「クリスマスってさぁ、無くなっていいと思わない?」
「いや、なんとも・・・」
「えー、アンタ地味なんだからさぁ、普通に彼女いないじゃん?だったらクリスマス無い方が良くね?」
「地味だからって理由で彼女いないって決め付けないで欲しいんだけど。実際いないけど」


街の中心部にあるそれなりの大きさのツリーの前にはカップル多数いた。
その中でも一際目立っているのが真っ黒い制服を来た男女のペアが。
カップルにしては物々しい雰囲気を醸し出している。


「ちょっと見てよ、山崎君。あそこのカップルもこっちのカップルもべちゃべちゃしてるよ」
「趣味悪いよ、
「全く、異国の文化にすっかり染まっちゃって。浮かれてる奴等がテロに巻き込まれればいいのに」
「警察の言う台詞じゃないよね。君がテロリストだよね、言葉の」


その可愛らしい顔とは裏腹に真っ黒い台詞を吐くに聞こえた周囲は若干引いている。


「ほら、隊服着てるんだからさ、そういう事は口走らないの」
「だってさ、自分より幸せな人見てるとイライラする」
「人生は諦めも肝心だよ」
「あれ、そこはフォローじゃないの?」


言ってから溜息を吐く
そんな彼女の様子に少し呆れたかのように笑う。
の気持ちはわからなくもないが、自分はそんな思いを毎年抱いているのだから何処かふっきれている。
少し背の低い彼女の頭をぽんぽんとあやすように撫でる。


「・・・行こうか。じゃないと鬼の副長にどやされちゃう」
「そうだね」
「あ、機嫌取りにマヨネーズいっぱい与えたらなんとかなるかな」
「んー、どうだろ。それはそれ、あれはあれな感じがするけど」
「総悟君はいけしゃあしゃあとしているのにねぇ」
「あの人は特別だよ、悪い意味で」


あはは、と笑いながら歩き始めた山崎の後ろをが歩く。
山崎が正面向いて歩いているのを確認しながら先程撫でられた箇所に手を置く。
置いてみれば撫でられた感触が戻ってきたみたいで、口元がにやけてしまう。
すると、不意にくるり、と山崎の体がの方を向いた。
その行動にビクッと反応し、慌てて手を下ろし、平静を装う。


「なにっ?」
「コッチの台詞だよ。どうしたの?隣おいでよ」
「う、ん」


とたとたと小走りで山崎の隣に並ぶ。
彼は満足したかのように再び歩を進めた。
ブーツでコンクリートの地面を蹴る音が耳に響く。
これが隊服姿じゃなくて・・・その辺にいる女の子達みたいに可愛い着物だったら・・・。
周りの女の子達を見れば皆、それぞれの彼氏の目に可愛く映ろうと、髪やら化粧やら着物やらを着飾っている。
稀にやり過ぎだろう、と思うような子もいるが、その子にとっては彼のために頑張ったのだ、やはり羨ましく思う。


「せめて・・・お化粧でもしとけば良かったかな」
「え?、化粧なんてするの?」


ぽつりと消え入るような声で呟いたつもりが、すぐ隣にいた奴にははっきりと聞こえたらしい。
らしくないの台詞に少し驚きながら、山崎はじろじろとの顔を見る。
その視線に耐えれなく、遂そっぽを向いてしまう。


「な、なによ、可笑しい?私だって女なんだから」
「でも俺、化粧で着飾ってる子よりも素の子の方が好きだけどな」
「あぁ、自分自身も飾れないから?」
「何それ、地味だと言いたいの?」
「ご名答」


恥ずかしいから意地張って可愛くない事言ってしまう、そう自覚しては項垂れる。


は肌が綺麗なんだからさ、勿体無いよ、化粧で隠すなんて」


するり、と山崎の冷たい指先が冷たいの頬に触れる。
触れた瞬間、の胸はドクン、と高鳴り、尚更山崎に顔向けが出来ないでいた。
そんななどお構いなしに、弾力を確かめるかのようにぷにぷにとの頬を押してみたりする。


「うわ、ぷにぷに。何コレ、気持ちいい」
「も・・・もうっ、やめてよ」
「・・・あ、でもニキビ発見」
「!っ、やめてってば!」


バッ、と山崎の手を退けさせる。
想い人にズバリと負の部分を指摘されて思わず血が上ってしまったのだ。
やりすぎた・・・、と思った時には山崎がバツの悪そうな顔でを見、ゴメンと呟いていた。
そして、改めて体の向きを直し、に背を向ける形となった。


「あ・・・、山ざ」
「行こ。仕事中だよ」
「・・・うん」


気まずい雰囲気の中、二人は再び歩き始める。
さっきは隣歩きなよなんて事を言われたような気がするが、とてもそんな雰囲気ではなかった。
触れられた頬が熱を持ち始めたのか、熱く感じる。




「・・・好きでもない男に触られたら不快だよね、誰でも。・・・ゴメン、本当に」


歩きながらまたもや謝罪の言葉を口にする山崎。
慌てて弁明しようとしたが、そうすると自分の気持ちがバレるんじゃないかと恐れ、黙り込んでしまった。
けど、謝罪の言葉を口にした山崎の背中は何処か悲しそうで。
後ろからでは表情等は伺えないが、がっくりと肩を落としているように見えた。
その様子にはもしかしてと思い、怖くて言わなかった言葉を口にする。


「嫌じゃ・・・なかったよ」
「え?」
「本当は恥ずかしくて・・・、だからあんな事しちゃって・・・」
「それってどういう・・・意味?」
「っ・・・」


それ以上は言えなかった。
流石の山崎もわかっている。けど、確認したかったのだ。
それからだんまりになってしまったを見て、何処か満足気な顔で微笑むと、不意にの手を取った。


「ふぇ?」
「嫌じゃないんでしょ?俺、だったら」


戸惑っているを余所にぐいぐいと手を引っ張って歩く山崎。
無理矢理手を繋がれている状態のは恥ずかしさと困惑で頭が混乱していた。
しかし、握られた手をぎゅ、と握り返す。
の方を見れば、夜と言えども、周りのイルミネーション等のおかげか、赤い顔がはっきりと見えた。


はなーにもしなくても可愛いよ」
「山崎君のバカ・・・ッ」
「んー、何ー?聞こえないなー」
「知らない!」


そうは言っても握られている手を振り解かない。
そんな彼女の様子が可愛くて堪らず公衆の面前というのに抱き締めてしまう。
声になっていない叫び声が聞こえた気がするが、この際無視だ、と言わんばかりに更に力を強める。
流石に此処までいちゃついているカップルはおらず、通りがかった酔っ払いの親父にひゅー、と口笛を吹かれる。
その後、これまた偶然通りがかった鬼の副長やサディスティック星の王子に見咎められたのであった。













久々に銀魂、そして山崎夢です。
なんかね、彼の話、暗いのしかなかったんで、こういう甘いの書きたいなと前から思ってました。
で、クリスマスが近い事もあり、まさかの彼でクリスマスネタ。
彼も隠れSだと思うのよ・・・ね。うん。
(2011.12.25)



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