第九訓:男装だからって、男と決め付けないで欲しい
斬られた背中が痛みを通り越して何も感じない。
生まれてから切った事無いに等しい髪も切られている。
刀を杖代わりに、私は夜の街を逃げる。走っているつもりだが、歩いている。
どうしよう。3人、残して来ちゃって逃げちゃったよ。
どうしようにも、まず頭がもう回らない。眠い。
「嬢ちゃん、どうした?こんなところで」
「・・・・・」
誰。
必死に目を開けようとするが、薄っすらとしか開かなくて、相手の顔なんて全然見えない。
「土方さん。本当に女なんですか?男もんの着物着てやすが。しかも黒」
「男で髪長い訳ねーだろ」
「いやアンタ、コイツより長かったじゃないですか。そもそも長いですか?それ」
「・・・まぁアレだアレ、勘だよ」
低い声と高い声が聞こえてくる。けど、何を言ってるのかがハッキリと聞き取れない。
「そもそも、死んでんじゃねーんですかィ?意識なさそうだし・・・」
「・・・いや、脈は僅かにある」
触るな、やめろ。
私は生きている。まだ生きている。
ブンッ!
「うお!」
「・・・・・」
「へぇー・・・、廃刀令の御時世にそんなもん、持ってるとは」
煩い。
ぶんっ!
「オイ総悟。あんまりそいつ動かすな。なんか様子がおかし――――」
ビシャッ!
「・・・こいつぁ・・・」
「もしかして、コレ・・・全部血か?コイツの・・・?」
もうダメ、沈んでいく。眠い。
ヤバイよ、どうしよう。だって、嫌だよこんなの。
もう気温がわかんない、自分の体温もわかんない。身体が冷たくなる感じ。
どうしよう、終わっちゃうの?ねぇ、終わっちゃうの?
ヤダよ、こんな終わり方。生きたいよ、ねぇ。
妙、新ちゃん、どうしよう。私、嫌だ。生きたい、生きたいよ。
父上。まだ知らない事いっぱいあるのに、死んじゃうなんて嫌だ。助けて。
あの時の答えも知らないまま死んじゃうなんて嫌だよ、父上。
恋ってなに、愛ってなに、わからない。
「・・・れか、・・・け、・・・」
誰か、助けてください
―――― ・・・
温かい・・・。
私、生きてる・・・の?
けど、身体が重すぎるし感覚が無い。視界だけがボヤーっと見える。
そこに映るのは何処にでもあるような天井、だけど私の部屋ではない。
ゴソゴソ
あ、誰かいる。
「あの・・・」
良かった、声は出るようだ。
私の声に気付いた人は恐らく、コッチに振り向いただろう(顔を動かす事出来ないし、視線を動かすのも億劫)
「気付いた?」
「はい・・・」
声から察すに男の人だ。
その男の人は私が寝かされている布団まで来てくれた。
若干視線をずらすと、外側に跳ねた髪と三白眼が印象的な男の人(もうちょっと黒目でかめがいいかも)
「無理に動かない方がいいよ。傷が膿んで高熱出しちゃってるから」
「・・・ぁい」
「もう丸二週間寝たきりだったよ。起きないかと思ったぐらい」
・・・・・
「にしゅ――――ッ!!」
「あー、動かないでってば!」
「すいません・・・」
丸二週間寝てたという事実に驚き起き上がろうとしたら激痛が背中から走った。
そんなに派手にやられたのか、私。
「左腕右足と肋骨骨折、背中に深い刺傷2ヵ所。他、全身に打撲、軽い刺傷などなど」
「?」
「君の容態だよ。何があったの」
「・・・・・」
人から聞かれると思ったより重体。
よく生きているな、私。
と思うのも、背中が激しく痛い所為だが。
「普通、子供がそんな怪我負う事なんてまずないよ。失礼だけど、闇関係の子?」
「闇?・・・暗いの?」
「・・・いや、ゴメン、俺の勘違い(絶対なんの事か知らないね、この子)」
「・・・でも、普通じゃないや」
「え?」
「あのね、お金が欲しくてスリを何回かやった事・・・ある」
「・・・なんでそんなにお金が欲しいの?」
「姉弟を助けたかったし、自分も助かりたかった」
「というのは?」
「・・・借金持ちなの、うちの家」
どうかしてる。赤の他人にベラベラ家の事情を話すなんて。
でも、一度出した言葉は引っ込むどころか、更にベラベラと語り出す。
「そっか、辛かったね」
「・・・ケーサツに言わないの?私、悪い事したんだよ?」
「見えないかもしれないけど俺、警察なんだ」
「え」
本当にケーサツになんて見えない。
そういえば、着物じゃない変わった服着てるや。
「・・・というか、俺も君にとって悪い事しちゃったからおあいこ様。出来れば黙っててね。俺も捕まっちゃうから」
「なんで?おにーさん、私の治療してくれたのに」
「いやまー、そうなんだけど・・・。治療するためにアハハー的な」
「?」
「・・・男の子だと思ったんだよね、君の事。で、治療するために着物脱がしたら女の子でしたーなんて、アハハ」
治療するために・・・脱がした?
