「・・・なんだそれは」
「なんかね、私の頭が気に入ったみたいで」
の頭の上に乗っている(しかも寝ている)死々若丸を見て、凍矢は眉を寄せた。
自分の女が他の男に気安く触られてるのを見てなんとも思わない男はいないだろう。少なくとも、凍矢はその類だ。
「器用にも寝てるから起こさないであげて」
「・・・・・」
出来る事なら今すぐ引っぺがして投げ捨ててやりたい、と思うのだが、はこのまま寝かせとくつもりでいるらしい。
面白くない、と思いながらも、の横に腰掛ける。
彼女はと言うと、寝てる死々若丸を気遣ってか、真っ直ぐと前を向いている。
「いやね、さっき下向いたら落っこちゃって。・・・それで起きてしまって、機嫌悪くなったんだけど、また寝たみたい」
その時に自分がいれば排除出来たかもしれない、またそんな考えが頭をよぎる。
「ところで、なんでそいつがこんなところ(凍矢の部屋)にいるんだ」
「・・・そういえば、どして?」
「俺に聞くな」
が来た時から小鬼状態だった死々若丸。誰かの頭に乗りたいなどと思っていると、丁度いいところにが通りがかった。
すぐさま実行に移し、が驚くのも承知の上で頭の上に乗り込んだのだった。
も悪い気はしなかったからそのままにしておいたら、いつしか寝息が聞こえたのだとか。
そして、そのまま凍矢の部屋へが行った、というところに至る。
本当のところ、凍矢の心情は穏やかではない。それどころか、荒れ放題である。
こうして一緒にいる時など極僅かで、普段は離れたところで生活している。
故に、お互いが離れている時は当然の事だが、相手が何しているかも知らない。
自分自身、ここまで独占欲が強く、嫉妬深い奴だったなんて思ってもみなかったが、の口から異性の名が出るだけでも少し腹立たしく思う。
もで、凍矢と過ごす時間より、異性で言ったら飛影と過ごす時間の方が長い。同じ場所で生活しているだけに。
けど、はその事について何も思っていないし、凍矢の思っている事なんて想像もつかないだろう。
「(元から鈍いしな)」
性格と忍の習性が混ざっているからか、凍矢は滅多に自分の感情や思っている事は外に出さない。
それに、出したところで彼女を困らせる、と思うと余計に言い出せないでいた。
それはそれでよい、と思っていたのだが、我慢するにも限度がある。
じっ、と未だの頭の上にいる死々若丸を睨み付ける。
すると、起きていたのか、パチリと目を開け、不適な笑みを浮かべた。
その瞬間、凍矢の中で何かがキレた。
がしっ
「え、凍矢?・・・若、起こさないでって」
「・・・お前もあの体勢のままじゃ辛いだろ。部屋に連れていくだけだ」
「あ、そう・・・?」
死々若丸が起きているというのを気付かれないよう、部屋から出ていく。
少し歩いたところで、思いっきり投げ飛ばしたっていうのは言うまでもないだろう。
邪魔者を排除したとこで、再び自室へと足を運ぶ。
部屋に戻れば、寝転がりながら首をさすっているに目が入った。
「何してるんだ」
「あれ、凍矢、早くない?ま、いっか。いやね、何時間もあの小鬼を頭の上に乗っけてたから、首が凝っちゃって・・・」
「そうか」
呟くようにそう言ってからドアを閉め、鍵をかける。
「あんれ?珍しいね、鍵かけるなんてさ」
起き上がるついでに首を回しながら不思議そうに尋ねる。
密室に男女が2人、それなりに警戒してもおかしくない状況なのに、呑気に首を回し続けている。
「(本当に無知なのか?)」
この状況にされても、安心しているのとは違う、何もわかっちゃいない。
無知なものほど恐ろしいものはない。だが、煽られる。
