男女が手を繋いでいたら仲のいい恋人同士に見えるだろう。
普通に手を繋いでいたら、の話だが。
「凍矢」
「」
「・・・どーなってんのコレェ!?」
「俺も聞きたい」
凍矢と。一応、恋人同、
「一応じゃない!」
「誰に言ってるんだ、お前」
・・・恋人同士である。
の右手と凍矢の左手。一見すると凍矢がの手を握っているように見える、というかまんまそれなのだが、
「なんで離れない?」
離そうと思っても離せないのである。
力いっぱい込めれば少しだけ離す事はできるのだが、いつでもフルパワーでいれる訳もなく、すぐまたくっついてしまう。
「はっはっは!どうやら成功したみたいだな」
「貴様の仕業か鈴木ィィィィィ!!」
がシャウトした。
そして、鈴木にアッパーカットを繰り出す。
「へぶっ!」
「凍矢。私、右利きだから、殴る時はほとんど右で殴ってたんだけど、左の方が強いって事が判明したよ」
「そうか、良かったな」
の乱暴な面を見慣れてる凍矢は動揺しなかった。
彼もと同じ気持ちなのか、血管が浮き出てる(ように見える)
「いてて・・・。は殴る時、左でもいけるなんて想定外だったな」
「殴られるとわかってた上でやったのか」
「科学者は過程がどうであろうと、結果を求めるものだ!」
「アンタの何処が科学者?マッドピエロが」
「というか。お前、鈴木に何か食わされたか」
「私が鈴木から渡されるもん受け取る訳ないじゃない」
「だったら、何・・・」
「が凍矢の部屋にいる間、こっそりコレ(薬)を部屋に置いたのだ」
「・・・・・」
「・・・・・」
この時、と凍矢の心は一体化となった。
二人に散々殴られ、もはや顔の原型を留めてない鈴木。
殺してしまったら、このまま離れられないかもしれない、と寸でのところで理性が働いた。
「で、元に戻る方法は?」
「ない、とは言わせんぞ」
「ない」
「・・・ないんだったら殺っちゃってもいいよね、凍矢」
「同感だな」
「ま、待て待て待て!ない、というのは解毒剤の事だ!時間が経てば自然と離れる!」
「時間が経てば、というのは」
「どれぐらいの時間なのでしょうね〜、鈴木?」
「個人差だな」
の左ストレートと凍矢の蹴りが炸裂した。
鈴木によると、長くても一晩だそうで。
もうコレ以上痛めつけても何も変わらんし、疲れるだけだと判断した二人は皆に説明する。
まずはお馴染み、六人衆のメンバー(鈴木除く)
「・・・と言う事だ。わかってくれたか」
「鈴木が科学者じゃなくてマッドピエロだったって事だべ?」
「わかった、お前にはもう一度説明しなければならんな」
「ちげーよ、陣。要するにアレだろ、今夜その状態で一緒に寝てねっぷりとした一夜を過ごすってこ(ゴッ!)」
「何か言ったか?」
今日はこれで何回目だろうか、凍矢の右ストレートが今度は酎に炸裂。
「ま、兎に角、凍矢とがくっついて離れないって事だべ?・・・さっさと離れちまえばいいのに(チッ)」
「あれ、なんか標準語でものっそい毒のある言葉と舌打ちが陣の口から出た気がするんだけど、気のせい?」
「オレもとくっつきたいべ!」
「コレ以上、私の手が塞がってたまるか!」
「ていうか、一定距離を保って離れたら、案外自然と離れてるんじゃない?」
鈴駒の提案にすぐさま行動を移す4人。といっても、酎と陣だけなのだが。
酎は凍矢を、陣はの肩を掴む。そして、
「ぬおぉぉ!」
「んぎぎぎ・・・っ!!」
「いだだだだ!陣、痛い!腕よりも引っ張ってる陣の方が痛い!」
二人を引き裂くように引っ張り合う。
離れてるには離れているのだが、薬の効力が強いせいか、磁石のように引き合おうとしている。
「・・・なんか、凄い光景だね」
「くだらん。見るに耐えんな」
あれだけ引っ張ったにもかかわらず、二人はまたくっついてしまった。
諦めた(というより飽きた)4人はさっさと部屋を出ていった。
「あー、いったー。陣の奴、思いっきり肩掴むもん」
肩をさすりながら文句を言う。
凍矢も酎に思いっきりやられたからか、同様に肩をさすっている。
「あ、そろそろ迎えが来るかな」
「・・・この状態で帰るのか?」
「・・・・・」
「ははは!そりゃ災難だったな、」
「笑い事じゃないよ躯!」
「悪い悪い。それより、耳貸せ」
そう言われ、躯に近づく(凍矢付きで)
躯はの耳に口元を寄せ、凍矢には聞こえないよう、声を小さくして囁く。
「やるチャンスだぞ」
「は、何を?」
「だから、(自主規制)をだ」
「・・・本っ気で怒るよ躯!!」
「おー、怖い怖い」
顔を真っ赤にしながら叫んだ。
はそういう事(行為)がある事自体知っているのだが、遠回りな表現で言うとそれとは結びつかないらしい。
