おめめいたいの?
なおしてあげるからおいで。
うち?うちならだいじょうぶだよ。そりゃぁ、ちちうえにばれたらうるさいけど、はなれがあるし。
だから、おいでよ。おめめ、いたいんでしょ?
だいじょうぶだよ、いたくないよ。
・・・ねぇ、なんでなきそうなおかおするの?
だれか・・・いなくなっちゃったの?
ねぇ・・・、






第十五訓:二人は対立した仲になってしまいました





高杉晋助か。

鎖国解禁二十周年だかなんだか知らんが、将軍も祭りに参加・・・まぁ、上から眺めてるだけだろうが。
兎に角、ターミナルで行われるぐらいでかい祭りで、それも将軍が来るってんで攘夷浪士どもが来るだろう。
更に、江戸には危険生物といってもいいであろう、高杉晋助がなり潜んでいるんだとか。
まぁ、将軍に傷一つ付こうものなら私達の首が飛ぶらしい。おー、怖。
因みに高杉情報は『最も過激で最も危険な男』の情報しか私の耳に入っていない。写真とか一切なしだ。
どんなんだろう?いかにも『俺は危険な一匹狼だぜ』的なオーラでも出してんのかな?(ぷぷーっ)



人間(ひと)とは矛盾な生き物。
今の世じゃ、国を正そうとせんばかりの猛者達が溢れ、それに怯える人もいれ、蔑む人もいれば、止める人もいる。
私達は一応、『止める人』であるが、止めるが故に人間を斬らねばならない。
あの人達と一緒の事やってるのに、どうして私達に罪は下らないのだろうか。
私達(真選組)の方が一番矛盾で、中途半端で、罪を受けなければならないんじゃなかろうか。
そう、いつもいつも思う。
でも、思うだけで留まっている。
そうやって矛盾に矛盾を重ねて私達は存在するのだ。











「土方さん、おこづかい頂戴」
「あ?なんだ、この手は」
「おこづかい」
「あげた事なんて一度たりともないわァァァァ!!」


チェ、やっぱダメぁ。だが、私は諦めません。
伸ばした手を引っ込めて、今度は抱き付く。


「パパが酷いー(猿芝居)」
「誰がパパだ!」
「あっち系で」
「何!あっち系って何!」
「実の父親にこづかい貰った事のない子供が可哀想だと思いませんか!」
「思わん!」


決まったような会話があっちに行き、こっちに来。
そうこうしているうちに近藤さんが間に入った。


「ほい、ちゃん。こづかい」
「わーい(5000円〜♪)」
「お前か!お前がを甘やかすから・・・!」
「いってきまーすっ」
「あ、オイッ・・・!」

タッタカター

「・・・行っちまいやがった。って、何気に職務放棄じゃねェかァァァァ!!」








「わー、総悟だー、神楽ちゃんだー、新ちゃんだー、クソマダオだー」
「べふっ!」
「乳首とったりィ!!」


なんか、変なメンバー。
2人(+1人?)は熱中しすぎて私に気付いてないようだ。
傍らで傍観している新ちゃんの手に持っているりんご飴に噛り付く。


「わっ!なんですか、姉上」
「うみゃいうみゃい(かじかじ)」

パンッ

「メガネゲーッツ」
「え゛え゛え゛!!なんでェェェ!?」
「なんかイラッと来たんでェ」


オイ、いつの間に標的変えた?(メガネ高いんだぞアレ!)
ま、アイツには色んな意味を含めて後でしばいとこう。
というか、お前なんで此処にいる訳?(って、私も人の事言えないけど)








ドン!

「あ、始まった」
「始まりましたね、平賀さんのカラクリ芸」


カラクリだけならまだしも、花火まで作ったんでしょ、あの人。
凄いわね〜。うちには機械が全くダメな弟いるし。



次々と綺麗な花火が打ち上げられる。
その間にあるところで危険な男がいるなんて露知らずに。
そして起こった、






ドォン!!


