.....起動シマスカ?
あの人の手によって私は生を授かりました。
「おぉ・・・!漸く完成した・・・」
「・・・ワタシ、ハ」
「良し、誕生した記念に名前を与えよう。、というのはどうだ?君を作っている時から考えていた」
「・・・インプット完了シマシタ。アナタハ」
「鈴木だ」
「スズキ・・・。インプット完了シマシタ」
鈴木の手より作られたロボット。
見た目、感触、声、動き、何処からどう見ても人間の少女の様に見える風貌。
まさに人間と呼んでも過言では無い出来栄え。奇跡に等しい誕生であった。
彼女が誕生してから生活に色が付いた鈴木。
だが・・・、
「。どうだ、綺麗だろう?」
「・・・・・」
鈴木が差し出したピンクが基調な花束を見てもは無表情な上に無言で花を見る。
綺麗≠ニいう言葉の意味を理解していない様子である。
「今度はコレだ!に似合うと思ってな。可愛いだろう?」
次に鈴木が見せたのはぐらいの年頃の少女が好きそうなワンピース。
コレに対してもは花の時と同じく、全く反応しない。
しかし、数秒置いた後に、
「着替エレバイイノデスカ?ソレガ、スズキノ望ム事デスカ?」
「・・・いや、いいんだ」
は鈴木が望む物は何でもするように認識してしまっている。
鈴木がコーヒーを欲しいと言えばコーヒーを淹れ、部屋が汚れてれば掃除をしたりと、あくまでも事務的な事しか実行しないが。
何を言われても、何をされてもは表情を変える事はなかった。
「スズキ、寝ナイノハ体ニ悪イソウデスヨ」
「また俺の部屋の本でも見たのか?」
「私ハヨリ多クノ知識ヲ身ニ付ケル必要ガアリマス」
「知識より身に付けてもらいたい物は他にもあるんだがな・・・」
「今度ハ何ヲ作ッテイルノデスカ?」
「君の心」
聞き慣れない単語が出るなりは首を少し傾げる。
「ココロ、デスカ?」
「そう、心。君に足りない物だ」
「足リナイ・・・。何ヲスレバイイノデショウカ」
「そういう事じゃないんだ」
困ったように鈴木は笑い、の頭に手を乗せる。
撫でながら必ずわからせてやる、と言い再び机の上にあるコンピュータを動かす。
カタカタとキーボードを叩く音が部屋に響く。
「(ココロ・・・。私ニ無イ物・・・)」
はそれ以上の事は考えず、鈴木の部屋を後にした。
「スズキ、朝御飯ガ出来マシタ」
「う〜ん・・・。ハッ!今何時だ!?」
「八時デス。朝御飯、ココニ置イテオキマス」
「あ、あぁ。すまない・・・」
毎朝八時きっかりには朝御飯を用意する。
朝だけではなく昼も夜も毎日毎日、決まった時間ピッタリに作り上げる。
鈴木が留守でいなくても決められた時間に作り、冷めようが腐ろうがには関係ないし理解出来ない。
仮に作った物を捨てられたとしてもは傷付いたりしない。
が心を持たないロボットだから故に。
「と一緒に食べてみたいな」
「私ニハ必要ナイデス」
「そうか。・・・そうだよな」
味噌汁の入ったお椀を持つ手と箸を持つ手が震える。
ドウシタノデスカ?とは聞くが、表情は相変わらず無表情。
「スズキ・・・?目カラ何カガ流レテマスヨ?」
「そうだな・・・。止まらないんだよ、これが・・・」
「ア」
力が入らなくなった鈴木の手から箸とお椀が落ち、中に入っていた味噌汁がぶち撒かれてしまった。
多少の熱さがあったにも関わらず、鈴木は構わずただただ涙を静かに流す。
は一瞬目の前で起こった光景に声を上げたものの、
「掃除及ビ洗濯ヲ開始シマス」
すぐ平常に戻り、鈴木の涙を気にせず作業に移ったのであった。
「ココロトハ何デスカ?ドノ本ヲ読ンデモワカリマセン」
不意にがこのような質問をしてきた。
今までとは違う問いに鈴木は少し目を見開く。
ふ、と少しだけ笑い、と目線を合わせるべく椅子に腰掛ける。
「心という物はだな、上手く説明出来ないんだ。人によって違うからな」
