「ところで、前の話でお前、誰とヨリ戻すっつった?」

「う゛」

「なァ、オイ?誰と付き合ってたんだ?」



別に銀さんはもいい年だしィ?男関係は何にも言わないさ〜。でもォ、相手が相手だよね〜、と間延びした声で話し掛けてくる。

怖い。例えるなら、隠してた0点の答案を母ちゃんに見つかって笑顔で説教されるぐらいの恐ろしさ。

その恐怖が今、私の背中にくっついて離れない。

ヤハー☆一時のテンションに身を任せたら滅ぶってわかってんのにやっちゃったー・・・(泣きたいナ☆)



「いや、あの、その、前回のは言葉の文って事に・・・」

「出来るか」



あ、ヤバイ・・・☆



「・・・ゴメン、仕事戻、グェ!!

「逃がすか」



そそくさと、ベタな逃げ方をしようとしたら、やっぱりというか、首根っこを掴まれた。

ダメだ、銀は完全に狩る者の瞳になってる。

いやー・・・私、狩られる者になってるー・・・

あー、もう此処は降参しかないの?いや、降参したらしたで怖いけど。







「チクショー・・・俺のが既にヤられていたとは・・・」

「何を」

「めくるめく官能の世界・・・」

「アンタの脳内、そんなんばっか!?唯一、土方さんと似てないとこだね!」

「いーや、男は皆エロだ。それに、ムッツリな奴ほどエロかったりする」

「ムッツリより歩くわいせつ物の方がエロいと思います」



確かに掃除したらエロ本が出てくるような場所で仕事してるけどさ(調べたら全員のだったよ)

でも、銀なんてエロ本にプラスしてジャンプじゃん。ダメじゃん。

そろそろジャンプ卒業しないとさー、低落な大人に・・・って、もうなってるか。



はもう既にアレじゃないんだな、処女」

「普通に言うなァァァ!!」

「アレだろ、痛かっただろ?それとも痛くないほど小さかったとか?」

「下品!」



右ストレートが腹にヒット。

ぐごぐェ!などという変な声を上げながら銀は崩れた。

・・・確かに処女は土方さんに持っていかれたけど。



「確かに、は、初めては銀が良かったよ、私だって。でも、突然、別れてしまったから、会えないかもって思ってたし・・・」

「・・・まぁー、俺も童貞じゃないしな。お互い様だろ」

「・・・銀の初めてはどんな人だったの?」

「あ?あー・・・お前以外、そんな燃えるような恋が出来なかったから適当に遊女・・・だったような」

「アバウトだね、相変わらず」



コイツにとっての初めてはそんな、どうでもいい事だったらしいよ、遊女さん(遊女かどうかもあやふやだし)







副長補佐という役職に就いて、自然と土方さんと付き合うようになった。

本当に何もかも自然の成り行きで、そういう事も付き合って4ヵ月後、ヤった。

いつかは来るんだと覚悟していたんだけど、当時もいい年だったので、処女だなんてその時になってまで言ってなかった。

事が進みそうになった時、怖くなって、思い切って事実を打ち明けると、土方さんはそれを承諾して彼なりに優しく抱いてくれた。

勿論、痛くて苦しくて泣いたが、何度も私を安心させてくれたからか、終わった後はとても幸せな気持ちになっていた。

その時はもう、銀の事を忘れていたのかもしれない。







「なぁ、どうだったよ?土方君のテクは」

「どうだったって・・・土方さん以外、抱かれた事ないから上手いのかどうかもわかんない・・・」

「そーかィ」



銀は私から視線を反らしてテレビの電源を入れた。

・・・もしかして、他の男に抱かれたから怒ってる?でも、それは昔の話・・・



「銀、・・・ゴメンね」

「なんでが謝んだよ」

「だって、土方さんとや・・・ヤった時、銀の事忘れてたんだもん」

「・・・あ゛ー・・・当然の事なのになー」

「?」



ソファに寝転びながら、銀は顔に手を当てた。



「さっきも言った通り、もいい年してるから男と関係持ってもおかしくねーなとは思っているんだけど、」

「銀、」

「よりにもよってアイツだもんよー。コレが全然知らない奴だったら少しはマシなのによー」



あ、なんだ嫉妬か。

確信ついたけど、やっぱりなんか申し訳ない気持ちが消えない。

・・・アレ、それよりもこの雰囲気・・・



「・・・・・」

「・・・・・」



お互い、無口になる。雰囲気がアレだからだ。

銀は寝転んだままの状態で天井を見、私はなんとなく、銀を視界に入れないように目を逸らす。

アレ、こんな話、銀はいっぱいしていたのに、なんで。



「・・・ぎ、銀。なんか言ってよ」



相変わらず目を逸らしたまま。でも、銀が動いてる気配を感じる。

徐々に震え出す私の身体(なんで)

