パンタジア南東京支店。
今日も相変わらず働かない同僚や上司に嫌気さしながらも木下が分身して働いている。
すると、カランと鈴の音を鳴らしながら店の扉が開き、客が入ってくる。
その客、は同じ人間が複数いる事に驚きを隠せず、思わず後ずさりしてしまった。
客が入って来た事に気付き、分身を全部本体へ戻した木下。それに余計気味悪がる。
「あ、あの、私、梓川月乃さんの同級生なのですが、今いてますか?」
「あぁ、月乃さんですか?彼女なら今、別の従業員と一緒に買出しに行きましたよ」
「そ、そうですか。じゃぁ、コレを見ていただけます?」
学生カバンから一枚の紙を出し、それを木下に渡す。
月乃が自分がいなかった時は誰でもいいので、コレを見せてください。と言われてたのである。
「(ていうか、この人前からいたっけ?)」
は木下に案内されながら思う。
南東京には月乃と一緒に来るのだが、店側から入った事がなかったのだ。
店長を始め、東、冠、そしてたまに遊びに来る河内とは面識がある。木下の事を知ったのは今日が初めて。
今日は月乃に用事があったのだが、帰ってくるまで待っておく事にした。
「あ、冠君いるじゃん」
「さん」
事務室でパソコンをしている冠。
デスクワークという奴かな、とは思ったが、彼は麻雀をやっている。
「(なんで麻雀・・・。イメージと合わないんですけど)」
「何かいいました?」
「いや、やっぱ冠君頭いいから、こういう頭脳ゲームは得意なのかなと」
「んー・・・、弱いんですよね、この面子」
というか、仕事は?とは思う。
「うーん、月乃ちゃんっていつ帰ってくる?」
「さぁ、今東君と買出しに行ったばかりですから、結構かかるかと」
「んー、じゃぁ、冠君にお願いしようかな?」
「なんですか?」
「あのね、学校の課題を一緒にやろうかなと思って」
「(何か、嫌な予感。というか、デジャヴ?)」
「いいかな?」
「え、えぇ・・・」
前もこんな事があったようななかったような。
冠はそう思ったが、他ならぬの頼み。聞かない訳はない。
「えーと、此処をこうして、こうやって・・・?」
「あ、あの・・・」
戸惑いの声をにかける冠。その表情は引きつっている。
冠より少し背の低い彼女は上目で何?と顔をかしげる。
「なんですか、コレ」
「えっとね、学校で何故か着付けの授業があって、月乃ちゃんにモデルになってもらおうかなと思ったんだけど」
「それが何で僕になるんです」
今冠が着ているものは菫色の着物。ちなみに女物。
さっきまで前にいたは、帯を結ぶために今は冠の後ろにいる。
「だって、冠君可愛いし」
ピシッ、と空気が張り詰めた(は気付いてない)
何処に好いている人に可愛いと言われて喜ぶ男がいるか。
いや、中にはいるかもしれないが、僕は違う、と冠は思う。
彼女にとっては褒め言葉なのかもしれないが、彼にしてみれば嫌味以外の何物でもない。
気持ちを静め、落ち着きを戻す。
「僕よりさんの方が可愛いと思うけど」
「えー、そんな事ないよ」
平然と答えただが、その顔は僅かに赤い。
後ろにいるからその表情は冠には見えない訳ではあるが、容易に想像が出来た。
気を紛らわすかのように帯を締めるのに集中する。
「できたぁ!」
歓喜の声をあげる。
まさか人生で二度も女物の着物を着るとは思ってもいなかった冠は苦笑する。
「凄く可愛いよ!」
「そうですか・・・」
もはや怒る気が失せるぐらいの喜びようである。
表現に納得出来ない冠を他所に、は着物を着た彼を絶賛する。
しかし、段々と表情が沈んでいく。
「どうかしました?」
「えと、その・・、冠君があまりにも可愛いからちょっと自信なくしちゃったかな」
「はい?」
「だって、冠君男の子なのに!」
曰く、女の自分より男である冠の方が可愛いのがちょっと悔しいのと、自分に自信がなくなったとか。
そんな事ないですよと言われても納得出来ないのが乙女心の難しいところ。
「ハイハイハイ、ちょっと黙っておきましょうね」
「っ!」
「・・・じゃないと、キスしますよ」
「もうしたじゃん!」
「確かに(あまり認めたくないけど)僕は女顔かもしれませんがね、さんは僕が可愛いって言ってるんですから、それでいいじゃないですか」
「む〜・・・」
そのやりとりから程なくして、更衣室の扉が開いた。
「あら、ちゃんに冠さん。って、その格好・・・」
「おぉ〜、冠、綺麗なんじゃぁ!」
「そんなに自信ないなら・・・、可愛がってあげましょうか?あとで、たっぷりと」
「!い、いいです!」
耳元で意味深な言葉を囁いた彼に真っ赤になりながら断ったなのでした。
「ま、そのつもりですけどね、僕は」
「じゃぁ、聞かないで!」
「(可愛い貴女が悪いんですよ)」
おまけ漫画から妄想したもの。
黒い子って、こういう方向に持っていきやすいよね☆
(2010.2.21)
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