『アーウチ!なんてこった!』
『どうしたの舞蹴。遂にジェニファーと別れたの?』
『んな訳ねーだろ!お前なんて事言ってくれるのォ!』
『大丈夫、このトレーニングマスィーンで鍛えれば、どんな女だってイチコロよ!』
『え、マジで?てか、本当に別れてねーから!』
『今ならこのフッキーンマスィーンにランニングマスィーンなどが付いて12回払いで月々たったコレだけ!』


「フンッ、フンッ、フンッ!」
「何やってんだテメーは(パンッ)」
「あ、お疲れさーです、土方さん」
「お疲れさん、って違ーよ!何やってんだテメーは!」
「見てわかりませんか。アレで買ったマスィーンでトレーニング中です。因みに腹筋」
「何でだよ!お前、只でさえ元々筋肉質だってのに、コレ以上筋肉付ける気か!」
「イェース!コレのおかげで今まで2つにしか割れてなかったお腹が4つになりました!」
「ていうか、おまっ、なんだこの部屋は!あちこちマシーンだらけじゃねーか!」
「ノンノン!『マシーン』じゃなくて『マスィーン』です」
「うるせェェェ!!頼むから普通の女であってくれ!」





第十八訓:女はどういう生き物なのか





何やら、『ちゃんが普通の女の子になる日を夢見隊』とか言う奴等から撤去(返品)された私のマスィーン達。
チキショー、体鍛えて何が悪いんだよ!テメー等だって地道にやってるくせに!
なんでだよ、なんで私だけしちゃいけないんだよ。


「ちょっと聞いてよ退!私の、私のマスィーン達が何か変な隊の連中に撤去されちゃってさぁ!土方筆頭に!」
「あー、あの人も結構夢見てるからね。女の子らしく生きて欲しいんだよきっと」
「だったらさぁ!此処入る時から頑なに断れば良かったじゃん!此処に入れた奴も奴だよ!」
「じゃぁ聞くけどさ。此処入らなかったらちゃん今頃どうなってたの」
「知らん!まぁ、売られてたかもしれないけどさ!」
「家の事情とか聞かされて副長も複雑じゃなかったんじゃないかな」
「むー」
「女中として入れたかったんだろうけど、ちゃんが頑なにコッチの方がいいって言ったんじゃない」


確かに家事は好きだけどさ、なんかそれだけでは物足りないからコッチに入ったのに。
・・・そういえば、入った頃は何かと色々いちゃもん付けられてたな。あの鬼副長に。











1番隊と3番隊は合同で日野に行って、帰って来た。
日野には過激派攘夷浪士が潜んでるってんでお縄を頂戴しに行ったんだ。
コレは別に初任務では無かったが、慣れてる訳でもなかった。大体数十回目と行ったところか。
最初は人を殺したくなくて刀まで手が回らなかったから今より足手纏いだった。
だが、人の斬り合い、殺し合いを見ていくうちに自然と刀を抜けるようになり、相手に刃を向けるようになった。
そして、いつの日か人を初めて斬り、負傷させ、殺した。
その時は只、只、人を殺してしまったという罪悪感以上の物が私を押し潰し、ひたすら泣いた。


「こんな事で一々泣いてるようじゃぁな。所詮、お前は女なんだよ」


そう毒気吐いた副長の言葉が気に入らなくて、意地でも此処に居座ってた。
女だからなんだ。女は炊事洗濯掃除して、子供さえ産めばそれでいいのか、ふざけんな。
そういう思いから来た意地だ。頑として居直った。





同じような斬り合いで泣いたり負傷したりすると決まって奴から言われてた。
もうコレは職場イジメなのかなって思うぐらい辛かったし、腹立たしかった。意地でも残ってた。
いつしか、そんな意地張ってたおかげで人を斬っても何も思わなくなった。
人を斬っても泣くもんか。その思いが強かったのか、何度目か人を斬って殺しても初めて泣かなかった日が来た。


「どうだこの野郎。やっぱり最初は誰だって怖いんだよ。どうだ、人を斬ったのに何も感じなくなったぞ」


そう吐き捨てた時の奴の――――いや、その場にいた皆の顔は驚きというより悲しみが混じってた。
何だよ。何で皆、そんな顔すんの。皆だって人を斬っても平気な顔してるじゃない。
奴が、副長がそんな私の頭に手を置いた時、私は褒められたと思った。よくやったな的な。
けど、その手は何処か震えてたような。顔を見上げても逆光で良く見えなかった。
それから皆、私が人を斬った後、誰も私と目を合わせてくれなかった。
唯一合わせるというか、近付いてくれたのが総悟と副長と局長と退ぐらいで。
局長に至っては何故か泣きながら私を抱き締めてくれていた、いつも。
この人だって泣いてるのに、何でお前は私の時みたいに何も言わない。偏見か。と、少々苛立ちを覚えた。
しかし、何故この人は私が斬った後に泣くんだろう。何故抱き締めてくれるんだろう。
何で皆、この時だけ目を合わせないどころか、何で私を見ようとしないの?


