早起きは三文の得、ということわざがある。
正直、当時の三文がどれくらいの価値があるのかなんて知らないけど、きっといい事があるよね。

・・・なんて、思ってたのに。
もう朝からどんよりというより、困っているのですよ。


「とうやー・・・、起きてー」
「・・・起きてる」


いや、寝てるよ。
ぼーっとしてるし、目も半開きで怪しいよ。
気持ち良く目が覚めたから、凍矢を呼びに行こうと思って行ったら・・・コレだ。
いつもならとっくに起きてる筈なのに、ここ最近は夜勤が続いたからか、まだ眠っていたらしい。
そんな時、私が来たから寝不足な状態で目が覚めたという。


「(パンパンパンッ)おーきーてー。朝ごはん食べないのー?」
「煩い・・・。頭に響く(パンッ)」
「痛っ!コッチの頭も響いたんだけど!」


手を叩いて起こそうとしたけど、不快だったらしく、頭を叩かれた。
目は相変わらず半開きのままだけど、不機嫌そうに眉を寄せている。


「寝るか起きるかどっちなの」
「・・・・・」
「ありゃ」


寝ちゃった。
器用に座ったまま寝れるなー、てぼんやりと関心する。

けどそれも数分後、何かに呼び出されたかの如く、凍矢の意識が再び戻った。
そして、眠たい目を誤魔化すように乱暴に擦る。


「やけに早起きだな・・・珍しく」
「私は凍矢と違って、ここ最近普通番だったから、それでね」


私が寝てる頃には凍矢が見回り、私が起きる頃には凍矢が寝て、凍矢が起きる頃には私が見回りって感じで。
本当に誰かが仕組んでんじゃないかってくらい、私と凍矢の当番が合わなくて、すれ違いな生活を送っていた。






「へっくし!」
「うわっ、陣!ツバ飛んだ!」
「あ、ワリィ」






うーん、凍矢なんとか起きないかなぁ。
折角会えたのになぁ。


「・・・最近、陣の奴がやたら代わってくれって言われてな・・・。夜勤・・・」


まだ脳が目覚めてないのか、ボソボソと呟くように言った凍矢。


「え、あ、そうだったの。あれ?そういえば、私も当番代わってくれってせがまれた事あったっけ」
「何考えてるんだ、アイツは・・・」


あふ、と凍矢は一つ欠伸をする。
そこで私ははたっと気付く。


「凍矢・・・。寝癖凄い事になってるよ」
「そうか・・・?」


鏡を見てないからどういう状態かわからない凍矢は適当に探って手櫛で直そうとしている。
いつもとっつきにくそうな雰囲気とは打って変わって、隙だらけで無防備な彼に心がときめく。
普段からこうだったらいいのに。・・・私の前だけで。


「やったげようか?」
「あぁ・・・」


私は凍矢の後ろに回って、起きたてでまだあげてない凍矢の髪に触れる。
それは以外に猫っ毛でふわ、と柔らかい髪質だった。
ブラシとか櫛なんてあるのかもわからなかったから、手櫛で広がっていた髪を押さえるように梳く。
警戒心も緊張もなく、凍矢はただされるがままに私に身を預けている。
そんな様子だから遂、悪戯したくなる訳で。


「・・・オイ」
「なーに?」
「何、はコッチの台詞だ。何している」


段々目が覚めてきたのか、口調がハッキリしてきた。
それでもまだ気だるいのか、体は全く動く様子がなかった。
いつもの様子だったら振り払ってるに決まってるもん。


「よーし、できたっ」


長い前髪をまとめて、たまたま持ってたゴムで上に結ってみた。
前に回って表情を伺えば案の定、怪訝そうな顔していた。
どうやらすっかり目が覚めたようで。




、向こう向け」


突然そんな事を言われ、不思議に思いつつも言われた通りに凍矢に背を向ける。
すると、髪を引っ張られる感じがした。
すぐに凍矢が手櫛で梳いてくれているというのはわかったけど。
でも、嫌な感じはしないから、そのまま彼のする事に目を瞑っている。


「もう一つ持ってないのか?これ」


これとはゴムの事。
持ってるよ、と言って後ろ手でゴムを渡す。
こめかみ部分から髪を後ろに持っていかれ、左耳の後ろでまとめてくれてる感触がする。
耳が出てすっきりするな、と思っているうちに今度は縛られる感じがしてきた。
結ってくれてるのかな、もしかして。
反対側も同じようにされ、パチン、と音が鳴ったあと、両の髪の束を二つに裂かれ、ぎゅっと根元までゴムが滑るのを感じた。


「こんなものか」
「鏡ー」


壁に張り付いている鏡まで歩いて行き、自分の姿を映し出す。
そこはいつも何もしていない私ではなく、耳の後ろで二つ小さく結ってある私が映っていた。
二つのうちの一つのゴムは私がさっき、凍矢の髪を結った時に使ったゴムのようで、凍矢は鬱陶しそうに解いた前髪を軽くかき上げていた。
その仕草が妙にカッコ良くて、思わず心臓が一回だけ高く鳴った。


「どうした?」
「う、ううん、なんでもない!」
「そうか」


実はときめいてました、なんて言える訳がない。恥ずかしいもん。
そしたら、今度は凍矢がじっと私を見つめてきた。


「何?」
「いや・・・、俺がしといて言うのもアレだが、少ししただけで変わるもんなんだな」
「え、似合わない?」
「そうじゃなくて、か・・・、・・・」
「か?」
「・・・言えるかっ」
「え、何よ、急に」


顔を赤くしてふい、とそっぽ向いちゃった凍矢。
私別に何も言ってないのに、どうしちゃったんだろ。
・・・かわいいって言ってくれるかなと、少し期待してたんだけど、凍矢に限って言う訳ないよね。


「あ、そだ。凍矢、あまりその髪型で外に出ないでね」
「何故だ?」
「だって、その髪型でも凍矢、カッコいいから、あまり他の女の人に見て欲しくないもん」
「・・・・・」


私が言った言葉に耳まで顔を真っ赤にして、右手で口元を覆う凍矢。
何故かさらりと言ってしまった私も顔に熱を持ち始めている。
私も顔、赤いかな・・・。
そう思いながら、冷たい自分の手で熱くなっている頬を冷まそうと当てる。
どうも、この熱はまだ冷めそうになかった。











一方。


「陣も人が悪いよねぇ」
「んー?」
と凍矢を会わせないために二人に当番代わってくれって頼んだんでしょ?」
「まーな。だってよ、アイツ等無意識にラブラブっすから妙にムシャクシャしてただ」
「陣の前じゃ、オイラも流石ちゃんとラブラブ出来ないなー」
「いんや?俺が邪魔したいのはあの二人だけだべ。他はどうでもいい」
「・・・あっそ」







可愛いって言ってしまうところだったんです、彼は。
最近、凍矢に求めてるものがなんなのかわからなくなってきました。
まぁ、好きに書けばいいかなって開き直ってます。
(2011.4.17)



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