故に躯は直接的な言葉で言い、が怒った、という訳である。
一方、聞こえてなかった凍矢は何があったのかわからず、疑問符を浮かべている。
そこへ躯が爆弾を放り込む。
「というか、風呂とかどうするんだ、お前達」
「・・・・・」
「・・・・・」
「なんかさ、言われるとやりたくなるよね」
「・・・あぁ」
「・・・お風呂入りたいなぁ」
「我慢しろ」
「・・・言われんでも我慢したるわチキショー!」
八つ当たり半分で叫んだ。しかし、叫んだところでどうもならない。
躯も余計な事言ってくれた、とは思う。
部屋から出てこの部屋に辿り着くまでに(というか、今も)気まずい雰囲気になってしまったのだから。
「(しかも、楽しそうだったし、躯)」
ひっそりとため息を吐いた。
「笑いに来たのか、コラテメー」
「フン、笑う気も失せるほどくだらんな」
「それはそれで腹立つな」
(女)の部屋だというのにズカズカと入ってきた飛影。
躯が面白可笑しくと凍矢の状態を話してたもんだから見に来た次第である。
その表情は何処か面白くなさそうに見える。
そして、チッと舌打ちした後、部屋から出て行った。
「何だったの、アイツ」
「さぁな」
とは言ったものの、凍矢は飛影の心情がわかっていた。
目の当たりにして、心底面白くなかったのだろう。好いてる奴が他の男に触れられていて。
は、てっきり飛影は躯の事が好きで、躯も飛影の事が好きと思っていたのだが、実は飛影はの事が好きなのである。躯が飛影の事が好き、というのは合ってるが。
けど、は(今のところ)自分の事が好きであって、ちょっとした優越感を感じる反面、飛影の気持ちを汲み取ると、切ない感じが勝っている。
「(虚しいな、飛影)」
赤みかがった黒髪を梳かすようにの頭を撫でれば、照れてるようだが、嬉しそうにはにかんだ。
その表情が愛しくて、目を細める。
そして、就寝時間。
やはり未だ手が離れないため、ベッドに一緒に寝る事となった。
「鈴木の発明にも困ったものねー」
「そうだな」
「・・・ねぇ凍矢」
「?」
「最初、こんな事態になった原因を作った鈴木にすっごいムカついてシバいたけどさ、でも、凍矢とずっと一緒にいれて嬉しかったよ。・・・このままでもいいかも」
「な、何言ってるんだ」
「冗談だよ(半分本気だったけど)」
「・・・いいから寝ろ」
「うん、おやすみー」
そうして二人は眠りに就いた。
+
翌朝。
「ん、・・・」
起きたのは凍矢。いつものように軽くのびをし、起き上がる。
「む」
寝起きだったから一瞬忘れていたが、昨夜、と手を離す事が出来ず、繋いだまま寝てた事を思い出す。
そして今、自然と離れた事に気付いた。
すると、隣で寝ていたも気配に気付いたのか、すぐに起きた。
「あ、凍矢、おはよー」
「あぁ」
「ん、むぉ、離れてる?」
「そうみたいだな」
「じゃぁ、お風呂入る」
「は?」
「いやだから、昨日入らなかったじゃん。凍矢も後で入る?」
「あ、あぁ・・・」
は飛び起きるなり、タンスから着替えを出し、さっさと浴室へ向かった。
じゃ、と言って戸を閉め、本当に風呂に入ってった。
思わず、が風呂に入ってる様子を思い浮かべてしまった。
だが、そんな想像は頭をかきむしる事で消し去る。
変に意識し過ぎか、と思い、落ち着かせる。
「は風呂か?」
突然の来客に珍しくも驚いた凍矢。
「躯・・・」
「その様子じゃ、離れる事が出来たようだな」
「まぁな」
「ところで凍矢」
「?」
「お前、に何もしなかったのか?」
「は?」
今日二度目の台詞を吐いた。
「少し言い直そう。・・・何もしてないよな?」
答えを聞く前なのに殺気が溢れそうになっている躯。
普段感じる事のない寒気を感じた凍矢。
実際、何もしてない訳であるが、もししてたら何されてたかわかったもんじゃない。
背筋に冷や汗を流しながら、してないと答えた。
「そうか。だったらいいんだがな。・・・オレはまだ手放す気ないぞ、を」
躯はの事を心底気に入っている。実の娘のように。
だから、に悪い虫が付こうものなら全力で追い払っていった。
躯はにやるチャンスだぞ、などと言ったが、それはからかうためのものであって、実際にそんな事があったら気が気でないだろう。
ともあれ、凍矢にとっての障害がまた一つ増えたのだった。
ただでさえ奥手なのに、更なる障害が増えたという意味です、最後のは。
てか、うちの凍矢の脳内は中2なのだろうか。風呂シーンの想像って・・・。
(2010.7.30)
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