「うげ、化粧品ってこんなに高いんだ」
「嗚呼、コレは夢?夢なのかしら?あのが、あのと一緒に化粧品を買いに来るなんて」
「オーイ、おねーちゃーん。感激するにも程があるんじゃなくて?」
第十九訓:一歩前進
退から雑誌を貰って以来、何やら色々気になって、手始めに化粧からしていこうかなと思った。
一応、女物の隊服着てるから、化粧しても別に違和感ないかなと思ったからだ。
今まで男物の着物着てきたから、いきなり女物の着物を着るのは抵抗あった。
とはいえ、化粧すると言っても、化粧品は全く持ってなかったので、妙に付き合ってもらう事にした。
妙は元々女気あったし、キャバ嬢だから化粧は必要不可欠だ。
それに、妙自身も自画自賛してるけど、双子の妹の私から見ても妙は綺麗だし。
だから、頑張れば私も妙みたいになれるかなぁ、とも思った。
妙についてきて着いた場所はデパートの化粧品売り場。
1階はどうやら、化粧品売り場の階らしく、酷く化粧品臭い。
色々なブランドがある中、妙に自分愛用の化粧ブランドに連れてかれた。
「此処は値が張るけど、その分いいわよ〜」
「ほー」
「キャバ嬢としての収入が安定した頃から買い始めたのよ」
「ふむふむ」
あいやー、色んなものがあるのねー。
ていうか、当たり前だけど、この化粧品売り場で男物の着物着てる私は結構浮いてる。
袴でも、ちょっと女の子らしいのにしとけばよかったかな、柄物とか。
「何かお探しですか?」
この店の店員さんに話し掛けられる。
やっぱり化粧品専門の店だけあって、此処の店員さんはお化粧が上手だ。
「この子がやっと化粧に興味を持ち始めたもので」
「あら、初めてですか?」
「え、えぇ、まぁ」
「では、ちょっと試しにしてみますか?」
「、やってもらいなさいよ」
「え゛、いきなり?」
あれよあれよ言う間に椅子に座らされた私。
ちょっと待ってて下さいね、と店員さんは何やら準備を始めてしまった。
店員さんにやってもらうだけではなく、練習として化粧する人も来るそうだ。
妙も隣の椅子に座って、何やら準備し始め出したし。
「お待たせしました」
先程の店員が色々な道具や化粧品等を持って来た。
戸惑いと期待でドキドキする。
「普段のスキンケアはどのようにしてますか?」
「えっと・・・、洗顔して化粧水付ける程度ですが」
「乳液は付けてますか?クレンジングは?」
「あ、どちらもしてないです」
「ちょっと触ってもいいですか?」
「あ、ハイ、どうぞ」
ペタ、と店員さんの指が私の肌に触れる。
「あー、やっぱりちょっと乾燥してますね」
「やっぱり?」
「乳液付けないで化粧水だけだと、水分が蒸発してしまうんです。乳液を付ける事で保湿するんですよ」
ほぁ〜、それは知らなかった。
「では、今からクレンジングと洗顔しますね」
店員さんは手馴れた感じで私の顔にクリームを付け、湿らしたティッシュでそれを拭き取る。
なんかそれがとても気持ちよかったり。
洗顔まで行って、化粧水、乳液付けたところで触ってみて下さいと言われ、自分の肌を触る。
「うわ、なんか・・・」
「さらさらして、もっちりしてるでしょう?」
「はい」
何か、いつもと違う感じ。
「乾燥した肌にお化粧しても、ノリが悪かったりで良い印象を与えられません」
本当に基礎中の基礎(下地とか日焼け止めクリームとか)を学び、次にいよいよ化粧するみたいだ(あー、ドキドキ)
私の肌は乾燥気味だからって、クリームタイプのファンデーションを勧めてくれた。
色選びが難しそうと言ったら、混ぜて使うんですよと返されて、妙に納得したり。
いや本当、全然触れなかったものだから、基本中の基本を教えてもらっても凄い感激するもんだ。
それを手馴れた様子でやる店員さんはやっぱりプロだなぁ、としみじみ。
鏡に映ってる、どんどん変化して行く自分を見て、コレだけでも変われるんだーと、またもや感激。
隣では妙も、他の店員さんのアドバイスを受けながら自分で化粧をしてる。
プロにやってもらうから上手なのは当たり前だけど、コレは自分でも出来るのかな。
とりあえず、今日は化粧した自分を見てみよう。
「キャー!」
一通り化粧してもらった私を見て、妙の甲高い悲鳴。
その表情は嬉しそうで、私もつられて嬉しくなったり。
「さっすが、私の妹!いえ寧ろ、ある意味で分身だわ!」
「分身って・・・」
「だってそうじゃない!双子だもの!」
それってやっぱり、自画自賛に繋がるんだね(私の妹可愛い=私可愛いっていう)
でも、自分自身もびっくり。アレだけの事で凄い変わってる。
その後、店員さんの色々の勧めで数点買う事にした私。
まだ基礎のクレンジングやファンデーションだけだけど、まずはベースをマスターしていこう。
「よーし、この上に行って、ついでに可愛い着物も買いましょ!」
「え、着物はちょっと・・・」
「何言ってるの!折角可愛くなったのに、着物も可愛くしないと!」
若干興奮気味の妙はもう止められなかった。
上の階に行くと、そこももう、私には無縁だと思ってた世界が。色んな傾向の着物が置かれている。
ギャル系、可愛い系、綺麗系、大人系、おばさん系などなど。
「裾の短い着物は流石にまだ無理ねぇ」
まだって、いつか着せる気か!
