妖怪同士の勢力争いに暗躍する先頭集団、魔界忍者。
闇の世界の更に影を生きる彼等に一片の光も射さない。
命をかけた戦いの前に、それぞれの一番弟子に奥義を託し、部隊を維持していく。
今宵も魔忍の修行が開始される。
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・うーん、何コレ」
「俺が聞きたい」
凍矢は呆れ気味に溜め息を吐く。
の手の中には、氷の塊らしきものが。
「えっとね、氷の弾を作ろうとして、こんなのが出来ちゃった」
「弾なのか、それは」
塊は塊でも、紐状のような細長いものがの手の中に。
コレは彼女の妖気で作られたもの。
自身、弾のつもりで作ったようなのだが、出来上がったものがコレじゃ、凍矢が呆れるのも無理はない。
「だから、こうして気体を集め、氷の粒をいくつか作るだけだろうが(ポゥ)」
「こう?(どんっ)」
「誰がでかい弾作れと言った」
「なんかね、ちっこくいくつも作るのがどうも難しい」
デカイ弾を作り、それを小さくしようと思ったら、武器としてはとても扱えない物を作ったり、先程のような紐状の物を作ったり。
前途多難な(弟子)に凍矢は頭を抱えたい気持ちになった。
凍矢は、同じ呪氷使いであるの言わば、師匠にあたる。
は未来の魔忍になるべく、凍矢の指導の下、毎晩修行に励んでいる。
幼い頃から凍矢(師匠)の戦いを間近で見てきた。
師匠として、同じ魔忍として、呪氷使いとして尊敬し、そして兄のように凍矢を慕っている。
勿論、他の魔忍や見習い達も慕っているのだが、凍矢に対して特別な感情を抱いてるのも否定出来ない。
暫く先程のような状態が続いたが、挑戦していくうちに徐々にそれらしい形になっていた。
とは言え、まだ不完全な形だが。
「なんとか出来たよ」
「よし、それじゃ飛ばしてみろ」
「(ふー)・・・落ちた」
「お前は今まで俺の何を見てきたんだ」
ぐりぐりと、の頭に拳を押し付ける。
「痛い痛い!」
「普通に吹いて飛ばないのは当たり前だ。妖気で飛ばすんだ」
「あ、そう言えば、凍矢はそうしてたよね」
「俺は、じゃない。お前も、だ(ぐりぐりぐり)」
「いーたーいーっ!」
の修行がこんな感じに日々、続いていた。
+
「え、人間界?暗黒武術大会?凍矢達行くの?」
「あぁ」
「私は?」
「此処に残って、修行してろ」
その後、散々駄々をこね、強制的に残されたが、それで諦めるではない。
「(ふふふ、侵入成功ー)」
首縊島行きの船にこっそり侵入した。
ちなみにこの船には大会に参加する者ではなく、観戦する者が乗っている。
は時空の歪を利用し、人間界へやって来た。
初めて訪れた人間界に多少の違和感を感じたものの、すぐに慣れたようだ。
凍矢達に会える楽しみと、初めて訪れた場所とで浮き足立っている。
「人間界なのに、人間が全然いないー。ま、妖怪の大会だしね」
ふらふらとしているもんだから、時々ダフ屋だか販売屋だとかに声をかけられる。
なんの事かいまいちわからなかったため、次々と無視する。
「(嬢ちゃんがサービスしてくれたら安くするよ、とか言われたけど、サービスってなんだろ)」
こんな調子である。
「あ、人間だ!(しかも女の子!)」
観戦しに来た螢子達を発見した。
凍矢に知らん男に付いていくな、声かけるな、などを耳にタコが出来るほど言われている。
周りが男だらけで生活していただけに、男に対して警戒心が少し薄い故、彼は口を尖らしてまで言い続けていた。
女の子で、しかも人間だから大丈夫よね、と勝手に決めつけ、なんの躊躇もなく話し掛ける。
「すみませーん。今、大会ってどうなってますか?」
「え?あ、今、2回戦が終わったとこで、浦飯チームってところが勝ったの」
「といっても、あまり見てないんだけどね、私達」
「へー。じゃぁ、魔性使いチームが勝ち残ってるか負けてるかわかります?」
「あ、さっき負けたチームじゃない」
「そうそう!」
「ありゃ(負けたんだ)」
螢子達に軽く挨拶し、暫く呆然と立ち尽くしていた。
「(凍矢達が、負けた?)」
自分が見てきた彼等は強かった。任務で失敗する事もなかった。
