女が言った、翼が欲しいと。
男は答えた、何故なのかと。










「だって、欲しいものは欲しいんだもん」
「って言われても、わかんねーべ」
「陣は飛べるからいいじゃない」


人間界の海ってところの近くの岩場で話す男女二人。
女の名は、男の名は陣といった。
は岩場に座り込み、足をぶらぶらさせる。陣はそんなの様子を潮風を感じながら見下ろす。


「人間界って、綺麗だよね。魔界とは大違い」
「んだな。風も心地いいし」


陣はふわふわと体を風で浮かせながらそう言った。
そんな陣を尻目に、目の前の海を見つめる
眼前には太陽の光できらきらと光る水面。
海と空、同じような色をしているのに、その境目がはっきりと見えるのが不思議に感じてしまう。
これが光というものなのだろうか、とも思う。


「凍矢が光に対して凄く執着してるけど、陣はどう思う?」
「んー・・・、よくわからないべ」
「あはは、陣らしいや」


陣はの後姿を見ているのに対し、は全く陣の方へ向こうとはしなかった。
ただただ、目の前にある景色を見つめている。


「俺はこの島さえ手に入ればなんでもいいや」
「そ」
「・・・ちょっち、飛んでくるだ」
「あ、陣っ」


の呼びかけも虚しく、陣は空の彼方へと飛んでいった。









翼が欲しい、なんて思い始めたのはいつ頃からか。いや、そんな事はもうどうでもいい。
この蒼く美しい大空を飛び回るのはどんな心地なのか。
はそれが知りたいと常に思っている。
目の前を鴎が飛んでいくのを見、羨ましく思う。
は陣が飛んでいった方角をずっと見ていた。


「(翼がなくても、せめて飛ぶ事が出来ればいいのに。そうすれば、)」


陣の事、捕まえられるのに。心の中でそう呟いた。
が飛びたいと思う最大の理由はそこにあった。
自由極まりない彼はいつも何処それ構わず飛び回っている。
そんな陣をはいつも切なそうな表情(かお)で見つめていた。
世間一般で言うところの恋人同士なのだが、中々それらしい事さえしていない。
まぁ、相手は友情の延長戦とでも思っているのかもしれない、と半分諦めていた。
けど、こうも毎回置き去りにされると、そのうち本当に自分を置いて何処かへ行くんじゃないかと不安で仕方ない。
だから、自分も飛んで飛んでいく彼を捕まえていたいと思うようになったのだ。




!」
「!じ、陣」


よほど考え込むのに集中してたらしい。目の前まで来て名前を呼んでもらうまで気付かなかった
陣はそんなの様子に疑問に思う。


「どうしただか?思い詰めたような表情(かお)して」
「ん、ちょっとした考え事。それより、今日は早かったね」
「なんか、が俺の事呼んでた気がしたから」


それを聞いたは少し目を見開いた。
別に呼んだ訳じゃないが、傍にいたいという想いが陣に届いたというのか。
そんな事、あり得る筈がない、と自嘲気味に笑った。


「ま、いいや。それより、一緒に来るだ」
「一緒って・・・なに、何処へ?」
「ついてくりゃ、わかるべ」
「いやだから、どうやっ・・・、きゃっ!?」


自分と正面向かって座ってたを抱え、急上昇する陣。
あまりに突然な事だが、とりあえず落ちないようにと必死でしがみ付く。
重力に引っ張られてるからか、陣に抱えて飛んでいる自分はとても重く感じる。
陣はある程度昇ったところで上昇するのをやめた。


、離すべよ」
「え、ちょ、落ちる・・・!」
「大丈夫大丈夫(パッ)」
「やっ、・・・?」


陣に離され、そのまま重力に従って落ちるかと思ったが、一向にそんな感じがしない。
恐る恐る目を開けてみると、下には海、目の前には浮いてる陣がいた。
体の周りに風を感じた。