あの時と同じ、初めて抱かれる前の時と似たような感じ。

いや、いくらなんでも銀はこんな状況の中、抱くなんて考え、無い筈・・・







「この空気はなんですか、ヤってもいいって事?」







「・・・は?」



銀の言ってる事が最初わかんなくて、顔を上げる。

目に飛び込んで来たのはドアップな銀の顔。しかも、総悟君よろしくな黒い笑みがオプション付きで。

え、何。この人、まさか・・・



「いやいや、『は?』じゃなくてね。だって、この雰囲気はもうヤってもいいよ的な」



・・・頭ん中、ピンクの世界が広がっちゃってるよ、この人。

信じられないというか、常識的な考えした私がバカだった。

いや待て。その前にこの状況をなんとかしないと。

冷静に言ってるように見えるかもしれないけど、私の全身には冷や汗でいっぱいだよ。



「ま、待って、銀。え、何?なんでそんな事に・・・てか、正直言って無理」

「安心しろ、銀さんは優しくしてやるから」

「いや、そんなキリッとした顔で言われても無理なのものは無理」

「何が無理なんだ?ソファーか?布団がいいのか?だったら、それも安心しろ、ちゃーんと干したから。1ヵ月前に」

「1ヵ月前かよ!つか、無理の意味が違う!全体的に無理なの!」



1ヵ月前っておま、ほとんど汚い布団じゃねェかァ!

男だらけのところで働いてるからよーくわかるよ、1ヵ月も布団放ったらかしにしたらとんでもない異臭を放つ事を!



「全体的は無いだろ。なんだ、何がダメなんだ?言え、銀さん直すから」

「もう取り返しのつかないところだよ」

ちゃん。人間、過ちを犯してもやり直せる事は出来るんだ」

「無理だよ。まず何が無理って、取り返しのつかない天パ。つか、お前誰」

「んだとゴラァァ!よーし、上等だ。今から愛を確かめ合おうじゃないの」

「待てコラァァ!何が上等だ!全然、上等じゃないんだよ!お前等ホント似てるよな!」



手首を掴まれて、ずるずると引き摺られる。

体重をかけて抵抗を見せてもなんのその、私の抵抗は意味がないかのように引き摺られる。

嫌ァァァ!ちょっと待てよ!こういうのはアレ、心の準備ってもんが必要でしょーが!

片手で座り込んでる私を引き摺りながら、銀は寝室に繋がる襖を開けた。



「イヤァァァァ!!なんで布団が敷いてあんのォォ!」

「布団片付けんのめんどいんだわ」



だったら、私が片付けてあげるから!いや、本当にやめてください。

好きな人に抱かれるのは嫌じゃないのは百も承知。けど、銀はいつも軽々しくて、本気だとしてもやっぱり不安で。

だって、あの時は自然の成り行きで行ったんだよ。愛がたっぷりよ。

コレは自然の成り行きではなく、強引。

いつも下ネタばかり発言していて、セクハラして・・・銀が本気だとしても、コッチは軽々しく思っちゃうのよ。

実際、銀が本気かどうかなんて今はわかんないけど。



ぼすっ



なーんて考え事をしてたら、強く腕を引っ張られて布団へ見事にダイブ☆

いやァァァ!ちょ、本当に何、この急展開ーっ!

こんなん、絶対無理だよ!何が無理って、そこらへんは大人の事情!

いや、だってね、一応、仕事の最中なのですよ。そこらへんとプラス、心が無理。準備出来てない。



「ちょ、銀んんん!!私、まだ仕事・・・!」

「サボればいいだけじゃねーか。沖田君なんていっつもサボってんじゃん」

「総悟君はサディスティック星の王子様だからいいの!許されるの!1%の確立で!」

「いや、それ許されてないじゃん。てか、許す許さないの前に日常茶飯事だから呆れただけじゃねーの?」

「なんで総悟君のサボりが日常茶飯事だってわかってんの!ストーカー!?」

「いや、銀さんは決してあっちの方向じゃないから。ノーマルだから」



色んな意味でアブノーマルだよアンタは!

