昼間はなんともない廊下でも夜になればまた雰囲気が変わる。
そんな中、布団を抱えながらそろりと歩いてる少女の姿があった。
別に恐がっている様子もなく、足音を立てずに目的地まで向かう。
そして、着くか否か部屋の主に何の断りも無く、おもむろに襖を開いた。


「・・・俺が着替え中とかだったらどうするだ」
「別になんとも思わないからいい」
「逆だったら色んなもの投げてきたくせに」
「それはそれ、これはこれ。男がんな女々しい事言わないの」
「理不尽だべ」


床に就こうとした陣だが、いきなりの訪問客に再び起き上がる。
上半身だけ起こした状態で部屋の戸を開けた彼女を招き入れる。


「どうしたべ、こんな時間に」
「夜這い」
「・・・・・」
「嘘よ。何赤くなってんの」


彼女の性格はわかっていたが、実際にやり取りしているとペースが乱れる。
それも慣れてきたはずなのに、コレばかりは絶句してしまった。
少し悔しい気持ちを抱きながら再び彼女に問う。


「・・・別に理由は特にないんだけど・・・。なんとなくよ」
「ふーん」
「な、なによ、疑ってるの?」


ご丁寧に自分用の布団まで持ってきてなんとなく、は無いだろう。
さて、意地っ張りで天邪鬼なお嬢さんをどう問いただそうか・・・。


「俺、久々に帰ってきたからそろそろ寝たいべ」
「だったら寝ればいいじゃない」
「オメ、部屋に戻らないか?」
「・・・・・」


返事は返って来ない。
自分が寝たいと言っても頑なに動かない彼女。
顔を隠すかのように持っている布団に顔を埋めている。
陣はほぼ、確信していた。


「それとも一緒に寝るべか?」
「な、だっ、誰がアンタなんかと・・・!」
「んじゃ、俺寝るから自分の部屋に帰って欲しいべ」
「ぅ・・・、うぅー・・・」


低く唸る彼女の顔は伺えないが、耳が赤く染まっている。
あと、一押し。


「じゃ、おやすみ」
「あっ、ま、待って陣・・・!」
「ん?」


ニコニコと。
屈託の無いような笑みを浮かべる陣。
嘘を言えない笑顔を向けられ、彼女はようやく本音を口にする。


「い、一緒に寝ても・・・いい?」
「よく言えました」


ポン、と頭に手を乗せ、満足げに微笑む。
そして、そのまま布団の上へと案内し、二人して倒れ込む。

陣はここのとこ、泊りがけで遠出まで見回りをしていた。
陣がいないのはとても静かでつまらなくて寂しくて。
今日帰って来たのも夜で、中々喋る時間なんてなかった。
だからこうして会えなかった分、少しでも傍にいてほしくて部屋まで押し入った次第である。
無邪気に見えるけど、コッチの考えてる事を見透かされていた。
それが悔しくて中々素直に言い出せないのだが、その度に彼にいじられる。
結局、いつの間にか陣のペースにハマってしまっているのだった。


「あ、そういえば、夜這いしに来たんだったべな」
「!ち、ちがっ・・・!アレは嘘だって言ったじゃない!」
「え〜?その気にさせといて、それはないべ」
「ちょ、と・・・!寝るだけってばっ、どこ触っ・・・」
「・・・朝まで離さねーだよ」




強気で勝気で意地っ張りで天邪鬼で、そのくせ人一倍寂しがりやな彼女。
さて、今度はどういう風に困らせようかな・・・?













黒い陣に目覚めたの巻(←)
ヒロインちゃんはツンデレを目指したつもりなんですが、全然ならなかったです。
中二男子みたいに無邪気な顔でエロい事考えてるといいです。
うちの中の陣のイメージはそんな感じです。
(2011.4.13)


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