「鈴木、そこに直れ。真っ二つに掻っ捌いてやる」
「待て待て待て。死々若ならいざ知れず、お前が言うと本気のように聞こえるから」
「本気だからな」
氷の剣を構えた状態で凍矢は鈴木に詰め寄る。
さて、何故このような事になったのか。
「だから待てって。何故このような事になる」
「何故だと?自分がやらかした事を忘れたのか」
「ん?むむ・・・。何かしたのか、俺は」
「(ピキッ)コレを見てまだそんな事が言えるか!」
後ろに隠しておいたものを抱き上げ、鈴木の前に突き付ける。
突然現れたものに鈴木は目を白黒させる。
凍矢の手の中には青髪に白い肌、そして妙にダボダボした服を着ている幼女が。
しかし、その顔立ちには見覚えがあった。
「・・・、か?」
「すずきさん、こんにちは!」
と呼ばれた幼い少女は眩しいばかりの笑顔で鈴木に挨拶をする。
きょとんとしている鈴木にを掴んでいる凍矢の手がわなわなと震え出した。
「どういう事だ、鈴木」
「どうもこうも・・・。あ、もしかして、昨夜冷蔵庫に試作品の薬を入れていたんだが、が飲んだのか?朝見たらなくなってたし」
「そんな物騒なもの、皆が共有する冷蔵庫なんぞに置くな!現に何も知らないバカが飲んで、こうなったではないか!」
「いや、冷やしておかないと傷んでしまう奴だったからな」
うちの子に何してくれてんだ!・・・てな勢いで鈴木を責め立てる凍矢。
思考まで幼くなったのか、は頭上で繰り広げられている言動よりも抱っこされてる事を嬉しく思い、手足をパタパタと動かしている。
そんなを目の前で見ていて可愛く思ったのか、鈴木も抱っこしようと手を差し伸べる。
が、にその手を叩かれてしまった。
「とーやがいいっ」
そう言い、ぎゅうっと凍矢の服を掴んで離れようとしない。
拒まれた鈴木は軽くショックを受けたようである。
+
「オイラの服がぴったり・・・」
鈴駒は呆気とした様子で目の前の光景を眺める。
そこには自分と同じ背丈までに縮んだ。
「ふく、かしてくれてありがと、りんく君」
「いやいや。とりあえず、着れる服があって良かったね、凍矢」
「全くだ。・・・って、何故俺に聞く」
「だってさ、あの格好のままだったら色々と目のやり場に困るじゃない?いくら幼児体型でもさ」
にやにやと子供らしさの欠片もない笑みを凍矢に向ける鈴駒。
このマセガキが、と思いながらも図星を突かれた凍矢は言葉を出せないでいた。
一方、はと言うと何かを追いかけているのか、ドタドタと廊下を走っている。
凍矢が注意してやろうと廊下に顔を出した頃には足音は止んでおり、代わりにの手には何かを掴んでいる。
の手の中にいる者はバタバタと手足を暴れさせ、離れようと試みている。
「かわいい(小さい)ししわかまるさんつかまえた!」
「離せ!!なんなんだお前は!ぐぁっ!」
あろう事かはそのまま死々若丸を掴んでいる腕を振り回している。
そのある種残酷な光景に凍矢と鈴駒は同情するしかなかった。死々若丸に対し。
少しして気が済んだのか疲れたのか、は腕を振り回すのをやめた。
が、手にはまだしっかりと死々若丸を掴んでいる。
「悪い・・・。は今、こんな状態だから」
「・・・?」
「因みに原因はアンタの相棒だからね」
「あ、の・・・やろ・・・っ」
息切れ状態の死々若丸。そんな死々若丸を嬉しそうに抱く。
すっかり青年の姿に変化する気力も失い、ぐったりとの腕にもたれかかる。
は相変わらず嬉々とした様子で死々若丸の体をぎゅ、と抱き締める。
見た目が見た目なだけに凍矢に嫉妬心は沸かなかった。
「(・・・というか)」
今度は死々若丸の体を真上に放り投げてるを見ながら凍矢は思う。
「(当時のはあそこまで幼稚だったか・・・?)」
「、もうやめたげなよ」
「ん?楽しくない?」
「というか、死に掛けてるって」
「ありゃ」
散々振り回されたり投げられたりされた死々若丸は生死の間を彷徨っていた。
流石にわかったのか、は労わるように死々若丸を抱き上げる。
「ゴメンね、ししわかまるさん」
すっかり気力やら生命力やらを失っている死々若丸の頭を撫でるなのであった。
+
「いー、やっ」
「我が侭言うな」
「いやだー」
凍矢の部屋の前で駄々をこねる。
どうやら、凍矢と一緒に寝たいという事。
いくら幼児化になったとはいえ、一緒に寝るなど・・・、と思った凍矢は断ったのだが、は頑なに聞き入れなかった。
それに、薬の効力が切れる時間もわからない。もし、寝てる間に元に戻ったのなら・・・。考えただけでも顔に熱がこもる。
「(むぅ)じゃぁ、じんのとこでねるー」
