光のある世界で生きて欲しい。
そう思うようになったのはいつからだったか。











いざ試合の時間になってみれば、相手は一回戦終了後すぐに出される羽目になったゲスト。手当てする時間はなく生傷等残ったままで。
しかも、大会本部(恐らくうちのチームのオーナー)の陰謀で飛影、覆面戦士の2人は欠場される事となった。
その事に吏将と爆拳は厭らしく笑い、陣はすっかりやる気をなくしてしまったようだ(それでも、一番戦いたい奴が残った為か、機嫌はいいが)
正直言うと、俺も陣と同じくいい気にはなれない。
しかし、それも大会に優勝するためだと自分に言い聞かせ、湧き上がっていた思いを静める。
やる気をなくした陣の代わりに画魔が先鋒として出る事となった。相手は蔵馬のようだ。
目の前の光景等を脳内で整理がついたところで、先程から後回しにしていた疑問が浮かび上がる。

あのバカ、何処行った・・・?







「ふぇ・・・っくしゅん」


試合が始まった事もあり、誰もいなくシンとしている通路に響くくしゃみの声。
その時に出たものであろう声は殺伐とした空気に似合わない可愛らしいもので。
自然と出たものの筈なのに、何故か不思議に感じながらも歩く。


「・・・試合始まってるよね。早く行かないと」


小走りでは試合会場へと向かった。







画魔が蔵馬の片足に呪の化粧を施した時、が現れた。


「何処に行ってたんだ、この阿呆っ」


言われながら吏将に頭を殴られ、案の定俺に泣きついてきた。
・・・俺もよくやるが、他人にが殴られるのを見ると不快に思う。
泣きついてくるを宥めながら、吏将を睨む(と言っても、この衣装越しでは気付いてないだろう)
そうしているうちに画魔は蔵馬の両手足を呪縛し終わっていた。
会場が騒ぎ立って、も俺から離れて試合を見る。
動きを封じた蔵馬に画魔の勝利を確信した時、その思いは一瞬で覆らされる。

奴の無駄に長い髪が薔薇の鞭を操り、画魔の体を切り刻んだ。

その瞬間、会場は水を打ったように静まり返り、隣で見ていたの体や気配が強張った。
俺もショックに似たような衝動に駆られたが、それはすぐに治まった。
妖気を全て封じ込めるべきだった、と言った画魔の台詞を聞いて、俺は悟ってしまった。
画魔がしようとしている忍の習性を・・・。

無様に見える画魔の襲撃に蔵馬は重い体で避けている。
――――画魔が命がけで術を施しているのにも気付かずに。
一瞬だけの様子を窺えば、顔を真っ青にして微動だにせず、画魔の名前を途切れながら呟いていた。
忍の習性や掟は勿論、だって充分に心得ている。
だからわかってしまったのだろう、画魔のしている事を。
もうこれ以上見せたくなくて、手を伸ばして翳すようにの目を覆い隠す。
同時にの手がその手に伸び、握り締められる。
それはとても弱々しくて、握り締められた箇所からは僅かな震えが伝わる。
それを感じ取ったと共に画魔の体は遂に倒れて、蔵馬の妖気を封じたのを確認するや否や、絶命した。



10分は妖気は消えない、それを聞いてすぐに俺は上に被っていたものを脱ぎ捨てながら円闘技場の上へ上った。


「っ、・・・」


が何かを言いかけていたが、聞こえない振りをして背を向け、相手を見据えた。
弱々しく握られていた余韻を感じながら、審判の言葉通り一歩前へ進む。

仲間が死んだっていうのに、自分は至って冷静だ。先の為に死を選ぶ、その言葉の意味を、忍の習性を理解していたから。
陣も爆拳も吏将も誰も画魔の死を悲しまない。悲しんでいるのは・・・忍の世界では未熟なだけ。
よく表情の変わる・・・、忍の中で唯一の女。
まだ年端もいかないアイツが忍の世界にいて、俺達のようになって欲しくない。
俺自身も辟易していた世界だ。だから、この大会に出場した。
目の前にいる人間(中身は妖怪のようだが)や他の人間、妖怪なぞ容赦しない。
が苦手とした技、氷の粒を両掌の上に作り上げ、画魔のおかげで弱っている蔵馬目掛けて放った。
汚い罠をかけた自分のチームのオーナー、それを同調した仲間の卑怯さに嫌悪感を抱いていたが、今の自分も抵抗出来ない相手に攻撃してるあたり、卑怯だと自嘲した。
けどそれはもうどうだっていい。
俺は命をかけた画魔に対する責務と大会優勝のため、目の前の敵を殺せばいいのだから。



しかし、人間の体で俺が狙った急所を全て避けつつ、それでも尚、俺に勝つ方法を考えている目の前の男に恐怖と焦りを感じた。
先程の画魔の試合を目の当たりにして、いくら深手を負っていてもコイツに妖気を使わせるのは危険だ。
少し不得手だが、接近戦で確実に殺すしか無かった。

その選択が誤りだったのか、それとも相手が悪かったのかはわからない。

突如現れた植物が自分の腹部を貫いた。
まだ時間切れではないはず、と疑問を抱いたが、自分の腹を貫いている植物を辿ればすぐにわかった。
やはり、向いていない技を使うべきではなかったな(の方が得意だったな、そういえば)
シマネキ草が体から抜かれると、激痛が走り、その場に倒れた。
じわり、血が滲む。
立ち上がろう、と体に力を入れるも上手い事行けずに10カウントダウン負けとなってしまった。

惨めだ。




「お前の勝ちだ、殺せ」


画魔に託された事を成すどころか、奴みたく相手に不利な状況を与えられなかった。
先の為に何も出来ない。それならば殺されよう。
そう思って蔵馬に乞うたが、断られてしまった。
理由は俺達が求める光の先が見たいのと、俺より重症だと言うのが聞こえた。
次第に痛みが激しくなり、顔を上げる事さえ出来なくなっていた。
そうしていると、誰かに襟ぐりを掴まれ、放り投げられた。
地面に叩きつけられ、これ以上の激痛が走り、そこで俺は気を失ってしまった。
その時、の声が聞こえた気がした。













珍しく・・・、珍しく(あまりにも珍しいので2回言う)凍矢視点。
更に珍しく台詞が少ない。
ちゃんがあのマントを着ているかどうかは皆様のご想像でお願いします←
最後に凍矢が放り投げられるシーンがあるんですが、アレは次の試合に出てくる奴の仕業です。原作で蔵馬を放り投げる要領です。
(2013.11.5)