「お願いします、一緒に寝てください、師匠」
「ふざけるな、自分の部屋に戻れ」


平謝りみたく土下座をして頼んではみるが、どうやら効果はないようでピシャリと断られる。
実はこの取引自体、もう何回目かが計り知れない。
凍矢のケチ、と言ってしまいそうになるが、コレ以上刺激してはいけないと思い、寸でのところで止める。


「じゃぁ、一緒に寝るとまでは言わないから、せめてこの部屋で寝させてよー」
「だから、自分の部屋があるだろう。とっとと戻れ。俺の睡眠の妨害するな」
「普段からあまり寝てないくせに(ボソ)」
「あぁ、そうだな。人の寝てる合間にどこぞのバカがバカやらかすから寝るに寝れん」
「(キシャーッ!!)」


嫌味で言ったら応酬受けたんだけど!
チクショー・・・、見た目と性格は好青年なのに、腹ん中真っ黒いんだから!(しかもネチっこい)
でも、コッチだって引き下がれない・・・!


「いや、本当に寝てる間に攻撃仕掛けるとか、そういうの一切しないんで、この部屋で寝かせてください」
「寝言は寝てから言え」
「だって、凍矢しか頼める人いないっていうか、他の人んとこで寝ようとしたら凍矢、怒るでしょー!?」
「当たり前だ」
「昔は一緒に寝てくれたじゃない!外だったけど」
「昔は昔、今は今だ。・・・来い」
「ひゃはわぁ!?」


な、か、担がれた!?
恥ずかしさと驚きで頭ん中混乱して暴れてみるが、抑えられてしまう。
ていうか、何処向かってるんだろ。

しかし、気付くのが少し遅かった。


「嫌だってば!戻りたくないのー!(じたじた)」
「暴れるなっ。大体、自分の部屋だろ。何がそんなに嫌なんだ?」
「うっ。・・・い、言えない」


言ったら絶対笑うもん。
けど、言い訳しようにも中々いいのが思い浮かばない。
アレさえなければそりゃ、寝るよ。自分の部屋で、一人で。

言い訳を考えているうちに部屋に着いちゃったみたい。


「明日も早いんだ。さっさと寝ろ。俺は戻る」
「・・・・・」
?」


一人にして欲しくなくて思わず凍矢の服の裾を掴んでしまった。
振り返って疑問そうに尋ねる凍矢だけど、私は答えられずにいた。
そうしているうちに凍矢が困ったような表情を浮かべた。

違う、凍矢を困らせたい訳じゃない。ただ・・・、


「!(ビクッ)」
「?」
「あ、えっと、な、なんでもない、よ」
「・・・これか?」


凍矢が捕まえたソレを見て一気に血の気が引いた。


「や、ヤダヤダヤダー!!見せないで!どっかやってー!」
「あ、あぁ・・・」




我を失って叫び狂った事を激しく後悔中。


「・・・・・」
「・・・(ふっ)」
「!!」


わ、笑った・・・!普段笑わない奴に笑われるとか傷付くんだけど!(うわーん!)
しかも、堪えるかのように笑うもんだから余計に恥ずかしくなる。
どうせなら陣みたいに笑い飛ばし・・・想像出来ないや。


「すまん・・・。お前でも苦手なもの、あるんだな」
「(あーもう、どっかに消え失せたい)あまり言わないでよ・・・。流石に傷付く」


羞恥で顔が赤くなっている事もあって、俯いた状態から顔をあげられずにいた。
その頭にぽん、と凍矢の手が置かれる。
少し過剰に反応してしまったけど、どこか安心した自分がいる事に気付く。

長年隠し続けた事だけに、バレてしまった時のショックが少し大きかった。
只でさえ弱いのに、更に弱い部分を見られるのはどうにも耐えれる自信がなかった。
まして、こんな生き物に怯えてしまうのはどうも女々しい気がして・・・って、女なんだけどさ。
けど、何故か悔しい気持ちになる。負けたような、そんな気持ち。


「嫌がってた原因はあれだったのだろう?」
「う、うん・・・。アレがいてると思うと恐くて眠れなくて・・・」
「だったら、これでもう大丈夫だろ。俺は戻るからな」


うん、確かに凍矢の言うとおりだよ、でも。
思わず立ち去ろうとする凍矢の服の裾をまた掴む。
少し困惑した顔でコッチを見下ろす凍矢。
だって、やっぱりこのまま帰っちゃうの、少し寂しい。


「今日だけ・・・一緒にいて欲しい」
「・・・あまり女からそういう事、言うもんじゃない」
「え?」


言っている意味がよくわからなくて、聞き返してみたけど、凍矢は顔を赤らめてただけで、それ以上何も言わなかった。

寝る前だったからか、いつも後ろにあげてる髪がおろしている凍矢の姿はあまり見られる姿ではない。
その姿で更に顔が赤くなっていて、滅多に拝めない彼の姿に心臓が跳ねる。
顔が熱くなってくる。きっと、私の顔も赤い。


「どうした?」


顔を覗き込まれ、その至近距離に余計心臓が飛び跳ねる。
凍矢の顔からはいつの間にか赤みが消えていて、代わりに私がどんどん増していく。
何を思ったのか、そんな状態の私に唇を重ねる。
時間にしてみれば1秒にも満たない軽い口付けだったけど、私の思考回路をショートさせるには充分過ぎる。
更に追い討ちをかけるかのように、優しい微笑みを向けられ、今日だけだぞ、なんて低い声で耳元で囁くもんだから、もう訳がわかんない。


「・・・熱いな、少し」


頬に触れてくる手が冷たくて心地よかった。
あぁもう、確信持ってやってるのか、素でやっているのか・・・。
恥ずかし過ぎて、凍矢の胸に顔を埋めて無理矢理眠ろうと試みるが、ドクンドクンと鳴っている心臓と顔が熱い所為で眠れそうになかった。



苦手なものがもう一つ、出来ました。













呪氷使いヒロイン。
やっぱ女の子だからってんで苦手なものの一つや二つと思って・・・。
あのアレ、コレ書いた奴の想像ではクモとGがくっついた虫を想像してました。その名もゴキグモ(ネーミングセンスに泣ける)
けど、描写しなくてもいいかなって。キモいだけだし。
彼は確信犯です。それはもう、計算高く彼女をいじめてたらいいと思います。
そいでもって、打たれ弱かったら尚いいです。ほら、Sの心はガラスのハートで出来てますから。
(2011.4.13)


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