「待て」
不貞腐れ、諦めたかのように立ち去ろうとしたを止める。
一つ溜息を吐いて、凍矢は許しを出さざるを得なくなったのだった。
凍矢はもしが元に戻っても大丈夫なように、自分のシャツをに着替えさせ、鈴駒から借りたという服(パジャマ)は畳んで布団の横に置く。
「ぶかぶかー」
言いながら無意味にくるくるとその場を回っているを捕まえ、布団に叩き付けるかのように寝かせる。
最初は文句垂れていたが、今日一日色んな事があったおかげか、すぐに眠りに就いた。
何度目かわからない溜息を吐いて、凍矢はの頭に触れる。
今日は鈴木のおかげで壮絶な日となったが、ある意味いい経験になったかもしれない。
そう思いながら頭に触れていた手を滑らすように頬へ持っていくと、は少し身じろぎして凍矢に寄り添う。
その行動に顔が緩んでしまう。
「(実際に子供が出来たらこんな感じなのかもな)」
そう考えながら、小さなの体を優しく抱き締め、凍矢も眠りに就いた。
+
パチ、と自然に目が覚めた凍矢。
むくり、と起き上がると、隣に何かがあるのを感じた。
「・・・おはよ、凍矢」
聞こえた声の方へ顔を向けたが、目覚めたばかりの脳は未だはっきりせず、ごしごしと目を擦る。
視界が段々はっきりした頃、凍矢は驚き、体が小さく跳ねた。
隣にいたのはいつもの姿の。
「戻ったのか」
「みたい。・・・あのさ、凍矢」
昨夜、自分のシャツに着替えさせて正解だったななどとぼんやり思いながら、欠伸を一つする。
だけど、何処かの様子が可笑しい事に気付く。
いつもなら煩いくらい元気な彼女が何かを言いたげだが、言い難そうに声を上げている。
それに、何か居心地悪そうにも見える。
「ズボン・・・というか、下に穿くもの、なんか貸してくれない?」
途切れ途切れに小さな声ではお願いをした。
その言葉に弾かれたかのように覚醒し、導かれるかのように下を向いた。
グレーっぽい青のカッターシャツの裾から覗く白い太腿。
内股になって座っているは、恐らく下着が見えないようにとシャツの裾を下に引っ張っている。
顔は真っ赤に染まっていて、羞恥からか目には薄っすら涙が浮かんでいる。
数秒固まったあと、慌てて箪笥へと向かい、上の方に仕舞われたものを適当に掴んでに投げ付ける。
出とくから、と声を少々荒げ言い投げてから部屋を出た凍矢。
居心地の悪さから開放されたは安堵の息を吐き、渡されたズボンに足を通した。
「凍矢、着替えたよ」
ガチャ、と扉が開かれ、扉の向こうで座り込んでいた凍矢にが部屋に入ってもいいよと告げられる。
気まずいが、自分もまだ寝巻きのため、あまり外にはいたくないため、とりあえず入る。
目のやり場に困らなくなった事もあり、素直に凍矢は部屋へ戻ったのだった。
けど、どうしても思い出してしまう、先程の光景。
いくらサイズが大きいとはいえ、流石にシャツだけじゃ隠すものも隠せなかった白い足。
それを必死に隠そうとするの行動に、恥ずかしげに涙を浮かべ、染め上がった顔。
しかも、着ていたシャツは自分のものであって・・・、どれもこれも扇情されるものばかりであった。
「ゴメン・・・。なんか、変なもの見せちゃって」
この場合、謝るべきなのはコッチじゃないか、というのを心の中で呟いた。
お互いがお互いを直視出来ないまま沈黙が続いたが、今度は凍矢が口を開いた。
「別に箪笥ぐらい開けても構わなかったんだが・・・」
「うん、起きた時にシャツしか着てないってのがわかって、探そうかなと思ったんだけど・・・」
曖昧なとこで切り、少し黙り込んだ。
そして、再び口を開き、続きの言葉を紡ぐ。
「探してる途中とかで起きて・・・、見られたらさっき以上に困ったし、多分」
あぁ、成る程、と凍矢は納得した。
確かに、そんな場面に遭遇したらさっきみたいにはいかなかっただろう。
流石に何か探っている気配したら無意識にでも起きるだろうし。
その事がわかっていたは敢えて凍矢が起きるまで待つ、という選択をしたのであろう。
「あと、昨日もゴメンね。我が侭言ったりして・・・。凍矢、困ってたでしょ?」
「あ、いや・・・」
確かに困ってはいた。が、それはもう過ぎた話。
しかし、こうも素直に謝られると調子が狂ってしまう。
「でも、小さくなれて良かったな」
「なんでだ?」
「・・・・・」
理由を問われただったが、言う様子が見られない。
数秒の沈黙の後、言わない、とだけポツリと呟いた。
そんなの様子を凍矢はよく思わず。
「お前が俺に隠し事が出来るのか?」
言いながらの頭のてっぺんに飛び出ている癖毛の房を掴む。
