桑原君は場外10カウントで敗北。隣で静流さんが『リンチ』と言ってたのは聞こえなかった事に。
次の試合では蔵馬の冷徹さが伺えたが、見慣れたものだ(いや、この場合は相手の自滅に過ぎないが)
しかし、此処でも流石静流さん。蔵馬が普通の人間じゃない事を見抜いた。
いや、そんな事より、驚いたのが飛影の力。
いくら相手が強くて仕方なかったとしても、邪王炎殺拳最大の奥義黒龍波を撃っちゃうもの。
アレで飛影の右腕が無事とはとても思えないけど、それでも魔界の炎を呼び出してしまうなんて、末恐ろしい子。
さて、次はどんな試合になるのだろうか。





第十一話:S





自分のチームの一番強い奴が殺されたからか、まだ戦ってない二人が逃げようとした。
が、それも叶わず、自分のチームの補欠っぽい奴に殺られてしまった。
しかし、二人を殺した時、殺気を全然感じなかった。遠い場所にいるとかそんなのは関係ない。
それに妙な心地だ。不気味というか。
幽助もそれに気付いたのか、やっとお目覚めのようで。


「あのヤロ、やっと起きた」
「ぶっ殺したれー!」



「ようやく起きやがったぜウラメシィー!!」
「人生最後の悪夢はこれからだぜェ!」
「酎!奴をぶち殺せー!」
「ギタギタになぶり殺しちまえー!!」


おっとろしい殺気だねぇ。
幽助が目覚めてから『殺せ』コールが止まないし。
本人は全く何も感じちゃぁいないけど。





酎は武術だけでもかなりのものだ。
幽助も負けてないけど、6:4で酎に分がある。
ま、それはあくまでも純粋な殴り合いでの話だけど。
かと言って、酎の技はまだ不明だし、幽助は霊丸とショットガンしかない。
サシでの勝負では霊丸が有利だが、それもパワー次第。
幻海師範に再度特訓を自ら申し出た。
が、期間が短すぎる。たった2ヶ月。その間にどのくらい強くなったがカギかな。
敵も遂に本性を現す。


「おお、お、ぉ、お・・・、おええぇ」


・・・・・。
思わず顔が引きつってしまった。コリャイカン。
けど、段々と奴の酒気が薄れていく、というより何かと酒気が混じっているような。


「のんべ錬金妖術士、酎。最高の技を持って相手しよう」
「コレは奇怪。自らの綿菓子にも似た妖気を使い、何やら飴細工の様に物体を作り始めました」


錬金妖術士・・・、妖気を自在に操れる奴か。
しかも奴はその妖気に酒をブレンドして高めていた。
だから妙な感じがしたのね。











酎はありったけの妖気を、幽助は霊丸を連射したため、全霊力をお互い消耗してしまった。
お互い妖力も霊力もない状態でナイフエッジ・デスマッチで肉弾戦でケリつけようかってな事になって、幽助が勝った。
見てるだけで痛々しくて、螢子なんて時々目を背いていた。
試合が終わったら幽助達と合流する予定になってたが、螢子が止めた。






「ねー、なんでさ、螢子ちゃん。幽助と会わないってなんで?ぶっ飛ばすって言ってたろう?」
「・・・なんか、邪魔したくないの」
「邪魔!?そんな事あるはずないじゃないか。幽助の力にこそなれ、足引っ張るなんて事・・・」
「今会ったら・・・、もうやめてって言っちゃいそうだから」


私はぼたんと螢子の話をただ聞いているだけだった。
だって、私はなんとも思わなかったもの。
螢子みたいに幽助を心配する反面、応援したいっていう気持ち、私にはない。
なにも・・・。


「陰ながら見守りたい!なんて健気なのかしら。昔のあたしそっくし!」
「よし、今日は飲め。私が許す」


昨日から飲みっ放しだよね、この二人。
























――――さん、なんで?自分が死ぬのに」
「いいのよ、私は」
「でも・・・」
「それよりちゃん、お願い。守って、この子達を。お願い」
「出来る事なら私もお願いしたい。お願い、やめて。死んじゃう」
「残念だけど、聞けないわ。いいえ、無理なのよ、もう。後戻りは出来ない。やるしか、ないのよ」











・・・えらい昔の夢を見たな。
アレはいつだったか。もう十数年になるのか。
今になってあの事を夢に見るとは。まるで、あの人の言葉を忘れないように釘打ったような。
ガンガン響く頭をなんとか起こし、周りを見回せば酒瓶やら人が床に転がっている。
相当飲んだもんな、私達。


「・・・ていうか、もう試合始まってなくね?」


ぼそりと呟いたはずが、どういう訳か全員ガバリと起き上がった。
4人ともあっちゅーまに着替えてしまった。
なんなの、この人達。











「もー、信じられないわ。丸一日全員酔い潰れるなんて」
「どいてどいて。まだやってるかねー?すいませーん」


おんや、何やら視線が。
・・・あら。


「ん?あれま!?どうしたのさ、なんで雪菜ちゃんが此処に・・・」
「あ、やっぱりぼたんさんとさん」


本当になんで雪菜ちゃんが此処にいるのさね。
氷河の国に帰ったって言ってたのに。


「あ!桑原君出てる」


あらまぁ、ホント。
でも、結構ボロボロになってるって事は、まさかかなり不利な状況?


