私は躯の部下の一員。ちなみに側近の方。
躯は常に77人の側近の部下を持っている。
本人曰く、数にあまり深い意味はなく、ただ好きなだけらしい。
私の強さはというと、昔はNo.2だったのに、後から来た飛影に追い越され、今はNo.3である。
私は力こそ躯の足元に及ばなかったが、いつも躯の隣にいた。
けど、今の躯は飛影に付きっきりだ。
正直、飛影が羨ましい。
「、一緒に風呂にでも入るか」
「躯と一緒に?入る」
久々の躯からのお誘い。凄い嬉しい。
最近はなかったからなぁ、一緒にお風呂入るの。
躯の誕生日だったから。
衣服を脱ぎ捨て、相変わらず広い風呂へ入る。
その広さは人間界で言うと、銭湯ぐらいかな。
「おぅ、来たか」
躯が浴槽へと私を招く。
私は素直に浴槽へと足を運び、かけ湯をしてから浸かる。
はー、気持ちいい。
「躯、なんかいい事あった?」
「んむ・・・、まぁな」
そう言って微笑んだ躯の顔は女性らしいものだった。
いいなぁ、飛影からなんかしてもらったのかな。
本当に好きなんだなぁ、飛影を。
失礼だけど、躯が恋したらそこらへんにいる女子(おなご)と全く変わらない。
時々、屈託のない笑みを浮かべるから、やっぱり飛影が羨ましい。
いや、両想いなのが羨ましいのかもしれない。
「はどうだ?例の奴とは」
湯をかけながら躯は聞いてきた。
私だって女の端くれ。恋の一つぐらいしている。
前にヤケ酒飲んでいた私を介抱してくれた人。
・・・いや、介抱してくれたから好きになったではないよ。話をしていたらだよ。
「んー、今のところ進展なし・・・かな?ガード強いし」
ちょくちょく話をするもの、いまいちコレという進歩は見られない。
前まではそれでも満足していたのだが、此処のところ、物足りなさを感じる。
「案外相手も好きだったりするもんだぞ?お互い気付かないうちに」
「むー、大人な意見ー」
「そりゃ、お前より長いからな」
不覚にもそうだったらいいなと思ってしまった。
+
躯に近くまで(百足で)送ってもらって、癌陀羅に着いた。
帰りまた迎えに来てねーと言っておいて別れた。
「お、じーんっ!」
真上を飛んでいる陣を呼ぶ。
陣はすぐ私に気付き、そのまま垂直降下でやって来た。
「ー、好きだべー」
「私は凍矢が好きだべー」
「ガーン。いつもの事ながらフラれたべ」
「あははは」
陣の告白をかわすのも日課になってきたな。
確かに最初はちゃんと返事したけど、今ではおっちゃらけた感じに。
多分、陣自身もわかってやっているのだろう。
私が凍矢の事が本気で好きだとわかっているからかな。
「俺はいつも報われねーな」
「まぁまぁ、陣も私を追いかけるより、別の娘探しなさい」
「がいいのになー。ま、仕方ないべか」
「うんうん、ものわかりのいい子は好きよー」
「マジ!?」
「恋愛感情じゃないからね」
「ぶー」
陣はいい子だなー、本当に。
飛影も陣を見習えばいいのに、いつまでもガキみたいに私に突っかかってくるんだから。
で、その度に躯に泣きつくのに、アイツは学ぼうとしない。
ま、それはともかく。
「陣、凍矢何処?」
「凍矢なら自分の部屋だべ」
「そ。じゃ、行ってくるね」
陣と軽く別れの挨拶をして、凍矢の元へと向かう。
+
「とーやっ」
ノックもせずに凍矢の部屋に入る。
この時、蔵馬や鈴木の部屋をノックしないで入ると、たまにショッキングな光景が入るから、蔵馬と鈴木の部屋は必ずノックして返事がしてから入るようにしている。
でも、他の連中は無断で入っても怒らないような奴だからそのまま入ってるけど。
まぁ、それはおいといて。
部屋に入ると、珍しい光景が(いや、蔵馬や鈴木みたいなショッキングな光景じゃないよ)
凍矢が布団の上で眠っていた。
「ありゃま、寝ている・・・」
折角喋りたいと思っても、コレじゃ出来ない。
でも、凍矢の寝顔なんて初めて見たからコレはコレでいいかな。
カッコいいなぁ。
髪をおろしている姿も初めてみるから、なんか今日の凍矢は新鮮だ。
柔らかそうな髪。いつも何で固めているんだろう?
