Happy birthday,
「銀ちゃん、三十路おめでとー(パチパチ)」
「めでたくもねーし、三十路でもねー。しかも、棒読みなんだよ、テメーコノヤロー」
でも、三十路に近くなったっていう事実は逃れられないよ。
今日は銀ちゃんの誕生日。
だから、ケーキをホールとして作ったんだけど、あの野郎、五分もかからず食べやがった。
私は味わってないと見なして、銀ちゃん苛めに入ったのだ。
・・・勿論、プレゼントは用意してるよ、ちゃんと。
でも、なんか気恥ずかしくて中々あげれない。
だって、恋人になって初めての誕生日パーティーだもん。
「銀ちゃん!11月11日は私の誕生日だからね!イイ月、イイ日!」
「わかってるって。にしても、11月11日とかすげーな、お前。しかも、銀さんと微妙に似てるし」
「そだね(笑)」
ポッキーの日でもあるしね。
「てか、ケーキホールを五分で食べるとか信じられないー!」
「バカヤロー、銀さんを甘く見るな。こんなもん、一瞬で食べきれる」
「『こんなもん』で悪かったなバーカ」
「いや、違うって。その、何だ。美味しすぎて遂、食べてしまったんだって」
美味しくないもん。だって、スポンジが萎んじゃったんだもん、オーブンの中で。
デコレーションだって、その辺にあるケーキと変わらない。いや、生クリームがデコボコしてた。
しかも、早く行きたかったので、早足で行ったからか、元から悪かった形のケーキが更に崩れてた(苺が一個落ちてた)
「ちゃん。『形が悪かったケーキなのに』とか思ってんだろー」
「なっ、思ってないもん!」
思いっきり図星突かれた。
「嘘吐くなー?確かに形は悪かったけど、」
「銀ちゃんが思った事なんじゃん!」
「最後まで聞けって、お子様だな。まぁ、アレだ。味が最高に美味しかったんだって。いやマジで」
「どうせお子様だよ」
お子様はお子様なりに頑張ってるんだよ、チキショー
お子様だからか、銀ちゃんが年取って欲しくないな、とは度々思う。
だって、銀ちゃんは色んな意味で大人で、私はまだまだ青い子供で。
昔は、銀ちゃんが付き合ってくれるのは私の我が侭聞いてくれてるんだ、って思ってたけど、銀ちゃんが消してくれた。
銀ちゃんは大人として凄いと思う。
・・・って、新八君に言ったら思いっきり変な目で見られた(失礼だ)
「なァー、ちゃん。プレゼントは?プレゼントフォーミー」
「使い方違うよ、銀ちゃん。プレゼントは・・・」
ゴソゴソと懐を漁る。
銀ちゃんが片手を出して待ってくれてる。
「ハイ」
トン、とその手の上に置く(裸のままで)
「・・・何、コレ」
「貯金箱。銀ちゃん、無駄使いばっかりするから、貯まるまで開けれないの選んだよ。しかも天人製」
天人製の貯金箱は本当にお金が溢れそうな時に自動で開けられる仕組み。
コレで新八君にでも頼めば、嫌でもお金集まるよ。しかも、500円しか受け付けないしね。
「この年になってまで貯金箱とか(ポーン)」
「あぁッ!ブタちゃん貯金箱ー!」
投げちゃったよこの人!
普通、あげた本人の目の前で投げる!?
隅っこでブタちゃん貯金箱を抱えて拗ねる。
後ろから銀ちゃんが『ちゃーん』とか『ブタちゃん大切にすっからよー』などと言っている。
銀ちゃんの家の隅っこは埃っぽい(ちゃんと掃除しろよ)
「ブタちゃん、返しなさい」
「読点だと何か私がブタちゃんみたいなんだけど」
「ブタちゃん、返しなさい」
「フォローもなんもないよ。寧ろマイナスの勢いってか、マイナスだよね」
「ホント飽きねーな、お前って」
クスクスと銀ちゃんが笑う。
飽きないって何。それは褒め言葉として取ってもいいのかコラァ。
私だってそんなネガティブじゃないし(多分)、銀ちゃんは遊びで付き合ってるなんて今は思ってない。
それは私があの言葉をまだ信じているからで。てか、言われてから全然気にしなくなっただけなんだけど。
だから、そこまで本気で『遊びじゃないのか』なんて思ってない。
・・・『そこまで』ってのは、少しは思っているんだけどね。
「銀ちゃんのロリコン」
「ちょ、ロリコンって。認めてるけど、他人、しかも恋人に言われるとキツイわ、コレ」
「認めてるのかよ、ロリコン」
「スイマセン。いつもみたいに『銀ちゃん』って呼んでください」
銀ちゃんに対して背を向かせているから今、彼がどんな表情なのかわからない。
苦笑いってとこかな。
少し経って、私は銀ちゃんにブタちゃんを返した(あー、埃っぽかった)
その時、偉い偉いって頭撫でられたけど(子供扱い)
「銀ちゃんの好きそうなものって、甘いものだけだから、貧乏な銀ちゃんに貯金箱選んだの☆」
「いや、☆じゃねーよ。さり気なく貧乏っつったよね?」
「だって、ケーキ+プレゼントしたかったんだもん」
「微妙に会話噛み合ってねーしよ」
「この際だから聞いておくよ!銀ちゃんの欲しいものって何?来年の誕生日にあげるよ!」
「来年、かァ・・・」
そう呟いて、銀ちゃんはちょっと俯き考え始めた。
「来年・・・いや、来年までもつか?いや、来年でもヤバイか?しっかし、来年・・・」
「何、腐るようなもんなの?」
「いや、腐らない。・・・寧ろ輝いてる・・・かも」
何それ。来年には輝くプレゼントって何だよそれ。
輝くってアレかな、黄金色にかな?