「ちょっと彼!今、どうなってんの?」
「あぁ?酔っ払いはクソして寝てな」
「素直に教えるのとくたばるの、どっちがいい?(みしっ)」
「静流さん、目が・・・」


静流姐さん流石だわ。
そんじょそこらの三下妖怪より強いんじゃ・・・。






――――てな訳でして、桑原と吏将、どちらか勝った方のチームが準決勝進出なんですよ」


あらら、なんて卑劣な。
正直、桑原君に勝機なんて無いも同然。
なんてこった。


「なんだってー!?入れないってどーゆー事よ!」
「今日はもう席がねェんだ」
「券なら此処にあるって言ってるでしょ!」


酒びたしだけどね。


「ドブ臭ェ人間は入れねェんだよ。此処に入れる人間は大金持ちだけよ、へへへへ」


あら、お三方から何かキレた音が。
・・・む?


「(くんくん)おぉ?オメェとオメェは妖怪だな。?オメェはどっちかわからねェな」


ちょ、汚い顔近づけるな。


「オメェら三人は入れてやってもいいぜ。俺にサービスしてくれたらな。へへへへへへ」
「どーやら、話しても無駄のよーね」
「へへへへ。わかったら、とっとと消えな」
「消えるのはテメーだ!」


ほい、サービス終了〜。
やっぱりこの三人、只者ではないわ。度胸に関して。
妖怪を恐れる事も躊躇する事もなくはっ倒してしまうもの。
・・・あれ、私って妖怪だったよね。




「それにしても、よく人間界に来れたねぇ。桑原君達の応援に来たんだろ?」
「えぇ。アレから治癒能力を高める修行もしました。少しでも手助けする事が出来ればと思って。――――でも、もう一つ大きな理由があるんです」
「え?ってゆーと?」
「私には、兄がいると」


ドキーン。
え、何、何処でそんな情報を入れてきちゃったのよ、この子は。
普通に生活してたら聞くもんじゃないよ、それは。


「それで、私を助けてくださった和真さん達の協力を得られるなら、期限付きですけれど、兄を探すため、人間界に滞在する事を許されたんです」
「まー、そうなの!私達も協力するわよ」
「でも、手掛かりとかはあるの?例えば、写真とか」
「いえ、全く。でも、何故か近くにいるような気がするんです」


何、この勘の良さ。兄譲り?
えっと、飛影が雪菜ちゃんの兄だという事を知っているのは私と幽助とコエンマとぼたんか。
・・・ぼたんが一番喋りそうだな。
前、飛影に『命がいらんなら喋れ』って脅されてる事だし、ぼたんも気が気でないだろう。








「和真さん・・・!」

「貴様、何処を見ている!」
「テメーはどいてろ!!」

ドコーンッ!

「雪菜さんっ!来てくれたんスか!」
「和真さん、大丈夫ですかー!?」
「ワハハハ!全っ然へーきですよ!」


な、なんなの・・・。
もうダメだって思った私がバカだった。
ま、ともあれ、桑原君の勝利。浦飯チームは準決勝進出決定した。






ガシッ


「ちょいと来てもらおうか、お二人とも」


静流さんと温子さんは先に帰り、雪菜ちゃんは桑原君と、螢子は幽助と、ぼたんは螢子と幽助の様子見に行った。
私はと言うと、さっさと帰ろうとする蔵馬と飛影を捕まえて拉致、保護した。


「いくら相手が強かったとはいえ、二人とも無茶しすぎ。いや、幽助と桑原君にも言えた事だけどさっ」
「・・・。酒飲んだ?」
「あぁ?こちとら二日酔いで機嫌わりーんだよ、文句あっか」


先に飛影の腕を治療しながら悪態吐く。蔵馬は自分に植えたシマネキ草を枯らしてるとこだったから。
因みに酒は5,6升飲んだけど、それ言ったら蔵馬に怒られるから言わないでいとく。
それにしても、黒龍波を撃ったはずなのに、飛影の腕はかなり回復していた。
もう右腕は使えないだろうと思っていたのに。


「ほれ、飛影。終わったよ(バシィッ)」
「・・・ッ!」


治療終わった後に思いっきりはたいてやった。
よほど痛かったのか、声もあげず、私を睨みつけやがった(いい度胸じゃないのさ)


「次、蔵馬。シマネキ草枯れた?」
「あぁ、大分な」
「ほんじゃ、抜くよー」
「え、ちょ、待って、
「待たん(ズッ)」
――――っ!!」


痛いって事は百も承知。
え、ほら、私、性格的にSっ気入ってるから。
普段スカしてる奴の苦痛に満ちた顔を見るほど楽しいものはないわ〜。


「・・・(コイツだけは敵に回したくない)」
「え、何か言った?飛影」
「いや、別に」
「・・・(再び失神)」


でも、出来る事ならあまり無理しないでね。









  





まさかのサド姫降臨。
(2009.6.5)