「とーや、あげる」
「・・・頭でも沸いたか」
「ひっど!」
凍矢に藍色の包装紙に水色のリボンが付いた箱を渡したら怪訝そうな顔された。
でもって、受け取ってくれない。
「受け取って〜」
「悪いが、物を贈られても受け取らないのが忍びの習性でな」
「え、陣にあげたらもの凄く喜んでくれたよ?」
「アイツは特殊だ。毒が盛られたもん食っても大丈夫なんだ。というか、陣に物を贈るな」
「それって何気にバカにしてない?陣の事。てか、なんで?」
「なんでもだ」
「ぶー」
未だに行き場の無い箱は私の手の上に乗っかったまんま。
手の平より少し大きいサイズの小さな箱だ。
私は凍矢の事好きだから毒なんて盛らないのに。
確かに忍びって、常に疑っているようなもんだけどさ。
わかってても、不満に思わない事なんてない。
「コレ以上、駄々こねるんだったら、溶かすよ?(ボボボ)」
「駄々こねてるのはどっちだ。火を出すな」
「焼くよ?」
「どんな脅しだ」
指先で火を出しながら脅すが、効果はないようだ(まぁ、本当にやらないってわかってるからだと思う)
はーぁ、人間界じゃ今頃、楽しそうにしてるんだろうなぁ。
そりゃ人間界の、更に小さな島国の勝手なイベントだから魔界には全然馴染みないんだけどさ。
螢子ちゃん達はどうしてるんだろう。
「人間界の風習でさ、この日はなんか女から男にちょこれーとというお菓子贈るらしいよ」
「知らん」
「・・・なんかヤケ酒飲みたくなってきた。ちょうど此処にお酒あるし」
「誰が介抱すると思ってるんだ」
「今度から飛影や陣にしてもらう」
「待て」
お酒持って部屋から出ようとしたら、間髪入れず止められた。
別に狙ってた訳ではないよ。本当に飲みたくなってきたんだし。
「物を受け取る受け取らない程度で不機嫌になるな」
「(受け取る受け取らない程度だとォォ)(ぶすっ)」
「・・・不細工になってる自覚あるのか、お前は」
「むきーっ!」
今のはマジ傷付いた!酷い!好いてる相手に不細工言われた!泣く!(もうめちゃめちゃ)
「もういい!自分で食べるっ」
ガサガサと包み紙を剥がし、箱の中の物を食べる。
見た目の色が悪いにも関わらず、口に入れた途端広がる甘味な味わい。
濃厚な味わいに耳のあたりがじーん、と痺れる。
「・・・うまっ」
気付けばさっきまでの怒りは何処へ行ったのか、私はちょこれーとを貪り食ってた。
実はちょこれーとなんて初めてなのだ。
だから、凍矢に毒味、じゃなかった、凍矢と一緒に食べようと思ったのに。
「うま、何コレ、美味しい。人間界も捨てたもんじゃないねー(もぐもぐ)」
「(コレもまた凄い顔だな)」
「何か言った?」
「いや」
次々と口に入れてた所為か、箱にあったちょこれーとがあっという間に全部無くなってしまった。
「あーぁ、もうなくなっちゃった」
「美味かったのか?」
「うん。今まで食べた(甘い)ものよりも」
「・・・、付いてるぞ」
「え?ちょこれーとが?何処?」
・
・
・
「・・・甘っ」
「っ、なな、なにをし、!?」
「何って、取ってやったんだろうが」
「それにしても!」
あんな取り方は無いんじゃない!?
凍矢は私の口の端に付いていた(のであろう、)ちょこれーとを舐め取ったのだ。
接吻とかまだやった事もないのに!
いやいやいや、アレは接吻なんかじゃない。かろうじて触れてない。
口元に触れた唇はとても冷たかったのに、触れた後の今はとても熱い。
まだ、感触が残っている。
「〜っ」
「どうした?」
やった張本人は涼しい顔しちゃってるし。
熱い(暑い)時は凍矢に冷ましてもらえばいいんだけど、こんな事があった直後の今では余計熱くなるのが目に見える。
凍矢はいつも冷静なのにね。ずるいね。
体質からか、色素の薄い唇を見つめる。
どうせなら、もっとちゃんとして欲しいな。
そんな本音を心の中で呟く。
なんて、凍矢には口が裂けても言えないけどね。
「凍矢が受け取らないんだったら飛影にあげれば良かった」
「待て。全く、お前って奴は、」
もう少し自覚してくれ、と言われてすぐ、唇に冷たく柔らかいものがあたる。
それが凍矢の唇だって事に気付いたのはすぐだったんだけど、頭と体がフリーズしちゃった。
触れた唇はすぐ離れていった(凍矢はまた、甘いなどと言って顔を顰めてたけど)
「よくそんな甘いもの食べれるな」
「私、甘い物好きだもん。凍矢は嫌いなの?」
「嫌いというより、苦手だな」
必死に平静を装って会話していくけど、そのうちボロが出そうだった。
耐えず、立ち上がって、
「ご、ゴメン。パトロールの時間だから。帰っててもいいから」
と言って、逃げ出すように自室を出て行った。
まだ感触が残っている唇に指先で触れながら、先程の事を思い出す。
そういえば、自覚してくれって、どういう事なんだろ?(ま、いっか)
遅くなってしまったバレンタインネタ(つか、もうホワイトデー近いし)
凍矢って基本的に奥手だけど、無意識にさらっととんでもない事しそうな感じ。
(2010.3.7)
前 戻 次