爆発。


「テロだ!攘夷派のテロだァァ!!」

「総悟ッ、コレ高杉が・・・?」
「いや、違う」


アイツはこんな回りくどい事しない、と総悟は言い放った。
広場の方を向くと、そこはもうもうと煙が舞い上がっていた。――――煙幕。
高杉がどんな奴かなんて知らない。アイツがどう騒ぎを起こすかなんて知らない。
でも、コレが高杉じゃないとすると、誰が。





走って現場に戻ると、そこにはカラクリの集団が。
まさか、さっきの爆発はカラクリ芸を披露していた平賀源外が――――
何やら叫び声が聞こえ、誰だと思って見ればうちの大将。
どうやら、名刀『虎鉄ちゃん』が折れたようだ。
それにしても、斬っても斬っても湧いて来るんだけど、このカラクリ達。


ドォンッ!!

「むぎゃっ!!」


カラクリの爆発に巻き込まれた(熱いよォゥ!!)






「祭りを邪魔する悪い子は・・・」
「だ〜れ〜だ〜」



・・・アイツ等・・・(背中、熱い)
後は近藤さん曰く『祭りの神』に任せて、櫓のところで休む。
何回怪我すりゃ気が済むんだ、私の背中はァァ。
と、気が緩み過ぎたのか、気付かなかった。




――――ッ!?」


後ろから羽交い絞めされ、そのまま引き摺られる。
咄嗟に抵抗したが、止まる事なく引き摺られる私の体。
その前に一体・・・誰?


「久し振りだなァ、
「え・・・、」

ドサッ

「わっ・・・!」


投げ出され、自由になった体を私を引き摺った奴に向ける。
そこにいたのは派手な着物着て、右目を包帯で隠してる――――男。


「だ、誰ですか!なんで、私の名前・・・!」
「クク・・・、忘れたのか?そいつぁ、ひでェ」
「忘れた・・・?」
「ま、アレから大分経ってるし、仕方ねェか・・・」


勝手に話し始めるそいつ。
コッチは訳わからんし、お前誰ですかって感じだ。
なのに、向こうは私を知っている。多分、昔の私を・・・。
それに、この男ヤダ。
今まで、数々の攘夷浪士達に立ち向かったが、コイツはまるで違う。
私の本能がコイツを拒否してる。
拒否と言うか寧ろ、恐怖を覚えている。


「貴方・・・誰ですか」
「オイオイ、二回目だぜ?その質問。まぁいいか。俺は・・・」


その時、何故だか更に奴の顔がハッキリ映った。




「高杉だ」
「た、か・・・――――!?」




攘夷浪士の中でも最も過激で最も危険な男――――高杉晋助・・・!?


「や、やだ・・・っ」


武士にとって士道を背く事は絶対に許されないのに、逃げ出してしまう。
だって、逃げないと確実に殺される。
ううん、殺される以上の恐怖が私全体を覆っている。
何、この恐怖は。


「ひでェな、。久し振りに会ったってのによォ」
「嫌っ・・・、貴方なんか知りませんッ、会った事なんてありません!」
「・・・そうかよ。だったら、思い出すまで離してやんねェよ」

ガッ

「ぐっ・・・!」


高杉の片手は私の首を締める。
といっても、力がそんなに入ってないので、苦しいとは思えど、死ぬほど苦しい訳ではない。
意識も薄れていく事がないので、必死にこの男を考える。

彼とは一体、何処でいつ会ったのだろう。
人違いだとずっと思っていたけど、彼は私の名前を知っている。
本当に会ったの?こんな男、素通りしただけでも覚えてそうなのに。
まず、いつ会ったのかが知らないから見当も付かない。
高杉晋助・・・?そんな名前、少なくとも昔は一切聞いた事が・・・、

ふと、彼の右目に巻いてある包帯に目が入る。
右目、怪我でもしているんだろうか。


「・・・が、っ・・・る、の?」
「あ?なんだよ、何言ってんだよ」


喋り始めたからか、高杉は手を離した。


「ゲホッ・・・、怪我・・・してるの?」
「は?」
「・・・右目」
「・・・なんだよ、そんな事まで忘れてんのかテメー」
「なに・・・?」
「自分が手当てしてくれて尚且つ、療養させておきながら忘れてんのかよって言ってんだよ」


手当て・・・療養・・・?私が高杉に?