「スズキニモワカラナイ・・・?」
「あぁ。でも、俺はに心を持って欲しい。喜んだり、悲しんだり、怒ったり・・・」
「ヨロコ・・・、カナシ・・・?」
「俺で例えるなら、が生まれた事、と一緒に過ごせる事が喜び≠ナあり、悲しみ≠ヘ・・・に心が無い事」
「・・・ヤッパリ、ワカリマセン。何ガヨロコビ<f、何ガカナシミ<iノカ」
わからないと言う彼女の顔は未だ無表情である。
「・・・!遂に出来たぞ!」
あれから幾百の時が経ったが、妖怪である鈴木とロボットであるは変わり栄えしない。
「やっと君に心を・・・!」
生まれた時と同じように様々なケーブルに繋がれる。
は嫌がる事も無く、されるがままに身を任す。
今まで見た事が無いくらい歓喜な表情を浮かべている鈴木をぼんやりと眺める。
新たなプログラムをの中に入れる事になるので、全機能を停止させる。
震える手を押さえながら、インストールのボタンをクリックする。
その瞬間、の体がドクンと脈打つように跳ねる。
しかし、コンピュータから音が聞こえ、確認してみるとERROR≠フメッセージ。
「そんなバカな・・・!」
ガタガタガタと叩きつけるようにキーボードを叩き、何回もの中に心を入れようと試みる。
その度に鳴るエラー音。鈴木は力が抜けたかのようにその場に倒れる。
苦労して完成させたのが無駄になってしまった、に心を宿らす事は出来ないのか。
そんな絶望に頭を支配されている時、何かが動く気配を感じた。
不思議に思い、顔を上げると僅かに動いているの体。
「まさか・・・。機能は全部停止刺せた筈」
指先が僅かに振るえ、髪も揺れ、瞼が今にも開こうとしている。
体から次々とケーブルが抜けて行く。
「・・・、ッ!」
「・・・・・」
鈴木の呼びかけに応えるかのように、の瞼が開かれた。
その奥にある瞳には今まで無かった光が宿っている。
「す、ずき・・・」
「!一体、何故・・・ッ」
自力で起き上がったは自身の胸を押さえながらその場に蹲る。
「何故でしょう、胸が痛むんです。今まで無かったのに」
「、心が・・・?」
「わからないです。何故、目から液体が出てくるのでしょう・・・?何故、鈴木の顔見るとこんなに胸が熱くなるんでしょう・・・?」
顔はまだ無表情だが、その目からは今まで流した事の無い涙が流れ落ちる。
「・・・それこそが俺の望んだ心≠セ」
「ココロ=E・・。コレが、鈴木の望んだ・・・」
僅かに笑みを浮かべる。
そんなを見るなり、鈴木は彼女の体を抱き締める。
再び奇跡が起こったのだ。
「鈴木も同じですか?なんだか、暖かいです。これが喜び≠ナすか?」
「あぁ、その通りだ」
「なんだか笑ってしまいます」
「それは嬉しい≠セな」
にこ、と屈託の無い笑顔を鈴木に向ける。
しかし・・・、
「あ・・・」
ジジ・・・、との体からショートするような音が鳴る。
「?」
「・・・鈴木、容量オーバーです。もう持ちません」
「なっ・・・」
「自分で得ル知識とは全然違イマす。トても大きイんでスネ、ココロ・・・」
音が段々大きくなり、倒れそうになったの体を慌てて受け止める鈴木。
それでもは笑みを保とうとする。
「こレが悲しみ<fシょうカ?苦しイデス・・・」
僅かな笑みで涙を流すの体を強く抱き締め、鈴木は黙ってが必死に紡ぐ言葉に耳を傾ける。
「鈴木・・・、止まッてしマウ前ニ言イタイ事ガ」
「・・・なんだ?」
アリガトウ。
私ヲ生ンデクレテ。
アリガトウ。
一緒ニ過ゴシテクレテ。
アリガトウ。
私ニ名前ヲ、ココロ<苧^エテクレテ・・・。
アリガトウ、ありがとう・・・。
「・・・此方こそありがとう、・・・」
ショートしてしまい、完全に動かなくなったの体を鈴木はより一層強く抱き締め、笑みを浮かべながら涙を流し続けたのであった。
(2014.2.16)