退、退。


いつもいつも呼んでいた名前。 大好きな名前。変な名前だけど、大好きなの。『退』って名前。 だから、いつも呼んでいた。『お前』とかそーいう代名詞を使うなんて勿体無いと思ってしまうほど。


好き、大好き、愛してる。



一目惚れ、では無かった。退の優しさに惚れたんだ、私。 あぁ、今日も仕事だ。急がないと、土方さんにどやされる。あの人ァ、カルシウムが足りないのよ。 えっとぉ、今日の予定は朝御飯作って、洗濯して、掃除して、洗い物して・・・て、いつも通りじゃないか。 あぁ、そうね。それが私なんだ。いつもと変わらない。そう、いつもと変わらない。 『朝御飯ですー』と食卓に約30人分の食事を並べ、皆を呼ぶ。 ほどなくして、皆が食卓に集まり、全員、決められた席に座る。そう、コレもいつも通り。 なのに、皆の顔は暗い。というより、今にも泣き出しそう、な。 終いには食事を食べ終えた土方さんに頭、撫でられた。近藤さんならまだしも、土方さんに、だ。 何だ何だ、どうしちゃったの?どうして、皆、そんな暗い? けど、沖田さんはと言うと、いつも通り土方さんの命を狙っている。あぁ、いつも通りだ。 ホント、沖田さん以外の皆はどうしたんだろうねェ。退もミントン、してないし。

 ・ ・ ・ 嘘 。 

うん、本当は嘘吐いてるんだ、私。皆の様子が可笑しい事も知っているんだ、私。 知ってはいるんだけど、思いたくないんだ。出来るだけ。 だって、認めちゃったらさぁ・・・ 人は障害を越えて成長していくっていうけれど、別にいいもん。成長、止まってるもん。 でも、沖田さんの言葉で私は覚醒した。


『・・・いい加減にしなせェ。アンタがそんなんで、山崎の奴、いくにいけやしねェ』


うん、 わ か っ て る よ 。 
沖田さん、そんな事言わなくてもわかってるよ、とは言えないな。 あぁ、やっぱ、私が認めないと退は逝けないのかァ。それは大変。 ・・・けど、こうやって知らぬフリしてるってさ、もう・・・認めた事だよね。 別に退がいなくなったって、監察が一人減るだけじゃん。他の二人でも立派な監察だよ。退の次に。 そう、退がいなくな、た・・・って・・ッ・・・ 結局は変わりゃぁしないんだよ、この世界は。それが偉い皇子が死んだって、将軍が死んだって。 けど、退の死は私の中で大きく変わり過ぎて皆、見るに耐えられなかったらしい。 ゴメン、ゴメンなさい。でも、涙が止まらないの。泣きじゃくる私を許して、退。



退、退。
好き、大好き、愛して、たよ。



さがる、さが、る。

すき、だぁいすき、アイシテ・・・ルヨ。