おめめ、いたいの?













――――あ、・・・。


「おにいちゃん・・・?」
「ふ・・・、やぁっと思い出したか
「・・・すけ、にぃちゃ・・・」


あぁ、会った事あるね。
八年前、突然現れて、突然いなくなった晋助お兄ちゃん。
そうだ、そうだよ。負傷したこの人を助けたんだ、私は。


「なんで今更・・・ッ」
「俺だって探したんだぜェ?でも、お前の家に辿り着いた経路なんて覚えちゃいなかったから大変だった」
「血塗れに倒れてたらそりゃぁね・・・」
「で、幕府の犬にたった一人、女隊士がいるって聞いてなァ。興味本位で見たら驚いたぜ。・・・だったから」
「・・・人間、どう転ぶかわかりませんね。私はコッチに転び、貴方はそっちに転んだ」
「転ぶも何も、俺は最初から此処にいんだよ」


それは決まった事ですか、決めた事ですか。
貴方は何がしたいんですか、何を得たいんですか。
初めて斬った時、混乱して、死人にそう問うた事があった。
こんな事して、何が得られたんですか、貴方が決めた事なんですか・・・て。
泣き叫びながら、口も利かない死人に何度も何度も・・・。


「貴方はなんでそんな事をしてるんですか?そんな事しても」
「意味ない、てか?」
「!」
「大体の奴が同じ台詞を言うぜ。勿論、意味なんてねェよ。だがな、俺の苦しみが獣となってのた打ち回ってんだよ」
「苦しみ・・・?」
「お前、俺にこう言ったよな。『だれかいなくなったの』って」
「言い・・・ました」
「いなく・・・なっちまったんだよ。もう戻って来ないんだよ、あの人は・・・」


この人の苦しみは大切な人を亡くしたからなのであろうか。
この人の言う『あの人』は一体誰?
血の涙を流してた時、もう既に苦しみは始まってたのだろうか。


「晋助お兄ちゃん・・・」
「苦しいのに・・・只でさえ苦しいのに・・・、なんでお前、そこにいるんだよ!!」

ドッ!

「っ・・・!!」
「探してた探してた探してた!ずっと探し続けて、やっと見つけたと思ったら・・・お前は俺の敵になってた」


再び私の首を今度は力強く握り、後ろの木に叩きつけられたと思ったら、また離された。


「敵・・・なのか?俺達・・・」


なんて答えればいいのよ。
私はあの人達を裏切れない、裏切りたくない。
この際、どっちが間違っててどっちが正しいかなんて愚問なんだ。
私達幕府(関係)の人間は、人の皮を被った天人みたいだ。
かといって、攘夷だなんだと言って斬りつける人達も間違ってるかのように思える。
人とは、矛盾しつつ生きている。


「しんす」
「逃がさねェ」
「え・・・?」
「逃がさねェよ。俺と来い、
「い・・・嫌です。私は・・・恩人を裏切れない、裏切らない」
「だから逃がさねェって言ってんだよ。逃げられるとでも思ってんのか、?」


また、だ。
また、独特の雰囲気が辺りを支配する。
・・・怖い。

ふらり、と近付いてくるお兄ちゃん。
自然と後ろへ後退りしてしまう。
だが、彼はのしかかるかのように私に抱き付いて来た。
私は電池が切れたかのように全く動けなかった。


「今日は見逃してやるよ。面白い事が他にあったからな。だが、次会った時は逃がさねェからな」
「やっ・・・」
「お前は俺の傍にいればいいんだよ」


そう言って離れた晋助お兄ちゃんは去ってしまった。
その後姿を見ながら、へなへなと腰が抜け、地面に座り込む。
あれは・・・本気だ。
私は逃げられない。・・・真選組(ここ)にいる限り。











  





初めての絶望と狂愛を受けた彼女。
(2009.5.30)