第十一訓:人の名前は正確に





「オイ」
「・・・・・」
「チビ」
「・・・・・」
「クソアマ」
「・・・・・」
「志村」
「・・・・・」
「オイ、志村後ろ」
「あぁ゛?」
「お、反応した」
「用が無いんなら帰れクソヤロー(さっきからなんなんだ)」
「お前、俺以外の奴には猫被ってんだろィ。まぁいいや。それより、近藤さんがお前を呼んでらぁ」
「近藤?・・・誰」
「ゴリラだ、ゴリラ」
「あぁ、あのゴリラ」
「早く来い、化け猫被り」
「うっせーな。だったら、とっとと連れていけ」


猫被ってるんじゃなくて、気に食わないんだよバカヤローが。
ホンット、コレだけはいけ好かねェや。
つか、向こうも私の事は好きじゃないんだろうな。どうでもいいが。





茶髪クソヤロー(つか、何気にカッコ良くね?)に連れられて、ゴリラの前に座る(近藤さんっていうらしい)


ちゃん。体の調子が大分よくなったって山崎から聞いたんだが、本当かい?」
「えぇ、おかげ様で」
「猫被れる程元気になってますぜ」
「黙れ、お前は。丁度良かった、そろそろうちに帰ろうかなと思ってたんで、近々お話したかったんです」
「治ってからも長居してたくせによく言うぜー」
「(パコッ)アハハー。まぁ、それは後に・・・。で、何か御用でしょうか?」
「あ、いや、俺も同じ事を言おうとしてたんだ。治ったから帰るのかなーって」
「えぇ、うちが心配ですし・・・。姉は私の事を気にかけなくても、家の事を気にかけて無理してそうなんで・・・」
「要はちゃん、働けばいいんだろう?出来るだけ高収入で」
「はぁ、それはそうなんですが・・・」
「制服貸与、食事あり、有給ありなどなど」
「は・・・?」
「うちで働かないか、ちゃん」
「え、あ、はい?」


突然何を言い出すんだ、ゴリラよ。
うちで働かないかと聞かれても、アンタ等の仕事、何してるかわかんないし(警察って何すんの?)


「近藤さん、何寝ぼけた事言ってんでェ?こーんな町娘に俺達みたいな仕事、勤まる訳ねーでしょう」
「寝ぼけてないし、俺達みたいな仕事させねェよ。女中的な仕事だ」
「じょちゅ・・・?」
「平たく言えば、此処の家事全般だな、仕事内容は」
「近藤さん〜。俺と同い年の小娘にそんな事、出来るんですかィ?」
ちゃんは両親亡くして姉弟で住んでるって言ってたね?」
「ハイ」
「て事はだ、総悟。ちゃんは家の事をしていたって事になる。ある程度は出来るだろう」


出来ますけどねェ、そんな話進められても・・・。
あ、そういえば・・・、


「話変わりますけど、私の刀は何処ですか?」
「アレか?アレなら錆びてたから鍛冶屋に出しているが・・・」
「え、父の形見なんですが」
「その形見をなんで腰に下げてたの、ちゃん」
「ないと落ち着かないというか」
「そうか。お父さんはもしかして、攘夷戦争に参加してた?」
「んーん。私が産まれた頃は戦争に行った人がたくさんいたけど、母上が死んじゃって、父上が育ててくれたの」
「じゃ、道場の主?」
「うん、そう。父上が死んじゃった今は弟が道場の主!」
「そかそか」

ガラッ

「おう、トシ。遅かったな」
「何処の鍛冶屋に出してんだテメー。江戸から大分離れてんじゃねーか」
「出来るだけいいところで打ってもらおうかと思ってな」
「しかも料金は俺払いだし。返せ、金」
「ほら、ちゃん。直ったよ、刀」
「オイ、無視してんじゃねーぞ。金出せ、金」
「わーい、ありがとう御座いますー」

「ケチケチしてっと嫌われますぜ」
「どんだけしたと思ってんだ、アレ。何気に高かったんだぞ、アレ」


刀が戻って来てルンルンハッピー♪
廃刀令がなんぼのもんじゃーい。此処は侍の国だぞー。
・・・段々、いなくなるのかな・・・侍。
凄く小さい頃に見た、堂々と腰に刀差して歩いてる人を見るのが好きだったのに。
今では、腰に刀差してる人はそれだけで罪人だもんなー。


「お前、剣術はどうなんだ」
「小さい頃、ガキ大将を竹刀でしばき倒した経験を何度か」
「あー、そうか。お前の年齢を考えてなかった」
「トシィ!俺は反対だぞ!何ゆえ、こんな可愛い子に俺達みたいな仕事をさせるんだ!」
「いや・・・無意識的にあそこまでの動きが出来てたから」
「?」


なんだ、何をしたんだ、私。


「女中の仕事か、俺達みたいな仕事か、どっちがいい?」
「まず、貴方達の仕事内容を知りません」
「そうか。まぁ、簡単に言えば取り締まり役だ、攘夷浪士達とかテロリストとか」
「は、エロリスト?」
「違う」
「爆弾がどっかーん」
「わざとだろ、さっきの」
「まぁまぁ。要はその攘夷浪士達を捕まえればいいんでしょ?」
「別に騒ぎを起こしてなかったらいいんだよ。それに、捕まえると言うか、主に斬るだな」
「反対だからね!俺は何がなんでも反対だからね!」
「あ、そっちの方がいいかも」
「ええええええ!!」