大分マシになったのか、首を動かす事をやめたはぼーっと前を見据えている。
その顔をこちらに向かせ、唇を合わす。
突然の事に驚き、少し体を強張らすだが、そのまま受け入れる。
「・・・ん、!?」
単なる唇を合わせるのも束の間、凍矢の舌がの口内へと入ってきた。
今までにない感触に驚いてしまったは、彼の舌が入り込んでくるのを許してしまう。
思わず離れようとした彼女の頭を抑え、更に深く口付けてゆく。
それでも、慣れない感触に耐えれず、離れようと試みるが、どうやっても無理だった。
「んん・・・」
歯列をなぞられたり、上唇、下唇吸われたり、舌を絡められたり。
押し返そうと思ってあてた手は頼りなく、凍矢の服を掴んでいる。
凍矢は空いているもう片方の腕をの背に回し、引き寄せる。
やや筋肉質で細身ではあるものの、柔らかな、女らしい体のつくりをしている。
それから少し経って、ちゅ、と音をたてながら唇が離れた。
状況を把握出来ず、混乱している様子のの顔は今までにないぐらい紅潮しており、息も上がっている。
酸欠と恥ずかしさでの目には涙が溜まっており、凍矢はそれを指で拭う。
「いきなり何・・・っ」
「・・・まだ終わらんぞ」
「ちょ、よ、黄泉に聞こえ・・・!」
「今出てる」
「そんなっ・・・」
「いいから、少し黙っとけ」
そう言って、また口を塞いだ時、
「凍矢ー、パトロールの時間だべー!(ドンドンドン)」
部屋のドアを思いっきり叩かれ、でかい声で名を呼ばれ、すぐ離れた。
「あれ?凍矢、いないべかー!?(ガチャガチャ)」
「・・・・・」
「(助かった)呼ばれてるよ、凍矢」
「・・・チッ」
「(チッ!?)」
少し不機嫌そうに腰をあげ、戸を開ける。
はなんとなく、部屋の角に隠れた。
「煩い。・・・寝てただけだ」
「(嘘つけ!)」
「そうだったべか。ま、いいや。早く行くけろ」
「あぁ。・・・支度するから外で待ってろ」
「ほいほい」
陣に先に行くように促し、再びドアを閉める。
部屋の角で座っているに近づき、目線を合わせるためにしゃがむ。
覗いたの顔は未だ赤みが差したままで。
思わず喉で笑ってしまう。
う〜、と唸るの頭をポンポン、と叩くように撫で、頬に唇を寄せた。
「凍矢は意地悪だ」
頬を膨らませ、負け惜しみのようにそう呟くが、目を潤ませ、真っ赤な顔で言っても余計にそそられる。本人は無自覚なのだろうが。
もっと触れていたい、という気持ちを抑え、適当に宥めてから部屋を出る凍矢。
一人残されたは悶絶としていた。
「(別に、嫌じゃなかった・・・んだけど)」
あんな接吻の仕方もあるんだ、と顔を更に紅潮させながら思う。
舌を絡まれたり、唇を吸われ、こそばゆいのとはまた違った感じが襲ってきて。
あまりにも長い口付けに頭がクラクラしながらも耐えて。
いざ解放されれば、ホッとしたような残念なような複雑な気持ちが絡まって。
嫌じゃないのに耐えれない。それがよくわからなくて、混乱していて、正直コレ以上は無理だと思ってた時に陣がやってきた。
少し驚きはしたものの、自分としては良かったと、は思う。
もし、あのまま続いてたら、自分はどうなってたんだろう、と思うと怖くなってきた。
「(でも、今はなんだか、・・・とても嬉しい、かも)」
奥手で自分のやりたいように出来ない凍矢と、色々な事が何もわかってない無知な。
前途多難な日々がまだ暫く続くであろう。
すんません、書いててこっ恥ずかしくなりました。
すんごい攻めモードな凍矢。今回攻めまくったおかげで、また奥手な凍矢に戻ります。
つか、うちの凍矢ってキス魔?
(2010.6.5)
前 戻 次