途端にの口からなんとも言えない叫び声が出る。
どういう仕組みなのか知らないが、どうやらの弱点らしい。凍矢はそれを熟知しており、が隠し事をする度にこうしては吐き出すまで離さなかった。
ギャーギャーと叫びながらは涙目で凍矢に懇願する。
「お、おねお願い、は、離して・・・!」
「俺がどういう時になったら離すかくらい、知っているだろ?」
「ゃ・・・、いや・・・っ」
にやり、と口角を上げ、掴んでいるそれを今度は軽い力で引っ張ってみる。
すると更に叫び声が大きくなり、本気でが泣きかねない寸でのところで力を抑制する。
前に面白がって今以上の力で引っ張ったら本気で泣かれた事があり、以来、ギリギリのところで止めるようになったのだ。
それはともかく、は諦めたかのように震えながら言葉を紡ぎ始めた。
「あ、甘・・・える事が出来て、・・・良かったな、て」
思ったの、と消え入るような声で言った。
ポソポソと恥ずかしそうに言った言葉に凍矢は少し驚愕したようだが、ふっと笑みを零して掴んでいた手を離す。
その事にほっとしながらは掴まれていた癖毛の根元部分をさする。
「うぅぅ・・・(はげてないかな)」
「別にそれぐらい、今の姿でも出来るだろ」
「そ、そんな事・・・っ」
出来る訳がない、と訴えようとしたが、腕を引っ張られ凍矢へ飛び込む形で倒れこむ。
上手い事体勢を変えられ、凍矢の胸に背中を預ける形となった。
困惑して体を硬直させるを他所に体に腕を巻き付けるように抱き締める。
その束縛から抜け出そうと足をバタバタと暴れてみる。
「昨日は喜んでたくせに」
「だからっ、昨日はあのあれ、小さかったから素直・・・って何言ってるの私!」
羞恥心でいっぱいだからか頭が回っていないらしく、墓穴を掘っていく。
思わず出てしまった自分の言葉を恥ずかしく思い、耳まで顔を真っ赤にしている。
そんな様子のを愛らしく思い、思わずクツクツと笑い声を漏らしてしまう。
は観念したかのように体の力を抜き、凍矢の体に体重をかけるようにもたれかかる。
その顔は変わらず赤いままで、少し拗ねているのか、頬を膨らましている。
今度は髪をそっと撫でてやると無意識に顔が綻ぶ。
「洗って返すね、服。・・・あ」
「どうした?」
「あとで鈴木さん呼ばないと」
「・・・どうする気だ?」
「しば・・・、内緒」
「・・・・・」
なんだか今、物騒な言葉が聞こえそうになったが・・・、と思ったが、こればかりは聞き出さないでいとこうと判断した。
見た目は子供だが、時折女特有の恐ろしい表情が垣間見える時がある。
少なからず色々と成長はしているんだな、と凍矢は思ったのであった。
その日、簀巻きにされて吊るし上げられている鈴木の姿があったとか。
な、長くなっちゃった。
傍から見りゃ、凍矢のやってる事は虐待以外の何者でもない。
ちょっとSな感じを頑張ってみたら鬼畜になり兼ねないです、恐ろしい←
下にちょこっとおまけあり。
(2011.10.2)
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鈴木を締め上げた後、は自室に戻っていた。
「ふぃ、久々に暴れたから疲れた、かな」
額に滲み出ていた汗をタオルで拭き、昨日敷いてもらったはいいが、結局寝なくてそのままな布団へ倒れこむ。
「(・・・あ)」
腕に頭を乗せた時、まだ着替えてなかった事に気付く。
もう洗ってしまおうか、と起き上がってシャツのボタンを外そうとしたが、
「・・・ま、いっか」
再び布団の上に寝転ぶ。
そして、胸元のシャツの生地を鼻まで持っていく。
「凍矢の匂いがする・・・」
すんすんとシャツの匂いを嗅ぐ。
洗ってあるとはいえ、凍矢に着られていたシャツは少なからず彼の匂いが残っていた。
まるで凍矢に抱き締められているような錯覚を覚え、の顔が緩む。
ぎゅ、と自分自身の体を抱き締め更に感触を楽しむ。
不思議と虚しい気持ちにはならなかった。
「これからも借りちゃおうかな。・・・凍矢の服。大きくて、いい匂いがして心地良い・・・」
たまにはこういうのも悪くない、とは心の中で呟いた。
そしてそのまま、凍矢の服に包まれながらは穏やかな表情を浮かべながら眠りに就いてしまったのであった。
体臭と表現すればいいんですけどね、なんかそれだと臭いイメージが(汗)
まさかのちゃんが匂いフェチ←
でも、彼女はそれが変態的な事なんざ気付いちゃいません(笑)
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