や、だって、そっちの方があってる気がする。
でも、さっき斬るとか聞こえちゃったな・・・。


「殺した事ってあるんですか?」
「何回、何十回もある。向こうも反抗してくるからな。コッチも死ぬし、向こうも死ぬ」


滑稽。
死以上に何を求めるのかは愚問に過ぎない。
死以上に求めるもの、それは生だろ。
私はそうだ。生を求めてる。生きなきゃ、大切な人を護れない。


「弱肉強食の世界だ。斬っても斬られても誰も助けに来ない」
「・・・世の中、そうだと私は思いますが」


弱者は強者に縋り付くのは当たり前の事。
が、侍はそういった醜い事をする前に死を選ぶ。まぁ、中には縋る奴もいるが。
私の父上はどうだったのかなぁ。縋り付いてたのかなぁ。


「率直に聞きますが、どっちが儲か・・・稼げますか?」
「俺達の方だな。税金だし」
「俺は反対だからね!何がなんでも反対だからね!」
「・・・こんな人が大将でいいんですか?此処(同じような台詞が3度目だし)」
「こういったお人好しがたまに傷だがな」


あぁ、なるほど、お人好し。
バカなゴリラと思っていたが、言われてみればお人好しだな、この人は。
弱肉強食の世界だってのに、私を匿い、そして雇おうとしている。


「別にいいんじゃねーですかィ。本人が言ってんだし」
「・・・そうか。それじゃ、ちゃんは総悟の隊に入れるから」
「は!?嫌ですよ、俺ァ!」
「年が近い方がいいだろう。ハイ決定〜」
「・・・アレ(沖田)、偉い人?」
「真選組は局長、副長、隊が十、そして監察で成り立っている。総悟は一番隊の隊長だ」
「へー、人は見かけによらな・・・」


アレ。今、アイツの隊に入れるとか言ったよな?
て事は、アイツは私の上司・・・?


「私も嫌だ!!」
「・・・なんで仲悪いんだ、コイツ等」
「ハイハーイ、ちゃんも言っちゃったんだからね〜。もう決定しちゃったもんね〜。総悟、よろしくね〜」


近藤さんは書類みたいな物に判子をドンッと押した。


「制服作ってもらうから後でサイズとか測ってね。じゃ」


ゴリラは書類を持って、そそくさと部屋から出て行ってしまった(畜生!)


「んじゃ、仲良くしろよテメー等」


瞳孔も出て行った(名前は確か・・・土方って言ったな)






「・・・・・」
「・・・・・」


そして、取り残された私達。
変な空気・・・ピリピリした空気が私達を包んでいる。
確かに、何でこんなに仲悪いんだろう。
お互い、何もわかってないからかな・・・。


「ねぇ」
「・・・・・」
「ねぇってば」
「・・・・・」
「ねぇ!」
「うるせーな。なんでィ」
「私の事、嫌い?」
「・・・別に」
「じゃぁ、なんでそんな冷たく当たるの」
「・・・そっちが俺の事嫌ってるから」
「は?」


何アホな事抜かしてんだ、コイツァ。
誰がいつ何処でアンタを嫌いと言った。私は覚えてねーぞ。
確かに気に食わないとは思った事あるが・・・。
別に嫌いではない。


「バカですか?アンタ」
「あぁ?」
「私がいつ、アンタを嫌いになった?そっちが気に食わない発言するから、コッチも反発するだけだっつのに」
「・・・そーかィ」


茶髪は少し俯いてしまった(そーいや、)


「ね、名前なんていったっけ?沖野?」
「・・・沖田」
「あ、沖田だったの、ゴメン。ねー、なんて呼べばいい?私等、同い年なんでしょ?」
「んー・・・」
「それとも、一応上司だからさん付けがいい?」
「いんや、上司とは言えど、周りは年上ばっかで・・・、あーでも、タメ口だけどさん付けだなぁ・・・」
「へぇ。でも、周りがじゃなくて、アンタはどう呼ばれたいの?」
「どう・・・」
「そりゃー、仮に私が年下だったら『沖田さん』だけどね」
「・・・名前」
「ん?」
「名前で呼んで」
「・・・ゴメン、下の名前なんていうの?」
「総悟」
「そうご・・・?呼び捨て?君付け?」
「(・・・)呼び捨てで」
「ん、わかった。じゃさ、私の事も名前で呼んでよ。志村ってのはあまり呼ばれ慣れてないんだ。あ、だよ」
「(よく喋るな)・・・?」
「うん。あ、こう書くの(カリカリ)」


その辺にあった紙とペンで名前を書く。


「そうごは?どう書くの?こう?(草五)」
「なんだ、この当て字。こうでィ(カキカキ)」
「『総悟』・・・。総てを悟るって書いて『総悟』なんだね。うん、いい名前だ(バシッ)」
「イテッ。・・・アンター・・・」
「ん?」
「結構、・・・かわいいねィ」
「か・・・?」


今なんと?


「・・・、!!な、なな何を・・・!(ボボッ)」
「あり?(なんか変な事言ったか?俺)」
「『あり?』じゃねーよ!この爽やかフェイスがー!!」

ダダダダダッ

「・・・逃げちまった(なんで?)」












  





次週、ちゃんショックな○○に!
(2007.8.22)