けど、そんな彼等が負けた。相手がどんな奴等か知らないが。
ともかく、恐らく怪我しているだろうから、とは思い、医務室に向かった。
途中、すれ違った三下妖怪が魔性使いチームに対して文句を聞きながら。
「(聞くところによると、人間に負けたって事?何さ、自分等は怖くて戦わないくせに)」
すれ違う妖怪達を氷付けにしながら医務室に向かう。
感情で左右されるな、といつも凍矢が言っていたのだが、どうもにはそれが無理らしい。
「凍矢いるー?凍矢ー!」
医務室の入り口で叫ぶを寝ていた妖怪達が見やる。
「だべ!」
「あ、陣!凍矢は?」
「あっち」
陣が指差したところに向かう。
仕切ってあったカーテンを引くと、凍矢がいたにはいたが、何やら頭を抱えている。
「どしたの、お師匠さん」
「・・・、お前と言う奴は」
言うか否か、凍矢はの頭を掴み、自身の胸のところまで持っていくと、首に腕を回し、締めあげた。
「痛い痛い痛いー!!」
「あれほどこっちには来るなと言っただろうが」
「ごーめーんなさーいー!」
半泣きになりながらも謝るが、それだけで凍矢は解放しない。
此処が病室だというのに、騒いでる彼等を瑠架が止めに入るが、聞こえない様子。
そこで陣がを凍矢から引き剥がし、騒ぎが収まった。
「凍矢、いくらなんでもやりすぎだべ」
「そーだそーだっ」
「・・・全然応えてないみたいだな、」
「ごめんなさいー」
もう一度やられる、と思ったは半泣きになりながら謝った。
「言い訳なら聞いてやる。何故来た」
「凍矢達の試合が見たかったのと、人間界に来てみたかったのとで」
「ところで、次々と氷付けになった妖怪が運ばれてくるのだが、お前か?」
「その通りでーす」
「(あれだけの数の妖怪を氷付けにしても尚、この調子か。相変わらず妖力が有り余ってるんだな)」
師匠として当然の事だが、凍矢はの素質を見切っていた。
は自分の妖力(ちから)が膨大であるため、それを上手くコントロール出来ないでいる。本人は自覚していないが。
おかげで感情が高ぶると、制御が出来なくなり、周りを巻き込んでしまう。
それもあって、凍矢は感情に左右されるな、と常に注意している。
「画魔、やられちゃったんだ・・・」
「あぁ」
「・・・でも、凍矢達は試合も終わった事だし、魔界に帰れるんだよね」
「確かにそうだが・・・」
「でもオレ達、大会が終わるまでいようかなと思ってるだ」
「そうなの?」
「まぁ、俺達の怪我も完治してないしな」
「(凍矢、ケガしてるんだ)」
の胸の中にはそれぞれの思いが複雑に絡み合っている。
「凍矢達が帰るまで人間界にいてていい?」
「俺の目の届く範囲にいるならな」
「わーい」
凍矢は魔界に残して来たの事が気がかりだった。
この大会で自分は命を落とすかもしれない。だからに自分の持てる技全てを教えていた。とは言っても、当の本人はその事わかってはいないし、技も使いこなせていない。
魔界は弱肉強食の世界。がおいそれと(色々な意味で)襲われる事は無いと思ったが、全く無い訳でもない。
自分達のチームが負けて、さっさと帰ってしまおうか、と思ったが、幽助達の事も気になってはいた。
どうしたものか、と少し悩んでいた時にが現れた。
これはこれで良かったかもしれない、と凍矢は思う。
後日
「、そろそろ魔界に戻るぞ」
「あのね凍矢。螢子ちゃんと雪菜ちゃんとぼたんちゃんっていう女の子の友達出来たの。暫く人間界にいたいな」
「お前はまた俺の知らないとこで・・・」
「ダメ?」
「っ・・・、まぁ、いいが」
「やったー!じゃ、螢子ちゃん達のとこに遊びに行ってくるー。ちゃんと帰ってくるからー」
「・・・・・」
「凍矢もには敵わねーだな」
「・・・煩い」
「まー、弟子ってのはかわいーもんだべさ。凍矢の場合、それだけじゃないみたいけんろ?」
「氷付けにされたくなかったら黙ってろ」
呪氷使いで、幼いヒロイン設定。
なんか、ヒロインを可愛く書きたくなったんです。
んでもって、1話完結を目指したかったのに、コレも続編書きそう・・・。
(2010.5.16)
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