番外編:思春期男女





――――ぐす、ぐずっ


「・・・・・」


――――ずび、う、ううぅ・・・


「・・・・・」


――――う、うえ、うおえぇぇ・・・


「吐くんじゃねーやぃ!」
「は、吐いてないよぉ、おおぉん・・・」
「さっきからなんでぇ、おぞましい声出して」
「か弱い女の子の泣き声をおぞましい声表現とか何だ」
「本当にか弱い女の子は自分の事をか弱いだなんて言いません」


沖田は足元で蹲っているを足蹴にする。
はすぐさま「何すんじゃい!」と言いながら沖田の足を払った。


「おーおー。そんな元気ありゃ、大した事ねーんだろ、どーせ」
「大した事だよ!土方のバカヤローだよ!いや、皆のバカヤロー!!」
「(また土方か)」


内心で舌打ちしつつ、面倒な事になりそうだと、沖田は頭を掻く。
面倒だと思いながらも話を聞こうとする姿勢はどこか律儀にも見える。


「んで、何があったんでぇ。今回は土方だけじゃねーみてーだが」
「・・・あ!総悟ならここに署名もらえる!?」
「は?」


曇った目から一転、輝いた目で沖田を見ながら一枚の紙切れを沖田の前に突き出す
そこには、『ちゃんの門限改定を求む署名』と題されていた。提出先は土方十四郎(真選組鬼副長)と書かれている。
ちなみに署名者は無し、だ。


「・・・なんだこれ」
「だーかーらー、私の門限って9時でしょ?今時18の娘の門限が9時って早過ぎだと思うんよね。で、ついにぶち切れて署名運動を・・・」


『他の人達には無頓着で私だけ厳しいってのも差別されてるみたいで嫌だし』とは言葉を続ける。
沖田はその署名用紙をの手から受け取り、何を思ったのか、二つに折りたたんだ。
は『部屋に持って帰って書いてくれるのかな?』と、わくわくした気持ちで思う。
しかし、そんなの様子を気にかけず、沖田は折った紙を再び広げた。


、コレ両手に持って。んで、そのまま両手でぴーんと伸ばしといて」
「う、うん・・・?」


訳わからなかったが、は沖田の言われた通りに紙を持ち上げた。
次に沖田は人差し指を立て、が持っている紙へと指を近付ける。




ビッ


軽い力で押されたと同時に紙が折れ線通り綺麗に真っ二つに裂けた。
突然な事には硬直してしまった。


「・・・な、なんでェェェェ!?」
「なーにでメソメソしてんのかと思ったら・・・くだらねぇ」
「私は真剣なんだけどォォ!?つーか、綺麗に裂けたなコレ!」
「前、なんだかの番組でやってたのを思い出した」
「だからって今実行しなくても!」


『後でセロテープ貼っとこう』と、が考えたところでまたもや沖田に用紙を奪われる。
そして、の思考でも読んで裏切るかの如く、二つに裂けた紙を更にビリビリに破り、その場に捨てる。


「アンタさぁ、そんなに私苛めて楽し?私のガラスのハートも粉々だよ、その紙みたく」
「あー、楽し楽し」
「・・・グスン」


はその場に蹲り、床にのの字を書きながらいじけている。


「大体、最近しょっちゅう破ってるじゃねーか」
「だからこそだよ!あの姉には半強制的にお店の手伝いとかさせられるしさー」
「(そもそも警察がキャバクラやるって)」
「下手に反抗したらまた厳しくなるかなって思って署名運動してるのに、皆非協力的でさ。アンタには破られるし」
「皆反対してんだから意味ねーだろぃ」
「何で皆して反対するんだ」


グスン、とは再び落ち込む。
沖田も段々と面倒になってきたのか、口調が棒読み状態になってしまっている。


「心配してくれてるのはありがたいんだけどさ・・・。でも、総悟だって私と同い年なのに総悟は自由に夜出歩けるし・・・。不公平だよ」
「俺は男だから、だろ?」
「男女差別反対。門限制反対。土方の鬼」

「光栄な言葉だな」


は突然の第三者の声に驚き、慌てて立ち上がって後ろを向く。
案の定、ニヒルな笑みを浮かべながら煙草を吸っている土方が立っていた。


「いつからいたんですか、アンタ」
「『総悟は自由に夜出歩ける』あたりからか」
「すいやせん、土方さん。俺のメス豚が我が侭言ってて」
「誰がメス豚!?」
「キャンキャン騒いでるあたり犬だろ。幕府の犬だけあって」
「それもそうですね」
「私は人間ですけど!?」


言われながらもキャンキャン吠えてるに向かって吸っていた煙をフー、と長めに吐き出す。
諸に煙を顔面で受けたはゴホゴホと咳き込む。


「ゲホッ・・・!ひ、酷・・・。目に沁みた」
「悪ィな」


口では謝っているが誠意を感じられない。
それどころか、今はの頭を2,3度叩いてから撫で回している。
その行為に更に苛立ちが募ったのか、ムキーッと叫びながら土方の手を叩き返した。


「おー、怖。なんだ、反抗期か?」
「誰の所為ですかっ、誰の!」
「俺はそんな風にお前を育てた覚えないんだがな」
「お生憎様!私だって育てられた覚えなんてないですよーっだ!」
「そうですぜィ、土方さん。調教したのは俺でさぁ」
「それもないから!大体、何でアンタに調教されなきゃいけないのよ!?」