男の子だと思って・・・脱がした?
・・・私の着物を?
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・アハ、」
「・・・えっち」
「・・・なんとも言えません(反応薄ッ)(でも何かグサッて来た・・・)」
ケーサツがこんなんでいいのか?なんか不安になって来るんだけど・・・。
いやでも、この人はあくまでも私の治療をするため、やむを得なくだったんだ。うん、そうだ。
この際、男の子だと思ってはスルーしよう。ちゃんやさしー。
数日後、座れるようにまでなったところで、なんか此処では偉い人が私に話があるって、山ちゃんが(名前教えてもらった)
山ちゃんが連れて来た偉い人が三人来た。
中には私と年が変わらなさそうな男の子もいた。
「どーだ、身体の具合は」
「大丈夫・・・です(瞳孔開いてる)(でも偉い人)」
「えーと、志村ちゃんって言ったね。いやぁ、一目見た時は男の子かと思ったが」
「女です(ゴリラだ、ゴリラ)(この人も偉いんだね)」
「志村・・・志村後ろってか」
「言うと思った(コイツは偉い人じゃないな、絶対)」
「コラ総悟。人が嫌がるような事を言うんじゃない」
「大丈夫です。今までそうやってからかって来た奴等を嘲笑ってやりましたから。へっ、て」
「へっ」
嘲笑い返されたなんて初めてだ!(バカだコイツ)
「山崎から聞いたから大体の事情はわかってる。それでだ、」
「・・・(じっ)」
「オイ、ちゃんと聞いてんのか?」
「・・・(瞳孔開いてる)」
「・・・一度興味持ったもんから目が離せないタイプだな」
「え、あ、話進めてください(瞳孔が)」
「人のコンプレックスをいつまでも見てるな」
コンプレックスだったんだ。
しっかし、話ってなんだよー。さっさとしてくれよ。こちとら、バイト二週間以上も無断欠勤してんだから。
「ちゃんは年いくつ?」
「15」
「嘘吐けィ」
「あんだと(コイツ、なんかいけ好かない)」
「本当に嘘だろ。いいとこで12,3だろ」
「酷い!保険証ありますよ!コピーですけど」
そう言って、保険証のコピーをゴリラさん(仮名)に渡す。
瞳孔さん(仮名)とゴリラさん(仮名)はその保険証のコピーを見る。
「・・・マジで15か」
「いや、すまん。コレも15だから比べてしまってな」
「同い年!?なんか嫌だ!」
「俺が驚く方でェ。つか、嫌ってなんだ」
こんなガキと同い年なんて抵抗がある。なんでかは知らないが。
「15だったらいけるよな?お前は12だと思って反論してたが」
「確かに年齢的には大丈夫だ。けど、出来るのか?」
「人間、やってみなきゃわからんだろう」
「それが通ったら世の中どうなってんだよ」
瞳孔とゴリラ(なんかコレ等にさん付けしてるのバカらしくなってきた)が色々と話し合っている。
私はというと、その二人の話の間、山ちゃんに手伝ってもらってリハビリ中。
途中、あのガキがちょっかいだすが、ちゃんは大人だから相手にしない。
普通にリハビリをしているが、一歩間違ったら激痛が走る。恐ろしい。
「ハイ、一歩ずつ慎重に〜」
「・・・(ビキッ)いでェェェェェ!!」
「・・・やっぱり、もう暫くは様子見よう」
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男装は趣味ではなく、普段着なんです。
(2007.7.8)