「・・・く、苦し・・・」
ふと聞こえてきた声にドームを見下ろしてた二人は我に返る。
陣と凍矢の間に挟まれているは苦しそうに顔を歪めていた。
凍矢が少しだけ力を緩めると、ほっとしたかのように息を吐いた。
「やー・・・、ホント死ぬかと思ったー・・・、生きてるって素晴らしいー・・・」
やや頭に問題があるようだが、なんとか大丈夫なようだと凍矢は悟った。
いつまでも空にいる訳にはいかないので、陣は適当な場所で凍矢を降ろし、凍矢もを木のもたれさすように地に降ろした。
改めて見る彼女の姿は至るところに擦り傷や打撲による痕などがあった。
「・・・足がかなり酷い様だな」
「うん・・・。じっとしてても痛い」
凍矢の言う通り、の足は両方とも酷く損傷していた。
「ゴメンな、・・・」
「い、いいよ陣、謝らないで。私の方こそ、助けてくれてありがとう」
「しかし、そんな足では歩くどころか立つ事すら出来ないだろう」
「う、うん・・・、ぅわっ!」
が返事をしたと同時に彼女の背と膝裏に腕をまわし、抱え上げる凍矢。
遂先程も同じ事をされていたが、その時はの意識も朦朧としており気にしている場合などではなかった。
だが、意識がハッキリしている今、こんな事をされて驚きを隠せない。
流石のも好いてる相手と密着状態になって、恥ずかしさと緊張で頭がいっぱいになる。
「じ、自分でなんとか歩くからっ、お、降ろして」
「この方が早い」
の意見はバッサリと却下される。
顔を赤く染め上げ、状況に追いつけずしどろもどろしているを陣はニヤつきながら見下ろす。
視線に気付いたが見上げれば、そんな陣と目が合ってしまい、赤い顔のまま恨めしそうな目で睨みつける。
「(う〜、陣のバカ〜・・・。もしコレを陣にやってもらってたらこんな気持ちになんてならないのにッ)」
恥ずかしいけど、決して凍矢にやられて嫌ではない、寧ろどっちかっていうと嬉しい、そんな感情が複雑にの中で絡まる。
「・・・(でも、)」
チラ、と凍矢の顔を見れば、いつもと変わらない彼の表情。
「(私はこんなにドキドキしてるのに、顔だって熱いのに、凍矢はいつも通りなんだなぁ・・・)」
の胸が締め付けられた。
+
「痛いッ!」
「これぐらい我慢しろ」
ホテルの部屋に戻るなり、凍矢と陣による手当てを受ける。
顔、腕、足などの傷に直接塗られる消毒が酷く沁みる。
凍矢が消毒し終わった箇所を陣が絆創膏やらガーゼやらを貼り付けていく。
最後に一番傷が大きかった足の手当てが終わると、あまりの激痛に気を失ってしまった。
んじゃ、コレ(救急箱)返してくるべ、と言った陣に短い返事を返した。
凍矢は一息吐き、気絶したを見下ろす。
護れなかった。
が魔忍の世界に入った時に交わした約束。
当時、まだ幼かった上に女である彼女は謂れのない差別を受ける事を予見し、自分自身も幼かったが必ず護ると約束したのだ。
それからこの大会に出るまで、その言葉を信じてくれているんだろう、自分の後ろに隠れてた彼女を庇い続けていた・・・つもりだった。
実際、がどう思っているのなんか知る由なんてない。
いや、それを言ったら、自分の自己満足で交わした約束ですら、彼女はどう思ったのだろうか。はたまた覚えてくれているのだろうか。
凍矢はやるせない気持ちになり、拳を握ったが、特に行き場もなくすぐに解いた。
頬にある傷をガーゼ越しに指を這わす。
先程まで血が流れ出たからか、顔色が少し悪い。
いつまでも椅子の上で気絶した状態で座らせるのもあれなので、凍矢は再びの体を抱き上げる。
「(やはり軽いな)」
いくら小柄とはいえ、少し軽すぎるを気にする凍矢。
確かに食べる量こそ少ないが、いつも無駄に元気ある彼女を見ていると然程気にしてはなかった。
だが、実際に持ち上げてみると、もう少し食べさせてやるべきか?と保護者的な考えが浮かぶ。
「・・・・・」
パチ、とは目を覚ます。
いつの間に、そして何で自分は眠ってしまったんだろうと考える。
ふと、足やら手やらが痛むのを感じる。
「(あぁ、そうか)」
手当てしてもらったはいいけど、あまりの痛さに気絶したんだ、と理解した。
窓の外は薄っすらと空が白んでいた。明け方である。
ぐぅ、と腹が鳴った。
「(昨日、朝御飯食べてから何も食べてない・・・)」
そりゃお腹空くよね、と思ったが、未だ頭と体が寝惚けているからか起き上がれない。
そう考えたが、鳩尾辺りで圧迫されているのに気付き、顔だけ上げて目線を落とす。
視界に入った光景に目をぱちくりさせる。
「・・・陣」
いやいや、何でこんなとこで寝てんのよアンタ、と突っ込みたくなった。
陣はの体の上で突っ伏すような形で寝ていた。
体を僅かに上下させながら規則正しい寝息を吐いている。
わかってしまってからは若干、この圧迫感が苦しくなってきた。どうにかして退かしたい。
「退いてよ、陣」
痛む手で陣の体を揺すっても起きやしなかった。
軽く溜息を吐き、近くにいるであろう人物の名を呼ぶ。
「凍矢、とーや」
朝早くに申し訳無いと思いつつも原因である本人が起きないんじゃ仕方が無い。
彼が起きるまで呼び続ける。
自分が呼ばれているのをまどろむ意識の中で微かに聞き取った凍矢は目を覚ます。
ソファで眠っていたらしい彼は目を擦りながら起き上がる。
起きた事に気が付いて無いのか、は凍矢の名を呼び続けている。
「」
凍矢がの名を呼んだところでの声が止んだ。
声が聞こえた方への首が動く。
「凍矢、助けて」
「は?」
「陣が重い、苦しい」
寝惚けた頭のままが寝ているベッドまで寄れば、彼女の上で眠っている陣の姿が目に付いた。
何をしているんだコイツはと思いつつも自分より遥かにデカイ図体を持ち上げるとの上から退かし、床に叩き付けるかの様に放り投げた。
ゴツ、という鈍い音と共に『いって!?』という小さな叫び声も聞こえた。
開放されたは圧迫感が無くなって、今まで息苦しかったからか深呼吸をしている。
「っつぅ・・・」
「そこ(床)で寝てた筈だろ、お前」
「いんや〜、夜中に目ぇ覚めちまって、の様子見てたらいつの間にか寝ちまったみたいだ」
痛む頭を擦りつつ、陣は簡単に説明する。その内容に呪氷使い2人は溜息を付く。
「・・・全て終わったんだよね」
「あぁ」
「私達、これからどうしよう」
「さぁ、とりあえずこの島にいとくべ」
「そうだね。・・・ところで、お腹空いた」
「飯にするか?」
「うん」
これから数ヶ月間、3人は蔵馬が現れるまでこの島で過ごす事となったのであった。
武術大会編終了。
(2014.8.16)
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