なんで・・・こうなったんだろ。

糖分取り過ぎだと怒って、ものの弾みで土方さんとの前の関係を自らバラしちゃって。

あの一言が無かったらこんな事にはなってなかったのかな。あー、もうヤダ。

チクショー、コッチはデリケートなんだよ。薄いガラス・・・プレパラート並なんだぞ。ちょっと刺激を入れただけでパリンだよ。

なのに、こんなのって・・・(ヤバイ、泣きそ)



「ちくしょー・・・(グスッ)」

「んな顔してもダーメ。もう銀さんマジモード突入だから。止められないから。ダメだから」

「ダメなのはテメーの頭だ(ずず、っ)」

「どうせお前の事だからくっだらねー事で泣きべそかいてんのかもしれねーけど、言っておく」

「(ずびずび)くだらねーとは何だっ」

「銀さんはの事が好き過ぎてどーしようもないの。こんなんで嫌われたら元も子もないけど、好きだからしょーがないの」

「そんな事言われても、」

「だから、お願いだから、もう何処にも行かないでくれ。頼むから」



私の言葉を遮りつつ、銀は話す。

そうだった。私は銀の前から突然いなくなったんだった(総悟君に拾われたからだけど)(でも、総悟君は悪くない)

本当に銀が、突然いなくなった私の事を考えて悩んで想ってくれたのなら、私は謝る。

だって、掴み所のなかった銀がそれほど私の事を心配してくれていたのに、私は銀を信じてあげれなかったから。

――――いや、それだけではない。事実、私の我が侭でもあった。恐いから、という。

何を恐れるのか。銀が本当に私の事を愛しているのかどうか。

だって、私はこんなに好きなのに、時が経って捨てられるのかと思うと、恐くて仕方なかった。

だから、昔の通り、恋人らしくは振舞わないでいた。

それなのに、そんな不安定な気持ちの時にそんな軽々しく言われたら・・・余計に恐くなってきたんだもん。

今も不安定には変わりないけどね。でも、



「コレでお前が逃げても、俺が必ず捕まえる」

「やっ、銀、ッ」

「もう限界。昔から想ってたへの気持ちが」

「ちょ、待って・・・ッ」

「待たねェ」



銀が私の服を半ば強引に脱がしながら殺し文句を言ってくる。

もう無理だ。私が逃げようと思っても、本当に銀が捕まえにくる。

私は、逃げられない。



「ぎ、待って、お願い、待っ・・・!」

「んだよ、今更引き返せる訳ねーだろ」

「違っ・・・痛いっ!お願い、放してっ。もう抵抗しないから、放して・・・!」



必死になって懇願したからか、銀は私の肩を抑えてた手を放した。

放してもらって一息を吐き、腕を銀の首に回す。

多少、銀の体が強張ったのは多分、思いがけない行動だったからだと思う。



・・・?」

「こんな事、言える権利があるかわかんないけど・・・私も銀が好き。でも、こんな強引なのは嫌、だよ・・・」

「・・・悪ィ。ホント、の気持ちなんて見向きもしてなかったな」

「ううん。私も拒んでてゴメンね?」

「仕事、いいのか?」

「何を今更。どうせ、今日も書類にポンポン判子押すだけよ。それに、覚悟は決めたから。・・・色んな、ね」

「・・・後悔すんなよ」

「自分がやり出した事じゃん」



首に巻き付いた腕の力を緩ますと、顔の見えた銀が深くキスしてくれた。

今まで(といっても、指で数えるほどだけど)の真面目なキスとは全然違う、深くて全身がビリビリ言うほど。

キスだけなのに頭がクラクラする。副作用?

息苦しいけど、嬉しい。複雑な気持ちが交差する。

土方さんには悪いけど、全然違うよ。キスが、じゃなくて気持ちが。

唇が離れた時、名残惜しかったけど、銀の顔を見た瞬間、思わず逸らしてしまった。

それが気に食わなかったのか気に入ったのか、どちらかはわからないけど、行為を進めた。







そして、また唇を重ねる。











4.キスの副作用