ていうか、私の気配を感じないくらい熟睡しているよね、凍矢(冬眠中の飛影みたいに)
なんかあまりにも気持ち良さそうに寝ているからコッチまで眠くなってきたな(ふわぁ)
寝ようかな、私も。
「おやすみ、凍矢」
何やら気配を感じて眼を開ける。
途端、見覚えのある少女の顔が目の前に。
「うわっ」
思わず驚いて跳ね起きる。コレで驚くなと言うのも無理あるが。
入ってきた事にさえ気付かなかったという事は、かなり熟睡してしまったらしい。
寝ている間でも常に気配を察知しなければいけない魔界の忍が情けない。
しかし、何を思って添い寝したのやら。俺が寝てたからか?
ともあれ、何か被せてやらないとな。
「・・・陣の部屋から借りてくるか」
この部屋には掛け布団なるものはない。普段から使わないから。
気付かないが、自分からは冷気が出ているらしい(前、幽助に言われた)
陣の部屋に来たはいいが、ほとんど無法地帯と化して、布団が見つからなかった。
仮に見つけたとしても、得体の知れないものがくっついてそうだから借りずにいただろう。
かと言って酎の部屋も陣以上だろうし、鈴木と蔵馬の部屋は(部屋を)見るだけでも卒倒しそうだし、鈴駆ではサイズが小さい。
此処は無難に死々若丸に借りる事にした。
その時、軽く何故いるのかと突付かれたが、適当に誤魔化しておいた。
やっと布団を持って自室へ戻る。
未だ寝ているの上にそれをかける。
まだあどけなさが残る寝顔を見てると、躯の側近だと言う事を忘れる。
見た目は普通の人間と変わらないのに。
でも、コイツに能力を使われるのは厄介っていうのはわかっているが。
俺にとっては苦手な能力、火炎系能力。
トーナメント戦後、何回か手合わせしてみたが、1回だけ危うく負けそうになった事があった。
まぁ、それはともかく。
(・・・かわいいな)
数秒経ってから我に戻る。
いや、確かにそうだが、なんというか・・・。
・・・愛しさ故か。
自分の気持ちにはとっくに気付いていた。
陣が気安くに触れる時も、鈴木が何やら訳わからぬ事をにほざく時も、死々若丸と話している時も苛立って。
その原因に気付くのは遅かったにしろ、今ではハッキリとわかる。
陣からの告白を軽くあしらっているのを見ているあたり、には他に好きな奴がいるのだろうか。
そう思いながら、の頭をくしゃりと撫でる。
誰かに撫でられている感じがする。
その感触に目が覚めた。
「とうや・・・?」
「起きたか」
ヤバッ、熟睡しちゃったみたいだ。
凍矢はとっくに起きていた。
いやー・・・、寝顔見られた。
「よく寝てたな」
「だって、凍矢が気持ち良さそうに寝てたから、コッチまで眠くなったもん」
「人の所為にするな」
ピンッとデコピンされた。
コレで例えば幽助にされたもんならちょっと怒るとこだが、惚れた弱みか、凍矢には何されても照れてしまう。
その照れが凍矢に察しさせないようにするのに一苦労。
こんな調子じゃ、まだまだ自分の気持ち伝えられないよぅ・・・。
「でも、初めて凍矢の寝顔見たよ」
「見るな」
「いや、見てしまったし。髪おろしてるとこも初めて見た」
「あ」
凍矢は自分の髪をまだ固めていない事に気付いたようだ。
そのままでもいいのにな、と内心思ったり。
「なんでいつも固めてるの?」
「邪魔だからな」
「ふーん」
結局シリーズとしてまとめました。
(2009.6.1)
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