレ・・・。
(2013.11.5)