「総悟。皆、怯えたかのように人を斬った後の私の事を見ないの。ねぇ、どうして。総悟達とは普通に話してるのに」
「・・・、寂しいの?」
「うん。斬った後でも笑っている総悟達が羨ましくてしょうがないよ」





今度はテロ起こした奴等の拠点に入り込んでの斬り合い。
もう斬る奴に対しての感情は消え失せていた。
色んな奴の返り血を浴び、何人目か知らぬ相手を斬ろうとした時、


「ヒッ、鬼・・・っ!」


鬼?誰が、――――私が?
部屋は電気という文化が発達したおかげで明るく、外は暗かった。
ビードロとかいうものも色々出回り、ガラスの窓も普及してきた。
その中は明るく、外は暗いとガラス窓はまるで鏡だ。
そのガラスに映った自分を見て初めて気付いた。


「あぁ・・・、そうか」


目から流れるものを知らず、力が抜けた私に先程まで怯えてた敵が斬りかかる。
けど、敵が後ろから誰かに斬られ、絶命した。
それは確かに眼に映ってたが、まるで映ってないかのように感じた。
斬った奴が目の前にいるが、誰かもわからなかった。



私は片意地を張り、敵さん斬っても泣かないようにしたというか、一番憎い奴の顔を思い浮かべてた。
憎い、父上を死の淵にまで追い込んだあの借金取りの天人が。
それが憎いを、憎悪を通り越して、鬼の様な形相になってしまっていた。
自分自身が見ても怖くなるような形相だった。そら皆が驚いて話し掛けるどころか目も合わせてくれないなと確信。
私はいつからこんな顔になったんだ。



「誰」
「俺だ」
「わからない」
「・・・土方だ」
「あぁ、土方さんですか」


それでも目が覚めない、何も見えない。
あぁ、私は何故泣いている。


「・・・全部、お前の所為だ」
「あ?」
「お前が女だからとか、出て行け的な事を言いまくったからだ。コッチも意地になってしまったじゃないか」
「そうか」
「鬼だ、お前等は血も涙もない鬼だ」
「今頃気付いたか。真選組(ここ)は鬼の棲むところだ。だから、女にいられては困る」
「・・・武士とはどういう生き物なんですか」
「さぁな。真選組(おれたち)は鬼の面もあるし、武士の面もある。女は武士になれねぇ」
「女だからなんだ。女だから、護るべきもの、も、護れない、てか。ふざ、け・・・、」
「じゃぁ、お前は何を護ったってんだ。味方か?志か?」
「・・・家族、護れなかった。一番護、りたか、った家族、護れ・・・なか、・・・」


逃げて逃げて、逃げ延びて真選組に縋りついた。
金になるし、仕事柄強くなれると信じて努力した。
こんな事を望んだ訳ではない、こんな事、本当はしたくなかった。でも、


「もうお前は手遅れだ。すっかり鬼の瞳になってやがる」


そう、手遅れだった。
この時初めて、あの時の皆の悲しそうな顔や、局長の行動の真意がわかった。












「なのにさー。何が今更『ちゃんが普通の女の子になる日を夢見隊』だよ。手遅れだっつーの」
「いやいや、諦めちゃいけないよ、ちゃん」
「じゃぁ、どうしろっていうのさ」
「まず手始めに女物の着物着るとか、化粧するとか、恋するとかさ。とりあえず筋トレはやめよう。ね?」


なんだよ、恋するって。一番関係ないの出て来たよ。


「というか、女の着物以前の問題だよね。ちゃんとブラジャー着けなよ、ちゃん。いつまでサラシ巻いてんの」
「べ、別にいいじゃんか!」
「いくら貧相な胸でも出てるもんは出てるんだから着けないと」
「オイ、今貧相って言った?貧相って言ったよね」
「という事で、じゃーん」


という退の手にはピンクのブラジャー(&お揃いの柄のパンツ)


「いやいやいやいやぁ!何で持ってんのお前ェェェ!!」
「通販で買いました☆」
「うげぇ・・・。退にそんな趣味があっただなんて」
「俺が着ける訳ないだろ。ちゃんのだよ、ちゃんの」
「なんでだよォォ!」
「サイズは大体で決めたけど、本当はちゃんとサイズの合った奴がいいんだけどね、流石に測れないし」
「因みにそれ、サイズ何」
「B65」
「65とか70ってアレだろ、胸の下の奴だよね」
「うん、そう」


というか、お前は何故、私のサイズ知ってんだよ。自分自身知らないのに。
『参考雑誌ね』とか言って渡されたものは学生などが読みそうなティーン雑誌。


「因みに退。お前はいつからコレ等を持っていた?」
「え?あー、ちゃんの胸が膨らみ始めた頃?」
「お前は親父か」
「実の父親は此処までしないと思うけど」


パラパラと雑誌を捲っていくと、そこには私と同い年ぐらいのモデルが可愛い着物着てたり、化粧してたり。
うっわ、私には2つの意味で無縁の世界ーとか思いながらも、やっぱり惹かれるのは私自身が女だからか。
・・・化粧ぐらいならやってもいいかな、なんて思ってきたり。
私自身も夢見て・・・もいいかな。
いつか、このモデルの子達みたいに可愛い着物着たり、化粧したり、恋したりする日を。











  





コレ書いてる人の心境だったりします。
(2009.5.30)