体が熱くてだるい。

コレでも火炎術者だから体が熱くなっても耐えれる。逆に寒くて体が冷えるのは苦手だけど。
でも、今は普段の熱さとは全然違う。
今までに体験した事はない。


「う〜、熱い」


全身が熱く、頭も痛いし関節も痛い。
人間界でコレだけを言うと、風邪と見なされるらしいが、そんなヤワなもんにかからない。
今、魔界で大流行している病気の一種。コレが人間にかかったらひとたまりもないだろう。
今のところ、飛影もかかったし、鈴駒もかかったし、若もかかったし、凍矢までかかった。
凍矢の時は大変だったなぁ。熱さ(暑さ)に滅法弱いから、本人、相当苦しんでたし。
まぁ、凍矢のは過ぎたから置いといて。

コレ、氷系統の妖怪がなっても大変だが、火炎系統の妖怪がなっても厄介らしい。
妖気が暴発してしまい、体温が急激に上昇する事から、治りにくいか悪化してしまうらしい。
飛影もそうだったけど、私も相当キてる。
どういう訳か、百足以内にいる皆全員かかっちゃっているみたい。飛影を除いて。
躯も時雨もダウンしちゃって、そっちもかなりヤバイみたい。
だから、他所に頼んで看病に来てくれているらしいが、数が数なだけに回ってこないとこもあるらしい。
私には、これまたどういう訳か、飛影が看病してくれている。躯にではなく。
アレかな、躯にはなんつーか、医学に詳しい人が診ているのかな。
そういえばコレ、伝染病らしい。広めたのは絶対、アイツだ(そして、麻疹みたいに一度かかったら、もうならないらしい)
ったく、どっからもらって来たんだ、飛影の奴。


「熱いー・・・。熱いよー、ひえいー・・・」
「黙って寝てろ」
「うー・・・ん。ていうか、なんで飛影が診てるの?」
「自覚はないだろうが、今のお前の体温は魔界の炎より遥かに超えている。他の奴には到底触れられん」
「あー・・・、飛影もそうだったっけ。躯に頼まれて診てたんだよ、あたしゃ」


部屋が(他の妖怪にとって)灼熱地獄化するほど、飛影の体温上がってたなー、そういえば。
今の私も同じなのかなー。
あー、飛影はまぁ、看病ではどうにもなかったけど、やっぱり凍矢が大変だったな。
風呂も水はもちろん、氷水の時もあるって言ってたくらいだから、自分の体温が上がって、かなり参ってたみたい。
普通の氷じゃ、すぐ溶けて意味がなかったから、雪菜ちゃんに溶けにくい氷を大量に作ってもらって。
それを凍矢の看病に使うのは勿論、部屋を冷やすために至る所に置いたり。
さっきも言ったが、私は寒い場所は苦手で、私自身も正直辛かった。
自分の周りだけ暖かい妖気で包めばいい話なんだが、私だけでなく、周りにも少し影響が出るからやめておいた。
凍えそうなほど寒い部屋だったけど、その甲斐あってか、あんなに苦しそうだった顔が穏やかになっていって。
それを見ると、私も安心してしまって、その時だけ寒さを忘れていた。

凍矢、今何してるかなー・・・?


「凍矢ー・・・」
「・・・(凍矢、か)」










さっきよりも体が熱くなっている。まるで、自分の妖気(炎)に呑まれているような。
眠たい訳じゃないのに、目が開けられなくて、近くに飛影がいてるのかいてないのかさえわからない。
コレは、いくら看病があっても乗り越えれるものなの?
弱い妖怪とかだったら死ぬんじゃないかな。
私は死なないと思うけど、とても辛い。
こりゃ、悪化してるのかな。



どれぐらい経ったか、突然、額に冷たいものがあたった。
飛影が濡れタオルでも乗せてくれたのかな?と思い、開きづらい瞼をこじ開ける。
薄っすらと開いた目に映ったのは、さっきまで考えてた人物。

凍矢・・・?

口は開くのに、声が出ない。
喉が焼けたかのようにヒリヒリする。
あまりの熱さで自然に出て来た涙で視界がぼやける。
けど、目に映るのは凍矢で、私に向かって腕を伸ばしている。
額に乗っているの、凍矢の手なのかな。
ひんやりしてて、気持ちいい。
それは時々、額から頬に移動して、私は心地良く感じ、再び目を閉じる。
暫く、その状態が続いていたが、不意に(凍矢の手であろう)それは離れていった。
折角気持ちよかったのに、と少し残念がっていると、代わりに唇に冷たい感触が。
前にも味わった感触だ、と思い、また薄っすらと目を開けると、綺麗に整った凍矢の顔が。

私、接吻されている・・・?

普段なら驚いて飛び起きるところなんだけど、熱さでだるくなった体の所為か、それが出来ない。
それに、触れている唇もだけど、なんか口の中にも冷気入って来ている気がして、それが心地良くて素直に受け入れる。
けど、意識がハッキリしない。

あぁ、コレは夢、か。

そうだよね、呼んだ覚えもないし、こんな暑くなっている部屋に凍矢がいる訳ない。
意識もハッキリしないのはそのためか。
二度目の接吻が夢の中とは。いや、コレは数えないね。
それにしても、病に倒れて精神的に不安定だったのに、幸せな夢見るなー。
お願い、もう少し、このまま幸せな夢、続いて。











「・・・ん、」


目が覚めた。
あれ、結構体が軽い。


「お、おぉっ。治、ったぁ!?」


どうやら治って、喜んだのも束の間。少しの間の歓喜は驚きによって打ち砕かれた。
それも、目の前で寝ている人物の所為で。


「な、(なんで凍矢が此処にいるのぉ!?)」


気配を察知したのか、凍矢はすぐに起きた。
ちょっと寝惚けた目でコッチを見る(凍矢の寝起きの顔、ちょっと可愛いかも)


「凍矢、なんで此処に?・・・あれ、飛影は?いなかった?」
「・・・その飛影に呼ばれて此処にいるんだが」
「え?」


て事は、飛影が凍矢を呼んだって事?
そこまで気が回る奴とは到底思えないけど。
まぁ、過程はなんであれ、飛影が凍矢を呼んだってのには変わりがなくて。


「俺じゃ不服だったか」
「ううん、そんな事ないっ。とても嬉しくて、でも、驚いてしまって」


でも、凍矢っていつからいたのかな。
寝ていたって事は長い事いてたのかな。



それにしても、数時間前まであんなに苦しかったのに、今じゃなんともない。
苦しんでいたというのに、いい夢見てた気がする。
内容は全く覚えてないんだけど、とても嬉しくて、とても幸せな夢だったと思う。


「というか凍矢。よく入ってこれたね、私の部屋。暑くなかった?」
「妖気で冷やしたからな」
「あ、道理でこの部屋、ひんやりしている訳だ」


凍矢が傍にいてくれたから、幸せな夢見てたのかな。
なんか、あまり覚えてないはずなのに、夢の中に凍矢がいた気がして。
ひょっとすると、アレは夢じゃないんじゃないかなって。でも、覚えてないのがちょっと悔しい。


「凍矢、来てくれてありがとうね」


そう言ったら、凍矢は少し微笑んで、頭をくしゃりと撫でてくれた。







夢だと思っている内容は全て現実なんですよ。
今回の病のイメージ(モデル)は新型インフルエンザです。
(2010.3.24)