「ほらな、大丈夫けろ?」
「え、浮いて・・・、風?」
「んだ。ここらは風が多い場所でな、それを操れば俺以外の奴も浮かせる事が出来んだ」


風に支えながら浮いているの体。
は最初は奇妙な浮揚感に襲われ心地悪そうにしながらも、徐々に慣れたのか、心地良くなっていた。


に翼を与える事は出来ないけど、空飛びたいなら、叶えられる」
「陣・・・」
「それに、もしに翼があって、自由に飛んでったら俺、寂しいべ」
「アンタはいつだって自由気ままに飛んでってるじゃない」
「俺はいいんだっ」
「何それ!凄い我が侭なんだけど!私だって、陣がどっかに飛んで行く度に寂しい想いして、」


言い終わってないの口を陣が塞ぐ。
またしても突然の出来事に目を見開き、丸くする
そして、数秒経って唇が離れた。


「・・・あの、キスするとこでしたか、今」
「俺はしたい時にするべ」
「したい時って、どんな時よ」
「んー・・・、が可愛い時とか」
「なに、それ」


訳わかんないと言って俯く
耳まで真っ赤になって。


「(くぅ〜っ)な、もっかいしてもいいだか?」
「えぇ!?な、なに、なんで・・・!」
「だってよ、さっきからしたかったのに、はずっと俺に背向いてたかんな」


少し混乱しているの腕を掴み、自分の方へ引き寄せ、額に唇を落とす。
ちゅ、ちゅ、とこっ恥ずかしい音を立てながら瞼や頬などに次々とキスされる
一回どころではないキスに耐えれなくなったのか、声をあげる。


「もうっ!一回じゃないじゃん!」
「さっきのは口にっつー意味で、それ以外のとこはノーカウントだべ」
「そんなのあり!?」
「ありあり(ちゅ)」
「ちょ、また・・・!」
「ん〜。照れてるも可愛いな〜」
「何バカな事言ってんの!」
「俺はいつだって本気だべ」


そう言った後、の唇に己の唇を合わせた。
触れるだけだが、さっきより少し長い口付けには不覚にも心地良さを感じた。


「ん・・・、
「ん?」
「俺、・・・何処にも行かねーよ」
「・・・!」


まるで自分の心の内を見透かされているかのように陣は言った。
は陣の腕にいながらそれを聞き、頷いた。





大空を飛びたかった。最初はそういう純粋な気持ちで翼が欲しかった。
けど、あの人を好きになってから、付き合うようになってからは自由気ままに飛んで行く彼を捕まえたくなった。
置いて行かれるのが嫌だった。離れていくのが怖かった。
だから、自分も翼があって空を飛ぶ事が出来れば、一緒にあの大空を飛んで行けるかもと思った。
けど、理由はどうであれ、やはり純粋に翼が欲しかったのだ。









女は言った、翼はもういらないと。
男は答えた、あんなに欲しがってたのに何故かと。
女は答えた、だって貴方があの大空に連れて行ってくれるからと。
男はその答えに静かに微笑んだ。













いきなり浮かんで来た陣夢。
自由気ままに飛んでいく陣の事を不安に思うというテーマです。
時期的には武術大会開催直前ってとこです。
下に書いたはいいが、何処にいれようかわからなくなった代物が置いてあります。
ギャグ要素です。お好きな方はどうぞ、見ていってくださいまし。
(2010.6.13)



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ー(むぎゅー)」
「ギャー!」
「・・・なんで逃げて凍矢の後ろに隠れるべか」
「アンタがいきなり抱き付いたからでしょーがっ!」
「好きな奴に抱き付いたら悪いか!」
「開き直るな!別に悪くないけど、人前でしないでって言いたいの、コッチは!」
「えっ、じゃぁ、誰もいなかったら何してもいいって事だべ!?」
「その言い方やめて!」
「・・・人を間に挟んでもめるのはやめろ」
「よーし。んだったら、凍矢ごと抱き締める(ぎゅう)」
「なっ、やめろ、陣!」
「痛い痛い!きつく締め過ぎだって陣!」
「誰が一番痛いと思ってるんだ!大体、俺を巻き込むな!」
「・・・やっぱ、凍矢邪魔(ぐい、どんっ)」
「あ、凍矢!」
「やっぱ、直接に触んのがいいな〜」
「ぅ〜・・・」



「アレ見てると平和って感じがするよな」
「あぁ、そうだな」













お粗末様でした。
てか、凍矢可哀想だな、オイ。
ちなみに最後の会話は吏将と画魔です(爆拳?誰それ)



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