「案外、来年にはめっちゃ輝いて・・・いや、やっぱ2,3年か?一番輝くの」
「銀ちゃーん。私のプレゼント拒否かコノヤロー」
「違うって。めっちゃ悩んでいるんだって、銀さん」
「何よー。自分の欲しいものもわからないのか天然パーマ」
「いや、わかってるけど。てか、今すぐ欲しいんだけど、流石にそれはヤバイ」
「何がヤバイんだコラー。私の財布の中がかコラー」
「いや、財布なんかよりよっぽど大変なものがヤバイ、かな」
「?いい加減、全然わかんなくなってきたんだけど」
銀ちゃんが珍しく悩んでる、考えてる。
それほどまでに欲しいプレゼントがあるなら言えばいいのに。頑張れば稼げられるんだから、私。
「あのよぅ、正直に言っていいか?」
「いいよー」
「ちゃんが欲しいって言ったらどうする?」
「・・・へ」
「ほら、やっぱりその反応だ。あー、嘘。今の嘘だから、嘘嘘」
銀ちゃんが片手で顔を抑えながら言う。
私が欲しいって、どーいう事であーいう事だから、そーいう事なんだってのはわかる(何、今の説明)
でも、銀ちゃんがそーいうのしないって、心の隅では思ってはいた。
それはあくまでも私の理想論だ。
「銀ちゃん」
「あー?」
「あの、え、と・・・そ、そのプレゼント、あげてもいい・・・よ、今すぐ。・・・」
情けなくも、最後の方で段々声が小さくなっていった。
あ、銀ちゃんが凄く驚いてる。
「ぎ、ちゃんがそれで私を大人・・・にしてくれるんだったら、いいよ」
さっきだって、今までだって私の事をずっと子供扱いしていた銀ちゃん。
半分それに満足して、半分それに不満を持っていた。
銀ちゃんは大人だから、子供な私を変えてくれるかもしれない。
「・・・ガキがんな事、簡単に言うんじゃねーよ」
わしゃわしゃと頭を撫でられる。
あ、また子供になる。
「銀ちゃん。さっきまで私の事、欲しいって言ってたよ」
「言っていたけど、流石に今はダメだろ?碌な大人になれないよ」
「ならなくてもいいから、貰ってよ」
銀ちゃんだからいいって事、気付いてよ。
私は銀ちゃんにキスした(極々軽く)
「確かに私、初めてだからめんどくさいかもだけど、銀ちゃんじゃないと嫌だよ」
「・・・いてーんだぞ?初めてはかなりいてーんだぞ?」
「でも、いずれは初めてを経験するんだから、同じだよ」
「マジで貰っちゃってもいい訳?」
「い、よ。あげるよ、銀ちゃん」
銀ちゃんが私に大人のキスをしてくれた。
+
パチ、と目が覚めた。
髪を梳かれる感じがして上を見上げると、バッチリ銀ちゃんと目があった。
瞬間、私は布団に潜る。
銀ちゃんが『オーイ、ちゃんー』『出てこーい』『銀さんの事拒否ですかコノヤロー』って言っている。
だ、だだだって、恥ずかしいんだもん、やっぱり。
銀ちゃんが言ってた通り、それは想像以上に痛くて泣いてしまった。
でも、後悔なんてサラサラないけどね。只、恥ずかしいんです。
「あー・・・やっぱ、我慢してダメだって言えばよかった(ぶつぶつ)」
「それは体が未発達だから言ってんのかコルァ」
「いや、そこらへんはスルー。じゃなくて、やっぱり痛かったんだなーって」
なんたって、銀さんのはバズーカじゃなくて波動砲だから、なんて恥ずかしい事を。
って、スルーってなんだコラ。それって肯定じゃねーか。
「・・・銀ちゃん」
「あ?」
私はやっと、布団から顔だけを出した(まだ恥ずかしい)
「誕生日、おめでと」
「もう過ぎてるっつの」
プッ、と二人同時に笑う。
「ね、ね、銀ちゃん。私、大人になった?」
「あ?んなすぐなれるかっての。目の下のニキビ、治ってねーぞ」
「う、煩いなァ!」
すぐに銀ちゃんが見違えるほど綺麗になって、驚かして腰を抜けさせてやるんだから!
その時、銀ちゃんは老けているんだザマーミロ!
拝啓、愛しき貴方へ。
私はまだまだ大人になっていきます。
それまでずっとずっと、私の傍にいて下さい。
以上、子供の手紙でした。
To you!!
(企画:Dear Hero様 / 題:siesta)