そう言うなり、妙は色んな店の着物は見て、色々取り繕ってくれる。
「は綺麗というより、可愛い顔だから、あまり大人っぽいのもー・・・」
最初は蝶柄を選んでたが、桜柄を取るなり、私に合わせる。
コレいいかも!とか言うや否か買う事に決めたらしく、店員さんに渡す。
他にもその店で色々見て回り、結果的に私と妙の着物、合計6点ぐらい買い占めた。
「あ、この桜柄、今此処で着てもいいですか?」
「よろしいですよ」
「え゛!?」
今コレを私に着ろとな!?
店員さんの許可を取った途端、試着室に押し込まれた。
着方わからない〜と、最後の抵抗をしてみたが、問答無用で入って来、半ば無理矢理着せられた(ていうか、狭いって!)
こうして身なりだけ女にされた私であったのだが、
「そのままの状態で帰ってね(はぁと)」
なんて言うものだから、今日はコイツと来た事をちょっと後悔してしまった。
+
「あの、ただいま」
門で見張ってた隊士に挨拶。
最初は誰だコイツ的な目で見て、数秒後わかったのか、物凄いスピードで屯所内に入ってしまった。
ちゃんがー!!なんて声が聞こえたもんだから、変だったのかなとちょっと落ち込んだり。
「ちゃんがー!!」
「ちゃんがどうしたー!?」
「まさか、また怪我!?」
「全く、あのおてんば娘はー!」
「違う!そうじゃなくて!ちゃんがなんかー!」
「なんかでわかるかボケ!」
「おー、どうした、騒がしいな」
「局長ォ!ちゃんがー!」
「何!ちゃんがどうかしたのか!」
「なんかすんっげー可愛くなってました!」
「は?」
「いえ、なんか、化粧してて、女物の着物着て、兎に角可愛いのなんの!」
「まっさかー。お前、それ只の妄想じゃねーの?」
「いやいや!この目でしかと!しかと見た!」
「あのー、そんな話題する程おかしい・・・かな?」
門の先で突っ立ってるのもなんだったので、思い切って中に入ってみた。
いつも歩き慣れてる屯所なのに、何故か随分と足が重くて。
皆、私を見た時はかなり驚いてて、でもすぐに気持ち悪いぐらい笑顔になっていく。
ていうか、マジキモ。
「ちゃぁぁぁぁんんん!!」
「どうした!何があった!なんでこんな愛らしい姿にィィィ!!」
「ていうか、もうコレ人形みたいじゃね?」
「嗚呼、俺は今夢見てるのか・・・?」
何やら、物凄い感激されてしまった。
恥ずかしいような、嬉しいような気持ちが入り混じってる。複雑だ。
「ちょっと、ちょっとだけでいいから、触っていい?」
「あ、ずりぃ!俺も」
「お前等何勝手な事言ってるんだ。此処は局長たる俺が先であろう!」
「局長も何も関係ねーよ。俺だって触りたいし!」
え、ちょっと、なんか更に気持ち悪い方向に話進んでいってるんだけど。
や、触られたり抱っこされるのは慣れてるけど、ちょっと怖い・・・かな。
なんか皆、息荒いような気もするし。
というか、そうこう考えてるうちになんか襲い掛かって来た!
「ギャァァァァ!!」
「ああ!待ってよちゃーん!」
「なんで逃げるのー!」
誰だって逃げるわボケェェェェ!!
「退!退ぅー!」
「ちゃーん、山崎なら任務でどっか行ってるよー」
「ホラホラ、おじさん達は怖くないよー」
「うっさいボケ!お前等ちょっと、どうかしてる!」
ていうか、なんか人数増えてね!?
屯所内を走ってたら昼寝沖田発見!
「沖田ー!起きろコノヤロー!!(飛び蹴り)」
「ぐげぇっ!」
「もー、この際総悟でもなんでもいい!匿って!」
「いてぇ・・・。人起こしといてそれかィ。いい度胸じゃねーかって、あり?」
「なんか変な奴等が追いかけてきてんの!」
「あれまー」
「あれまーじゃねーよ!いいからアンタの部屋にでも匿って!」
「若干きめーな、アイツ等」
「若干じゃねーよ!キモいそのものだよ!」
総悟に引っ張られ、部屋に入れられた。
追いかけてた奴等に何やら脅し的な事を吹き込んで退散してもらった(流石ドS)
「さて、コレでもう大丈夫だろィ」
「ありがとー。まさかこんな事になるとは思わなかったし」
「ところでなんだ、その妙な格好」
「あり、やっぱ変かな」
「いや、変というより、寧ろ可愛い」
「マジでか!」
「うん、マジ(珍しく俺、素直な意見ー)」
「うぁー、総悟に可愛いって言ってもらったのっていつぶりかな」
「が入隊時の時以来?」
「そうかも」
「(あの時も素で可愛いと思ってた。今も確かに可愛いが、化粧してるからか可愛いだけではなく、何処か綺麗)」
あの時は突発的に、しかも初めて言われたから照れたけど、今は嬉しい。
やっぱり、可愛いって言われて素直に嬉しいのは女だからか。
今日は皆、今の私を見慣れてないからあんなキモい行動したのよ。
「土方さーん、見て下さいよ!総悟に可愛いって言ってもらいましたー」
「・・・お前、こないだのマシーン達片付けられて頭イカれたか」
「失礼な!ちょっと興味持ったから姉と一緒に行ったらこんな事になってしまったんですよ!」
「ていうか、あの総悟が言ったのか?」
「はいー(はぁと)」
「ま、この調子で他の事に関しても女らしくなってくんねーかなー」
「なんか言いまして?(チャキ)」
「お前、その格好でも小柄常備か」
護衛用ですよ、小柄は。
その後も色んな人から可愛い可愛い言ってもらって嬉しい一日でした。
只、やっぱりちょっとは抵抗あるけどね。
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化粧のところは作者の体験談。
(2009.5.30)