噂は屯所中に広まった。
第二訓:はじめまして、主人公
「副長ォォォォ!!」
「局長が女に振られた上!」
「女を賭けた決闘で汚い手使われ負けたってホントかァァ!!」
あらあら、皆さん直接的ねェ。知ってたけど。
「会議中にやかましーんだよ。あの近藤さんが負ける訳ねーだろが。誰だ、くだらねェ噂垂れ流してんのは」
「沖田隊長とちゃんが!」
「スピーカーで触れ回ってたぜ!」
皆して此方を指差す(あー、茶が美味い)
「俺達は土方さんに聞きやした」
「・・・コイツ等に喋った俺がバカだった・・・」
「なんだよ、結局アンタが火種じゃねェか!」
「偉そうな顔してふざけんじゃないわよ!」
「って事は何?マジなのあの噂!?」
次々に騒ぎ出す隊士に土方さんはキレた(おー、恐)
そして、退が可哀想な目にあった。
それを見物してたら、襖が開かれた。
「ウィース。おぉ、いつになく白熱した会議だな」
顔を腫らした近藤さんが現れた途端、場に微妙な空気が流れる。
土方さんの溜め息がやたらと大きく響いた。
バケツを持たされて市中見廻り。
ベリベリと土方さんは電柱から一般住宅にまで貼られた張り紙を剥がし、それをバケツの中に入れる。
私と総悟が持ってるバケツがもう溢れんばかりだ(なんて行動が早い人達)
そんな私の考えを他所に土方さんはとんでもないと言えば、とんでもない事を言い出した。
「斬る?」
「あぁ、斬る」
「件の白髪の侍ですかィ?」
それにしても斬るって・・・。
確かに隊士共は殺気立ってますよ。でも、騒ぎになる前に始末って・・・それこそ騒ぎになりそうだよ。
「土方さんは二言目には『斬る』で困りまさァ。古来、暗殺で大事を成した人はいませんぜ」
「暗殺じゃねェ。堂々と行って斬ってくる」
「そこまでせんでも、適当に白髪頭の侍見繕って連れて帰りゃ、隊士達も納得しますぜ」
いや、適当って・・・
「コレなんてどーです。ホラ、ちゃんと木刀持ちな」
「「じーさん。その木刀でそいつの頭かち割ってくれ」」
ジジィかよ。ジジィに近藤さん負けたっつーのかよお前は。
「パッと見、冴えないですがメガネ取ったらホラ、武蔵じゃん」
「「何その無駄なカッコ良さ!」」
メガネ取ったらホラって・・・なんで知ってんだアンタは。
総悟はそのじーさんに手を振っている。
「マジで殺る気ですか?白髪って情報しかないのに」
「近藤さん負かすからには只者じゃねェ。見ればすぐわかるさ」
そんなもんかねェ・・・。
見ればすぐにわかるって、人は見かけによらないってのに。
「オーイ、兄ちゃん。危ないよ」
上からやる気のなさげな声が聞こえて上を見たら、廃木が上から落下して来た。
土方さんは間一髪で避けやがった(チッ)
土方さんだから良かったものの、他の人だったらどうしてくれんだ。もっとテンション上げて言わないと。
落としたというか、落としてしまったであろう人がヘルメットを取る(あ、)
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!テメーは・・・池田屋の時の・・・!」
あの、窓突き破って爆弾投げた人!?
なんだこの人、本職は大工?
でも、あの無茶な行動を取ったこの人なら近藤さん負かすかもしれない。白髪だし。
テロリストなのに無茶な爆弾処理をした人が近藤さん負かして本職は大工?なんか訳わかんない。
「そういやテメーも銀髪だったな」
「・・・えーと、君誰?」
アレ、忘れられてる?
「あ・・・もしかして多串君か?あらら、すっかり立派になっちゃって。なに?まだあの金魚でっかくなってんの?」
「オーイ!銀さん早くコッチ頼むって!」
「はいよ。じゃ、多串君。俺、仕事だから」
上から叫ばれた声に従って、銀髪パーマは仕事に戻った(銀さん・・・?)
「行っちゃいましたよ。どーしやす、多串君」
「今度金魚見せて下さいよ、多串君」
「誰が多串君だ。それに俺は金魚なんざ飼ってねェ」
いだだ、ちょ、髪掴むなって、ハゲる。
いや、勘弁してって。この歳で、しかも女なのにハゲるってのは厳しいから。
「あの野郎、わずか1話で人の事忘れやがって。総悟、ちょっと刀貸せ」
「「?」」
近くの屋敷の屋根から二人の戦いを見物していた私と総悟。
剣を抜く前まではそんなに強くないとは思ってしまったが、剣を抜けば、その姿は様になっていた。
なんつーか、昔、幾度も死線を潜り抜けて来たような、そんな感じがする。
あと、なんか早く終わりたがっているようにも見えたのは気の所為かな。
近藤さんの時は汚い手使われたって言ってたけど、とてもそんな風には・・・
「・・・フフ、面白ェ人だ。俺も一戦、交えたくなりましたぜ」
「やめとけ。お前でもキツイぞ、総悟」
「近藤さん」
全然別のところで戦っている、か。
一体、あの人が何処で戦っているのかはわからない。
でも、あの人は護るべきものを護るためには、どんな手段だって使いそうな気がする。
私と同じ、護るべきものを・・・。
← ■ →
さて、彼女の正体は・・・、
(2007.1.21)