「え。俺、の事好きだし」


沖田の爆弾発言に目を丸くして固まる二人。
『どーしたんでさぁ、二人共』と沖田が声をかけるまで二人は微動だにしなかった。
我に返ったはみるみるうちに顔を赤くしていく。


「は、はぁっ!?アンタ冗談言うのも大概にしなさいよね!」
「おぅ、そうする」
「やっぱ冗談かァァァ!!もう総悟なんて知らないッ!嫌い!!」


ダダダッ、とはその場を走り去ってしまった。




「・・・いくらなんでもタイミング悪過ぎるだろ、お前」
「やっぱそーですか?(はあぁ・・・)」
「(あの総悟が未だかつて無いほど落ち込んでやがる)」
「なぁ、土方さん。娘さんを俺にくだせーよ」
「まだ渡すか。アイツは今反抗期で手いっぱいなんだからな、こちとら」
「身も心もM女に仕上げますぜ。あぁいう気の強ェ女をドMまでに堕とす、やり甲斐あるってもんでさぁ」
「尚更渡すか。妙にキラキラしてんじゃねーよ」


妄想を膨らませてた沖田だったが、何か気付いたかのように土方に問いかける。


「アイツ今、好きな奴いねーんですかね?」
「アレでもいい年した女だしな。いるだろ、そりゃ(つか、さっきの反応見るあたりお前だろ)」
「でも前、男が芋に見えるとか言ってやせんでした?」
「それはどうかな。ちょっとしたきっかけでコロッといっちまうもんだぜ?」
「・・・どういう意味ですかィ?」
「(あれ、コイツマジで気付いてないのか)女ってのはな、ちょっとした事でときめく時があるってもんよ。ま、人それぞれだけどな」
「・・・て事はアンタ、の好きな奴知ってんですか」
「さーな。流石に知らねぇな(面白いから黙っておこう)」


土方の考えてる事など露知らず、沖田は少し焦ったような表情になる。
土方は心の中でほくそ笑みながら、少し意地悪をしてみる事にした。


「原田とはしょっちゅう遊んでもらってるみたいだしな」
「・・・(ピクッ)」
「いや、この真選組で一番に近いのは山崎だな。アイツはの事(俺でも腹立つくらい)良く知ってるしな」
「(ピクピクッ)」
「それに引き換え、お前はガキみてーににちょっかい出してるしな。アイツは常にケンカ腰だし」
「・・・土方さん。Sは打たれ弱いって前言いましたよね」
「面倒くせー奴だな」



「あ、総悟ー。土方さんもまだいたんだ」


沖田の背後から再び現れた。機嫌はすっかり直ってるらしい。


「まぁな。それより早かったな、機嫌直るの」
「退に泣きついて、ついでに発散としてしばき回したらこの通りです」


ビッと無意味に敬礼のポーズを取り、これまた無駄に凛々しい表情をする
そして、くるりと沖田の方に向き直り、目を合わす。
突然視線が合わさった事で沖田は照れてしまい、思わず逸らしてしまった。


「総悟、ゴメンね。嫌いって言っちゃって」
「あ、いや・・・。べっ、別に気にしてねーよ」
「(凄くショック受けてたじゃねーか)」

「あんな事言ったけど・・・、私も総悟の事好きだよ」


再びの爆弾発言がその場の空気を凍りつかせた。
土方は元から開いている瞳孔が更に開き、沖田は元から大きい目を更に大きくさせている。
・・・と、そこに無機質な機械音が響いた。


「・・・プッ、アッハハハ!なーにコレ!凄い間抜けな顔ー!!」


静寂を切り裂く女の甲高い笑い声。
一瞬何をされたか理解出来ない沖田がそのままの状態で固まっている。
数秒して沖田は我に帰った。


「テメー!何してやがんでィ!消せ!今すぐ!!」
「何って、総悟と同じ事言っただけじゃない。それに、バッチリ保存しちゃったよーん」
「っ!(イラッ)」


頭に血が上った沖田がの持っている携帯を奪う。
そして、それをの目の前で真っ二つに折ってしまった。


「あ゛あ゛あ゛あ゛!!ちょ、何してくれんのよ!折る事ないじゃない!」
「うるせー!!オメーの事なんか知るかッ!」


ガシャンッ!と勢い良く折った携帯を床に叩きつけ、今度は沖田がその場を立ち去った。
あまりの出来事には僅かに目に涙を溜め、その場に居続けてた土方に泣きつく。


「総悟に嫌われたー!(うわぁぁん・・・っ!!)」
「・・・メンドくせーな!お前等二人はよォォ!」
「どーいう事ですかー!退のアドバイスなんて聞かなきゃ良かったー!」


土方の言ってる事が理解出来ないはひたすらわんわん泣き叫んだ。
面白くなってきたと思いつつも、前途多難な二人と、まだに例え相手が総悟でも恋人なんて出来て欲しくないという親心が複雑に絡み合う土方なのであった。






「あー、副長。今度は何してちゃん泣かしたんですかー」
「年下相手に恥ずかしくないんですかー」
「俺じゃねェェェェェ!!(本当に面倒くせーな!)」











END





久々に書きました。本編じゃなくて申し訳ないけど。
なんか話の展開というか、機転が早い?
(2012.5.30)


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