私が間違えたのだろうか?間違えたとしたら何処で?
真選組入隊の時?それとも、あの人と出会った時?
第十六訓:ゴキブリ並のしぶとさとダルマ並の起き上がり
「。顔がブルーハワイ並に青いぜィ」
「何、その例え。それに青くないよ?元気元気」
普通に顔が青いって言えばいいものの。まぁ、肯定はしないが。
確かに祭りの時からすこぶる調子が悪い。
だが、殺気には随分と敏感になってしまった。総悟が土方さんへ向ける殺意が自分に向けられてると感じてしまうほど。
「コレから巡察だし、元気ならいいんだけど・・・。調子悪かったら足引っ張るだけだからな」
「うん」
言葉は厳しいが、要は調子悪いんなら休めって事だ。
本人がもし、本当にそう思ってたとしても、私は持ち前の呑気で乗り切る。
気にしないし気にも止めない。そういう風に生きてきた・・・つもり。
よく考えれば、私は裏切りもなんもしちゃいない。
只、怪我した人を放っておけなくて助けただけ。
なのに、お兄ちゃんのあの殺気は私に向くはずなど無いんだ。
だって私、攘夷活動に片足も入れちゃいないんだもん。
そりゃ、廃刀令でうちの道場は落ちぶれる一方だったけど、そんな言うほど幕府や天人を恨んでない。
けど、天人がいなくなって欲しいという願いは少なからずある。
だってそうでしょう?時代や文化が変われど、アイツ等が好き勝手やってるのは見過ごせないんだから。
幕府の犬の立場上、この意見は表では伏せておくが。
お兄ちゃんは幕府や天人などはちっぽけだと思う。
もう全てを壊さんばかりの殺気だったし、本人もそのつもりだろう。
桂なんて目的があからさまわかる動きをする。
お兄ちゃ・・・高杉は桂とは違う異様な・・・なんだろ、上手く説明出来ない。
本当のところ、あの人は何をしたいのかわからない。
私は裏切ってない。元々私は攘夷側の人間でも幕府側の人間ではなかった。
どっちかを選ぶのは自由だったから、幕府側に就いた。
だから、いくら圧倒されたからって、高杉なんかに怯える必要は無い。
怯える必要なんて何処、にも・・・、
「――――」
「!」
言葉より殺気を感じて刀を抜く。
頭に浮かぶは高杉。だが、剣を交じったのは、
「あ、総悟・・・」
「殺気にしか反応しねェとはどういった事で」
「・・・・・」
「・・・誰を殺すつもりだィ」
「え・・・、そんな顔してた?私」
「してる」
コレはコレは思いがけない質問。
そこまで考えすぎてるのかな、私。
「ぬぁー・・・。こないだのフンドシ仮面、殺り損ねたからなー・・・。というか、お前を殺り損ねた」
「なぬ」
「という事で、死ね沖田ァァァァァァ!!」
うおぉぉぉぉぉ!!(注:街中)
勿論、コレで誤魔化し切ったとは言い切れない。だが、向こうは何も問おうって来ないので、別にいい。
翌日、『またもや真選組半壊。今回は仲間割れで』という記事を見た上司二人には説教三昧(特に副長)
何故だか、私にだけ謹慎処分食らった(総悟はァァ!?)
が、表向きには謹慎処分だけど、本当は休みを与えたかったそうだ、局長が(退情報)
そこまで顔色悪かったのかな?確かに休め休めと言われたものの、断り続けたからな・・・。
「大体、ちゃんは疲れた時に無理して働こうとするバカだから、局長や副長は無理矢理休みにしようとするんだよ」
「今さり気無くバカっつったよね」
「あの二人(特に副長)は過保護なんだから。初めての娘を持つお父さん感覚で行ってんだから心配かけちゃダメでしょーが」
「スルー?てか、お前母ちゃん?(口調が・・・)」
「俺的には可愛い妹を持つお兄ちゃん的な」
「いやだー」
「え?嫌って何?ヤベ、泣きそうなんだけど。こんなに可愛がってんのに(すりすり)」
「うわー、セクハラバカー。妹は反抗期を迎えてまーす」
基本的に仕事の無い密偵はパシリ。
そのパシリから逃げ回って来たのか知らんが、私の話相手になってくれる退。
つか、退をお兄ちゃんってな目で見れない。寧ろ、都合のいいオモチャみたいな(笑)
「元気な時にこそ働く、疲れたら副長いじめる。コレでいいじゃないの」
「うん、そうする」
「まだまだ育ち盛りの娘には変わり無いんだから、無理しないでね。じゃ、俺書類整理してくるから」
あ、結局あったんじゃん、仕事。
余裕な感じを見ると、ほぼ終わりって感じか。
でも、仕事あったのにわざわざ暇してる私のところに来るとは、流石退。
「っと、その前にもう一つ」
「なに」
「何があったの、祭りの時」
「・・・んー、絞め殺されそうになってました」
嘘吐いてもコレにはバレる。長い付き合いでわかる事。
普段腰抜けに見える奴なのに、鋭さだけは天下一品。じゃなきゃ監察なんて務めてないけど。
