「さぁ張った張った。丁か半か?」
「半!」
「半!」
「俺も半!」
「丁ォ!」
「勝負!ピンゾロの丁!!」
「よっしゃァァァ!!」
「よっしゃァじゃねェェェェ!!何やってんだ!!」
ゴッ!!
第十三訓:賭け事は大きく賭けないと
「い、いひゃい・・・」
「仕事中に賭場たァ、どーゆう了見だテメー」
「何も本気で殴る事ないじゃないですかー!折角大勝ちしてたのに!」
かったるい仕事だってんで、息抜きに賭場に行ってたら鬼に見つかって制裁が下った。
いやー、本当に痛いんよ。足の小指をぶつけるより(あ、でも、いい勝負かも)
「オイ総悟。テメーの部下だろ。なんとかしろ、この小娘」
「。勝った金はどうすんでェ?」
「勿論、私欲に使う」
「えー、土方呪いセットはどうすんだィ」
「あ、そっかゴメン」
「ゴメンじゃねェよ。お前の部下だっつー時点で手遅れだったよ」
「というか、お前が副長だってのが手遅れで」
「死ね土方(ドゴォォォ!!)」
「うぉわァァァァァァ!!」
相変わらず素早い総悟は抜刀し、土方さんに襲い掛かった。
「何しやがんだテメェェェ!!」
「なんですかィ。制服ノースリーブにしてやろうと思ったのに」
「ウソ吐けェェェェ!!明らかに腕ごと持ってく気だったじゃねーか!大体、どういった流れでノースリーブ!?」
「実は今、俺が考案した夏服売込み中でしてね。土方さんもどーですか。ロッカーになれますぜ」
「誰が着るかァ!明らかに悪ふざけが生み出した産物じゃねーか!」
「総悟総悟。どれぐらい売れた?」
「ほぼ全員」
「マジでか」
「おーう。どーだ、調査の方は?」
「「・・・・・」」
マジで着てた(ちょっとカッコ良くしようかなってあたりが痛い)
只今、潜伏中のテロリストじゃなくて、家出したお姫様を捜索中。
テロリストなら探すのは得意だが、相手はお姫様。
が、私は何度かお姫様の暇潰しにと将軍から呼び出され、何回かお姫様とは対面している。
その度にお姫様は外の事教えて欲しいと、そればかり言っていたな・・・。
「立場が変わったって年頃の娘には変わり無い。最近、お父さんの視線が厭らしいとか、お父さんが臭いとか色々あるのさ」
「お父さんばっかじゃねーか」
「あぁ、その悩みならわかりますよ。最近、土方さんの視線が厭らしいし、近藤さん臭いし・・・」
「え゛え゛え゛え゛え゛!!俺からもう加齢臭がしてるのちゃん!?」
「いつ何処でお前をそんな目で見たァァ!!」
えーっと、お風呂入ってる時(嘘)
「江戸の街全てを正攻法で探すなんざ、無理があるぜィ。此処は一つ、パーティでも開いて姫さんを誘き出しましょう!」
「そんな日本昔話みてーな罠に引っかかるのはお前だけだ」
「大丈夫でさァ、土方さん。パーティはパーティでもバーベキューパーティです」
「何が大丈夫?アンタの頭が大丈夫?」
「局長ォ!」
「!どーした山崎!?」
「目撃情報が!」
「「・・・・・」」
あぁ、此処にもいた(何気に似合ってるし)
「どうやら姫様はかぶき町に向かったようです」
かぶき町・・・よりによってタチが悪いよ、お姫様・・・。
バラバラにかぶき町を中心に捜索する。
煩い副長もいなくなったってんで、賭場に行こうかと一瞬思い浮かんだが、さっき大勝ちしたからか、割と満足していた。
代わりに捜しつつもあたりをぶらぶら。駄菓子屋に寄ると、
「あ」
「「あ・・・」」
なんと、バッタリとお姫・・・そよ様に遭遇したではないか。それも、神楽ちゃん付きで。
2人って知り合いだっけ?と思いつつ、この何とも言えない空気をどうしたものか・・・。
「姐貴、そよちゃん連れて帰るんでしょ?お願いヨ、そよちゃんを自由にしてあげて」
「いいんです、女王さん。あの、さん・・・」
