※凍矢達の幼少時代を書いてます。苦手でしたらこのままページを閉じてください。
数年前、魔界。
「ーッ!!」
辺りに響く怒号。バサバサとその辺りの木々に身を休めていた妖鳥達が飛び去る。
名を呼ばれたまだ幼い少女はというと、草陰に身を潜めていた。
視線の先には自分を探しているのであろう、男の姿が。
その男は物凄い剣幕でアッチ行ったりコッチ行ったり。
ぷくく、と笑いながらその様子を見る。
が、いきなり背中を凄い力で押され、体が外へ出てしまった。
誰に押されたのかを確認する間もなく、彼女を先程まで探していた男に見つかってしまったのであった。
頭に出来た見事なたんこぶを擦りながらとある人物の元へ歩く。その顔はとても不機嫌なものである。
辿り着いた所では自分より歳が少し上の少年二人が向かい合って飯を食べていた。
「とうやっ!」
「なんだ」
「さっき後ろおしたの、とーやでしょ!」
「知らんな(しれ)」
の怒声に怯む事なく、凍矢は飯を口に運ぶ。
そんな凍矢の態度にの怒りのメーターは更に上がる。
凍矢の向かいに座っている陣がを宥める。
「まぁまぁ、も食べるべ。したら、いたいのなんてわすれるだ」
「ほんとう?」
「ほれ、コレやるから」
「それ、おれの飯じゃないか、陣?」
陣は凍矢の皿に乗っていた一品のおかずを箸で掴み、の口元まで持っていった。
は素直に嬉しく思い、運ばれた飯をぱくりと食べる。
一瞬、自分の飯を取られた事に悔しさを覚えたが、すぐに治まる。
この光景を見る限り、最強の忍(の卵)とは誰も思わないだろう。
+
数日後、凍矢にある任務が下された。
「断る」
が、本人は凄く嫌そうな顔で拒絶の言葉を吐いた。
任務を言い渡した凍矢の師はというと、表情を変えずに淡々と言い放つ。
「お前がやらなければ、にやってもらうが?」
「アイツにできると本気で思ってるのか?」
「口答えするな」
自分より遥かに背丈が高い人物に対して睨みを利かせる。
傍らで見ていたは少しオロオロとした様子で間に入る。
「とうや、そんなにおこんないでよ。いやなら、わたしがやるよ?」
「ダメだ。そんなあぶないこと、お前にできるか」
「やってみないとわかんないじゃん」
「、」
ちょいちょい、と手招きされる。
不思議に思いながらも素直に従い、近くまで歩み寄る。
師はの耳元に口を持っていき、小声で話し始める。
「見てみたいと思わないか?女の子の格好をした凍矢を」
「え?う〜ん・・・」
ちら、と凍矢の方を見る。
一目見ただけでもわかる顔立ちの良さ。まるで、女の子のような。
「・・・見てみたいけど、なんのかんけいがあるの?」
「いやなに、凍矢にちょこっと女の子の格好してもらって敵の内部に潜り込んでもらおうと思ってな」
「え!とうや、女の子のかっこうするの?見たい!」
「にいらんこと言うなバカ師匠!」
顔を真っ赤に染め上げ、罵声を浴びせる凍矢。
そんな弟子に対し、カラカラと軽快な笑い声を上げる。
「女の以外にやろうと思えばお前しかいないんだよ、凍矢」
「ふざけるなっ!おれは男だ!」
「だってお前、まだ声変わりしてないから女みたいに可愛らしい声だし、その見た目だし」
ケラケラと笑いながら凍矢本人が気にしている事をズバズバと言う師。
確かに、凍矢はまだ変声期の時期が来ておらず、同様に高い声、白く華奢な肢体に少女のような顔立ち。
本当に女装でもさせたら男とわからなくなるであろう。
「で、・・・なんでこうなるんだ!」
「だってとうや、一人だからさびしいんじゃないの?」
傍から見ればそこにいるのは二人の少女。頭に美が付くほどの愛らしさである。
あの後、無理矢理凍矢はめかし込まれ、までおめかしされ、結局二人一緒に行動する事に。
こんな屈辱的な格好をさせられ、
「かわいーよ、とうや」
追い討ちをかけるかの如く更なる屈辱を与えられ、怒りを通り越して卒倒しそうになるのを覚えた凍矢であった。
可愛いと言われても何も嬉しくないどころか、精神的にダメージを受けるものである。
そんな事、は知る由もなかったのだった。
+
いつもと違い、別の意味でやる気が出た凍矢はさっさと任務を遂行していった。
そして、目標を達するとの手を引き、早々とその場を離れる。
ある程度離れたところで立ち止まり、外だと言うのに着ている女物の着物を脱ぎ始めた。
下にはいつも着ている鎖帷子があり、ズボンまで穿いていた。
「もうおわり?わぷっ」
残念そうな顔でコチラを見るに脱いだ女物の着物を放り投げた。
それを頭で受ける形になったため、の視界が暗くなる。
「見せものじゃない」
頭に乗った着物を退かせば、そこにはいつもの男の子がいた。
照れて顔はほんのり赤かったが、再び引っ張られた腕から男の力を感じる。
重たい鎖帷子を着て平気で歩いている子は女の子なんかじゃなく、少し逞しい男の子。
歩く速さが速くて、歩きにくい女物の着物で足がもつれそうになるが、頑張って堪えながらもついていく。
そんなに気付いたのか、それとも気持ちが落ち着いたのか、歩調がゆっくりになる。
「やっぱりとうやは男の子のほうがいいよ」
ふとが呟き、凍矢は振り返る。
は無垢な笑顔を向けながら続ける。
「男の子のほうがすきだよ、わたし」
好き、にしてみれば親兄弟と同じ好き≠ネのだろうが、言われ慣れていない凍矢はまたもや顔を赤くした。
にこにこと笑うを見ていられなくて、そっぽを向き、再び歩き始める。
「(なんなんだ、これは・・・)」
顔に熱を感じ、鼓動が早まり、胸が苦しく締め付けられる。更に握っている手までもが震えそうになる。
今までに感じた事のない経験、感情、それらは凍矢を悩ませた。
正体不明の気持ちを抑え付け、握った手を離さないように強く握り締める。
「でも、また女の子の格好してよ。かわいかったからー」
「もう二度とするか」
凍矢に女装させただけの話になっちゃった。
凍矢のおししょーさんが幽助みたいになっちゃったのはスルーで(←)
次はちゃんが恋に目覚める話でも書きたいです。この時はまだ恋愛感情ないです。
ちなみに、別の意味でやる気が出たっていう意味は、さっさと済ませたいからやる気が出たという意味です(言わなきゃわかんない)
(2011.7.31)
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