「ふーん。・・・誰に?」
「攘夷志士の中で最も過激で最も危険な男にです」
「へー。って、まだ全部話しきってないでしょ。警察なめんなよ」
「退、口調が土方さんになってる。・・・別に私が間者だとかそういうのじゃないから」
「うん、そうだね。間者だったら俺達、一体何年騙されてるんだって話だし」
「そうそう。只、奴と関わった事があるだけ。あ、戦争じゃないよ」
「わかってるよ。でも、わかんないのが何で関わったのかなって」
「偶然よ。偶然、うちの道場の前に血塗れに倒れてて、それを暫く療養させたってだけ」
「ふーん。俺だってね、ちゃんを間者だと思ってないし、思いたくもない。でも、目撃証言があっちゃ、気にならない事でもない」
「ありゃ、見られてたの。まぁ別に見られて困る事じゃないけど、誤解招かれたら迷惑だなァ」
「実際、迷惑かかってんの監察(コッチ)。ちゃんの素性ももっぺん洗い直してたんだから(ポン)」
「それはそれは、すみませんでした」
頭を軽く叩かれた書類を見ると、本当に私の事が調べられていた。
氏、年齢、生まれ育ち、家族構成、経緯などなど。
私のと一緒に高杉のもあって、ついでに見たけど見事に私と接点が一つもない文書が書いてある。
「結果、無駄骨だったけど。ちゃんの道場の門下生に高杉がいたんじゃという案も浮かんでたけど、皆無」
「それはありえないって。門下生っつっても、廃刀令が出されてから道場は廃れる一方で借金三昧」
「だよね。そこらへんは刑務所に行って、その金貸してたチビっこいオッサンに証明されたし」
「え゛、あのクソ社長んとこまで行ったの?」
「ちゃんの話出すなり『あんのクソアマ何処行ったんじゃー!!』って食いかかって来たからね。どんだけ恨み買ったの?」
「まぁー・・・色々(アレから3年経ってるのに)」
改めて思うけど凄いね、監察。
だって、私はそんな自分の家の事情とかあんま詳しく喋ってないのに、全て調べ上げちゃったんだよ。
そりゃー、家族に聞きゃわかるけど、恐らくどっちにも触れてないだろう。向こうが疑問を持っちゃうから。
それは監察の皆様が私に気を遣ったって事。優しい優しい人達。
感謝するよ。あの子達にくだらん心配かけさせたくないし。
だから、色々回りくどい事したんでしょう?借金相手だってどっから割り出したのか。
「色々調べたけど、ちゃんはシロ。コレではっきりするよ」
「うん、ありがとう。ゴメンね、色々迷惑かけちゃって」
「いえいえ。・・・大丈夫だよ」
「え?」
退は一層、穏やかな顔になった。
けどなんでだろう、彼の周りというか、雰囲気が凍り付いてるのは。
「大丈夫だよ、此処にいても。誰かが疑っても、逆に疑わない人がちゃんの味方に付くんだから」
「何の話?」
「祭りの時、ちゃんと高杉が接触してたって目撃証言出したの、俺」
「・・・へぇ」
「あの様子から見たら仲間だとかそんな境遇じゃない。そうは思っていたけど、どうしても調べたくて告げ口したんだ」
「そっかぁ。退かぁ、目撃証言。てっきり、一般人だと思ってたよ」
「高杉に首締められてるし、怯え出すしで訳わかんなかったよ」
「うん、流されてたよ、あの時」
「でね、ちゃん。真選組(ここ)にいても、ちゃーんと護ってくれる人がいるんだよ」
「ヤダ、護る方がいい。だって、護られるのって」
正直言って、重たい。
「勿論、俺達だってちゃんに護ってもらった時あったよ。でも、俺達にしてみれば、ちゃんを護ったって時もあるんだよ」
「え、そうなの?いつ?」
「いつとか全然覚えてないけど、真選組だってね、護るだけじゃないんだよ?お互いを護ってるんだから」
「・・・ふぅーん、そっかぁ」
護ってるつもりが護られてるかぁ。退も結構、グサッと来る事言ってくれるね。
その刺さった言葉は抜こうにも抜けない、抜かない。
私って、大切な事見落とし続けてたのかな。
なんだろう、あからさまじゃなく、護られてたのかな、色んな人に。
「だから大丈夫。此処にいてもいいんだよ、ちゃん」
「・・・・・」
それじゃぁ、まるで私がいなくなるみたいじゃないか。
此処からいなくなるみたいな言い方じゃないか
「うん・・・、ありがと。大丈夫だよ、私はしぶといが取り柄だから」
「ゴキブリ並に?」
「ぎゃっ!そんなものと例えないでよ〜」
高杉。悪いけど、やっぱり敵同士だよ、私達。
貴方が例え捕まえに来ても、私は逃げる気なんてないから。戦うつもりでいるから。
でも・・・、なるべく私の前から消えて・・・。
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山崎氏は何を思ってるのか不明って事で。
(2009.5.30)