「・・・神楽ちゃん。そよ様と何時間一緒に遊んだの?」
「え?まだ30分も満たないアル」
「そっか。・・・そよ様。本当なら貴女様を連れ帰るところですが、見つけたのは私。私の自由にさせて頂きます」
「姐貴ィ!」
言葉の意味を解したのか、神楽ちゃんが私に思いっきり抱き付いて来た(苦しいです)
そよ様は困惑しているが、嬉しい表情は隠しきれていない。
「いいんですか?さん。私を見つけたのに・・・」
「いいんですよ。そよ様がずっと家出する方だとは存じておりませんので」
「・・・ありがとう御座います、さん」
私達は駄菓子屋から出て、かぶき町内を歩く。
「オォーイ、ー。いるかー?ちゃんやーい」
「何、とっつぁん。つーか、ちゃん付けで呼ばないでよ、気色悪い」←ザキとミントン中
「気色悪くてもなんでもいいから、おじさんからのお願い」
「(気色悪い度倍増)何、なんかあったの?」
「将ちゃ・・・将軍がお前を呼んでいる。だから、おじさんと一緒に来てお願い」
「(気色悪い度3倍)・・・は?」
「将軍って・・・ちゃん!何やらかしたの!?」
「何もやってないよ!」
「いいから来い、!トシとかには話付けといてやるから」
「ヘィヘィ」
「将ちゃん。真選組の志村、連れて来たぞ」
「(将軍を将ちゃんって・・・しかもタメ口って・・・この人何者!?)」
「うむ、御苦労だった松平。そなたが志村か?」
「はい、将軍様。私が志村です。・・・失礼ですが、私を何故お呼びしたのでしょうか?」
「心配するな、殿。呼び出したのはそなたが悪さしたからではない。そう固くなるな」
「はぁ、(固くなるよ、この空気は!)」
「呼び出したのは余の妹、そよの話相手をして欲しかっただけだ」
「そよ様の?私で宜しいんでしょうか?」
「松平から聞いているぞ。女にしては大層勇敢で正義感が強い反面、バカな奴だと」
「・・・とっつぁん。最後の何?バカって言った?将軍にバカっつったのかテメー」
「アハハハハ・・・。将ちゃん、アレだよな、そよちゃんの話相手はがいいって事だろ?年も近いし」
「本当に面白い奴だな、殿は。そよの話相手になってくれるか?」
「喜んで、将軍様」
「此処がそよちゃんの部屋だ。まぁ、固くなんなくていいから普通にな」
「ハイハイ、わかったよ」
「じゃ、俺も持ち場に戻るから」
コンコン
「どうぞ」
ガラッ
「貴女は・・・誰ですか?」
「おや、兄上様から聞いておりませんか?兄上様の命により、貴女の話相手を務めさせて頂く事になりました、志村です」
「あぁ、貴女が・・・。すみません、私が軽はずみに言った事なのに、兄が・・・」
「(軽はずみだったんだ)いいえ、とんでもない。私は少しも苦とは思っておりませんので」
「本当ですか?・・・あの、敬語じゃなくていいんですよ?」
「いいえ、そうはいきません。私も一応、幕府の人間。それに、そよ様こそ目下の私に敬語使ってるじゃありませんか」
「あ、すみません、癖なもので・・・」
「私も癖のようなものです。コレから宜しくお願い致します、そよ様」
「此方こそ宜しくお願い致します、志村さん」
「いやだなぁ、志村さんだなんて。呼ばれ慣れていませんので、でお願い致します」
「あ、はい、さん」
「そよ様。またお外の様子でも伺っているんですか?」
「さん・・・。私もあの下町の娘のように走りたい、遊びたい、笑いたいです」
「・・・・・」
「あ、ゴメンなさい、私ったら・・・!」
「今度、お祭りに行きましょうか」
「え?」
「大丈夫です。貴女にかすり傷一つ付こうものなら、私は腹を切る覚悟です」
「そんな事までしなくても・・・!」
「あら、違いますよ。今のは『どんな危険が迫ろうが、貴女を必ず護ります』という意味です。意味と言うよりケジメですね」
「さん・・・」
「だから、私とお出掛けしましょう、そよ様」
「・・・ふふ」
「「?」」
プリクラを撮った後、何処に行こうかと相談しながら歩いていると、いきなりそよ様が笑い出した。
「あ、ゴメンなさい。さんのあの時の言葉を思い出して・・・」
「あの時?姐貴、そよちゃんに何言ったアルか?」
「んー・・・色んな事言ったから思い出せない」
「さん、腹を切る覚悟で私を護ってくださるって約束した時です」
「あぁ、あの時の・・・。私は本気ですよ。貴女にもしもの身があったら、貴女がやられる前に私がやられに行きます」
貴女でも、他の大切な人でも私は切腹する覚悟で護りに行く。
それが私の武士道だ。
歩き疲れたので、団子屋で一杯(私の奢りです・・・)
「凄いですね〜。女王さんは私より若いのに色んな事知ってるんですね」
「まーネ。あとは一杯引っ掛けて『らぶほてる』になだれ込むのが今時の『やんぐ』ヨ。まぁ、全部銀ちゃんに聞いた話だけど」
ぎ、銀さんんんん!?なんちゅー知識を子供に与えてんのォ!?(しかも女の子に!)
そよ様は意味がわかってないらしく、ちょっとした愚痴を零す。
言っちゃ悪いですが、仕方の無い事なんです。貴女は自由に外へは出れないという運命なんです。
だから、そんなお姫様の暇潰しとして私が選ばれたんですよ。酷な話ですがねェ。
「でも、最初から一日だけだって決めていた。私がいなくなったら、色んな人に迷惑がかかるもの・・・。現にさんに・・・」
「いやいや、迷惑だなんて・・・あ゛」
「な〜にやってんだ〜、〜?(ガシッ)」
「いだだだだ!ちょ、頭取れる、頭取れますって!アンタ等と同じバカの仲間入りになっちゃいますって」
「お前は既にバカだゴラァァァァ!あ゛っ、逃げんじゃねェ!チャイナ娘ェェ!」
ダダダダダ!
「ぬァァァァ!!退くアルゥゥ!!」
ダンッ!
か、神楽ちゃん・・・(そよ様抱えて屋根に行っちゃったよオイィィィ!!)
つか、アイツ等なに総悟(バカ)の考案した制服着ちゃってんの。
「ありゃ、万事屋のとこのチャイナ娘じゃないのか?何故姫と」
「さぁ(ガシャ)」
ガシャ・・・?
「ちょいと総悟君!何出しちゃってんの!何物騒なもん出しちゃってんの!?」
「あの娘には花見の時の借りがあるんでェ」
「待て!姫に当たったらどーするつもりだァ!?」
「そんなヘマはしねーや。俺は昔、スナイパーと言うあだ名で呼ばれていたらいいのにな〜」
「オイィィィィ!!只の願望じゃねーか!」
「夢を掴んだ奴より、夢を追ってる奴の方が時に力を発揮するもんでさァ」
「時にって何!?今がその時なの!?信用出来るかボケェェェ!!」
土方さんが神楽ちゃんに(多分、そよ様にも)説得するが、下りて来る様子なし。
きっと、そよ様の事だから、もういいだのなんだの言うんだろうなぁ。
折角、外に飛び出して友達が出来たってのに、勿体無いよね。
でも、あの方は確かにこの国にとって大切なお方だ。そう、こんな長い間にも外を出してはいけないのだ。警備無しで。
過保護にも似た軟禁、逃れる事の出来ない束縛。言葉を並べるだけでも淋しい人生。
いくらお手伝いがいようが、話相手がいようが、贅沢な生活が出来ようが、それは淋しい人生で終わってしまう。
本当の自由を得ているのは私達、民間人なのよねェ。
暫くして、そよ様だけが下りて来た。
そよ様は局長命令を言い渡された隊士によって連れ帰された。
神楽ちゃんどうしてるかなぁ、と思ってた矢先、
ガシッ
「・・・(あら)」
「コッチ来い、」
ズルズル
私は副長室に連行&説教&その間、軟禁。
「お前は本っ当にいつもいつもいつも(ガミガミガミガミガミ)」
「・・・・・」
「って、聞いてんのかコラ」
「右から左へと」
ガンッ!!
「でっ!」
本日二度目の拳骨(痛いよ母上ー)
「大体、あんな城に軟禁にも似た感じにされちゃぁ、そりゃいつしか脱走しますわ。話相手してても思いますもん」
「仕方ねーだろ。あーいう身分に生まれちまったんだから」
「身分違うだけで年頃の子供に変わりないんですよ。普通の友達ぐらい欲しがったっていいでしょうに」
「・・・まぁ、今回は姫さんの身辺警護って事で許してやる」
じゃぁ、今までの説教はなんだってんだ(口には出さないが)
チクショー、説教され損ならともかく、殴られ損までいっちまってんじゃないか。
+
今日はそよ様と話す日(毎週月水土)
城へ行き、そよ様の部屋へ向かう。
「失礼します」
「さん。・・・あの、昨日は大丈夫でしたか?」
「アッハッハー。バッチリ説教されました☆」
「・・・申し訳御座いません。私が身勝手な事をしたばかりに・・・」
「いやいや、すぐに貴女を保護しなかった私に非があるんですから。でも、コレからは誰かに話し掛けて下さいね」
はい、とそよ様は小さく呟いた。
それからも他愛もない話が続く。
私と話している間、そよ様は酢昆布をカジカジと(神楽ちゃんだな)
「さん。今度私、お見合いするんです」
「へぇー、それはそれは。そのまま御結婚なさるおつもりで?」
「いえ、私にはまだ・・・。だから、断ろうと思っております」
「そうですか。まぁ、私は煩いお上とは違い、そよ様の御決断ならなんとも言いませんが」
「ふふ・・・。だって、私はまだ子供です。それに、全然知らない人と籍を入れて子を産むなんて考えたくありません」
「(話が飛躍してる・・・)確かにそうですね」
でも、そよ様は絶対にお見合い結婚だろうなぁ。
だって、外には出してもらえないから出会いはおろか、出会ったとしても周りは許してくれないだろう。
周りが決めた男性(ひと)と結婚し、生涯を終えるなんて悲しいな。
「下町の恋人達って色々いますね。仲良く寄り添ったり、照れくさそうに隣を歩いたり、ケンカしたりと・・・」
「そうでしょう。でも、彼等だってお互いを知らないのです」
「え・・・」
「全部知る訳がないのです。血の繋がった兄弟でもどう転ぶのか・・・。現にうちの弟は・・・(うっ、う・・・)」
「さん・・・!」
半泣きしたら、本気でそよ様が心配してしまった。
「こないだ、うちの上司に好きな人が出来ましてねェ。いつも傍にいた筈なのにどうしてかな、わからんかったんですよ」
「さん・・・」
「側近として傍にいたのに、いつの間にか・・・。そんなもんです。だから、人間(ひと)が人間(ひと)を理解出来るのは難し」
「さんはその方が好きなんですね」
「・・・はい?」
「だってさん、凄く淋しそうな顔なさってます」
は、好き?
何を仰るんだ、このお姫様は。
だって、今までドキドキもなんもなかったのにありえないよ。
好きな人が出来たって聞いた時も別に・・・。ふーん、あっそ的な。
でも、知らせてくれたって良かったんじゃないの的な・・・わだかまりみたいのもあった。
だから、ありえないよ。・・・ありえない。
← ■ →
哀しいのは、淋しいのは果たしてどっちか。
(2007.9.6)